体心立方格子とは?配位数8・充填率68%・密度の求め方|鉄の変態と低温脆性

赤熱した厚い鋼板がローラーテーブルを流れる鋼板圧延ライン

室温の鉄やタングステン、ナトリウムに共通する結晶構造が体心立方格子(bcc)で、立方体の8つの角と中心に原子が入った形です。単位格子の原子は2個、配位数(接する原子の数)は8、充填率は68%で、一辺 a と原子半径 r の間には 4r = √3a の関係があります。

最も密な詰め方ではないものの、鉄鋼の材料の多くはこの構造の鉄を土台にしています。鉄が912℃で面心立方格子に変わる性質は焼入れの出発点になり、低い温度でもろくなる性質は、船や圧力容器の鋼材選びと検査の基準に表れています。

目次

体心立方格子とは?立方体の中心に原子が1個入った結晶構造

体心立方格子は、立方体の頂点8か所と、立方体のちょうど中心(体心)に原子がある単位格子です。中心の原子は8つの頂点の原子と接していますが、頂点の原子どうしは接しておらず、立方体の辺に沿っては少しすき間があります。

この構造をとる金属には、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属のほか、室温の鉄、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタルがあります。アルカリ土類金属ではバリウムが体心立方格子で、カルシウムやストロンチウムは面心立方格子、マグネシウムは六方最密構造をとります。

図1:体心立方格子の単位格子

頂点の8個は、それぞれ8つの単位格子で分け合うので1/8ずつ、中心の1個はまるごと数えます。

体心頂点一辺 a頂点 1/8 × 8 + 体心 1 = 2個

※白丸は頂点、青い丸は体心の原子です。実際の原子は対角線の上で接していますが、位置が分かるように小さく描いています。点線は体の対角線です。

体心立方格子で押さえる5つの値

結晶構造の計算で求める値は、体心立方格子でも面心立方格子でも同じ5つで、どれも単位格子1つを見れば決まります。答えを先に並べると次のとおりで、一辺 a と半径 r の関係が分かると、残りはその組み合わせで求まります。

  • 単位格子内の原子数:2個
  • 配位数:8
  • 密度:ρ = 2M ÷(NA a3)(M はモル質量、NA はアボガドロ定数)
  • 一辺 a と原子半径 r の関係:4r = √3a
  • 充填率:√3π ÷ 8 ≒ 0.68(68%)

単位格子内の原子数

立方体の頂点にある原子は、その頂点に集まる8つの単位格子で分け合っているため、1つの単位格子に含まれるのは原子の8分の1だけです。頂点は8か所あるので合わせて1個分になり、まるごと入っている中心の1個を加えて2個と数えます。

体心立方格子の単位格子に含まれる原子の数
18 × 8(頂点) + 1(体心) = 2個
頂点の原子は8つの単位格子の角に共有されるので、1つの単位格子には1/8ずつ入ります。面心立方格子では、面の中心の原子(1/2ずつ、6面)が加わって4個になります。

配位数

配位数は、1個の原子に最も近い距離で接している原子の数です。体心の原子に注目すると、立方体の8つの頂点の原子がすべて同じ距離にあり接しているので、体心立方格子の配位数は8です。頂点の原子から見ても、周りの8つの単位格子の体心と接していて、同じ8になります。

その少し外側には、上下・前後・左右の隣の単位格子の体心にある6個の原子が、一辺 a の距離に並んでいます。この距離は最も近い原子との距離(√3a/2 ≒ 0.866a)の約1.15倍しか離れていないので、近くにある原子は合わせて14個になります。

最も近い原子と2番目に近い原子
最近接(配位数):8個、距離 √32 a ≒ 0.866a
第2近接:6個、距離 a
(最近接の 2√3 ≒ 1.15倍)
最近接の距離は、体の対角線 √3a の半分です。原子半径 r で表すと 2r で、原子どうしが接している距離になります。

密度

密度は「質量 ÷ 体積」で、単位を g/cm3 にそろえて、分子に単位格子の中の原子の質量、分母に単位格子の体積を入れれば求まります。原子1個の質量はモル質量[g/mol]をアボガドロ定数[/mol]で割った値なので、単位の掛け算・割り算を追うだけで式を組み立てられます。

単位格子の質量(原子2個分)
質量 = 2 × M[g/mol]NA[/mol] = 2MNA[g]
単位格子の体積と密度
体積 = a3[cm3]
ρ = 2MNA a3[g/cm3]
M:モル質量[g/mol](原子量に g/mol を付けた値) NA:アボガドロ定数 6.022 × 1023/mol a:単位格子の一辺[cm]。1 nm = 10−7 cm、1 pm = 10−10 cm です。

原子量とモル質量のちがいや、g/mol を使った換算の考え方はモル質量と原子量・分子量の違いで整理しています。密度の式に a = 4r/√3 を入れると半径 r でも表せますが、実際の材料では測定した格子定数 a をそのまま使うほうが確実です。

単位格子の一辺 a と原子半径 r の関係(4r = √3a)

体心立方格子で原子が接しているのは、頂点と体心を結ぶ体の対角線の上です。そこで、向かい合う2本の辺を通る面で立方体を切ると、横 √2a・縦 a の長方形の対角線に、原子3個が一列に並んだ断面が現れます。

図2:体の対角線を通る断面

断面の対角線は、三平方の定理で √3a、原子の並びで見ると半径4つ分の4rです。

a√2 a対角線 = √3 a = r + 2r + r = 4r→ r = √3a ÷ 4 ≒ 0.433a

※四隅の原子は断面に4分の1ずつ、中央は体心の原子です。原子の大きさは実際の比率で描いています。辺の上では原子どうしが離れていることも分かります。

体の対角線を2通りに表す
面の対角線 = √(a2 + a2) = √2 a
体の対角線 = √((√2 a)2 + a2) = √3 a
原子の並び:r + 2r + r = 4r
4r = √3a
r = √34 a、a = 4√3 r
a:単位格子の一辺 r:原子半径。対角線の両端の原子は半径 r ずつ、中央の体心の原子は直径 2r が対角線にかかります。面心立方格子では面の対角線の上で接するので 4r = √2a になります。

この関係を使うと、X線回折で測った格子定数から金属結合半径を求められます。鉄の a = 286.65 pm を入れると r ≒ 124 pm で、8配位と12配位で半径の値が少し変わる理由や、ほかの金属との比べ方は原子半径の大小関係と測り方で詳しく扱っています。

充填率

充填率は、単位格子の体積のうち原子そのものが占める割合です。分子に原子2個分の球の体積、分母に立方体の体積 a3 を置き、4r = √3a で r を a に置き換えると、a3 が分子と分母で打ち消し合い、元素によらない定数になります。

体心立方格子の充填率
充填率 = 2 × 43πr3a3
r = √3a/4 を代入
= 2 × 43π × 3√364 a3a3 = √3 π8
≒ 0.680 = 約68%
(√3/4)3 = 3√3/64。√3π ÷ 8 = 1.7321 × 3.1416 ÷ 8 = 0.6802 です。残りの約32%が原子の間のすき間で、面心立方格子・六方最密構造の74%より6ポイントほど少なくなります。

鉄の格子定数で計算してみる

ここまでの式を、室温の鉄(α鉄)で使ってみます。元素データベース WebElements(英シェフィールド大学)では、鉄の格子定数は a = 286.65 pm で、単位格子1つの体積は約2.36 × 10−23 cm3とごく小さな立方体です。

計算例:鉄(α鉄)の単位格子から求める4つの値
原子数:18 × 8 + 1 = 2個
単位格子の体積
a3 = (2.8665 × 10−8 cm)3
= 2.3554 × 10−23 cm3
1 cm3 あたりの原子数
22.3554 × 10−23 cm3 = 8.49 × 1022 個
密度
ρ = 2 × 55.845 g/mol6.022 × 1023/mol × 2.3554 × 10−23 cm3
= 1.8547 × 10−22 g2.3554 × 10−23 cm3 = 7.87 g/cm3
最近接距離
√32 a = 0.8660 × 286.65 pm = 248 pm
a は室温の測定値(WebElements が引く Kohlhaas ほか、1967年)。鉄のモル質量 55.845 g/mol。単位格子の質量は 2 × 55.845 ÷ (6.022 × 1023) = 1.8547 × 10−22 g、最近接距離248 pm は 2.48 × 10−8 cm です。

計算した7.87 g/cm3は、物質・材料研究機構(NIMS)の資料にある鉄の密度7.87とそろっていて、格子定数と原子量だけで材料の密度を再現できることが分かります。原子の配列にすき間が少なく、単位格子の測定値が正確だからこそ、計算と実測が小数第2位まで合います。

教科書の問題では、a = 2.9 × 10−8 cm、Fe = 56、NA = 6.0 × 1023/mol のような丸めた値で解くことがよくあります。この場合は1 cm3あたり8.2 × 1022個、密度約7.7 g/cm3、最近接距離2.5 × 10−8 cm です。

a を3乗するので、一辺の丸めの1%ほどの差が、密度では3%ほどの差に広がります。

面心立方格子・六方最密構造との違い

金属の結晶構造は、体心立方格子、面心立方格子、六方最密構造の3つでほとんどを占めます。面心立方格子と六方最密構造はどちらも同じ大きさの球を最も密に積んだ最密構造で、配位数12・充填率74%ですが、体心立方格子は配位数8・充填率68%と、すき間の多い構造です。

図3:3つの結晶構造の単位格子

原子が入る場所の違いが、配位数・充填率・単位格子の原子数の違いになります。

体心立方格子(bcc)頂点8+体心1原子数2・配位数8・充填率68%。4r = √3a。室温の鉄、クロム、タングステン、ナトリウム
面心立方格子(fcc)頂点8+面の中心6原子数4・配位数12・充填率74%。4r = √2a。アルミニウム、銅、ニッケル、γ鉄
六方最密構造(hcp)六角柱+中ほどに3個原子数2(六角柱で6)・配位数12・充填率74%。マグネシウム、チタン(α相)、亜鉛

※原子は位置が分かるように小さく描いています。六方最密構造の単位格子は六角柱の3分の1にあたるひし形の柱です。

項目体心立方格子面心立方格子(立方最密)六方最密構造
単位格子の原子数242(六角柱では6)
配位数81212
一辺 a と半径 r4r = √3a4r = √2aa = 2r(c ≒ 1.633a)
充填率68%(√3π/8)74%(π/(3√2))74%(π/(3√2))
原子の層の積み方最密の層をもたないABCABC…ABAB…
主なすべり系の数12({110}面。{112}・{123}面も数えると48)12({111}面×3方向)3(底面)
代表的な金属室温の鉄、クロム、モリブデン、タングステン、ナトリウムアルミニウム、銅、ニッケル、オーステナイト系ステンレスマグネシウム、チタン(α相)、亜鉛、コバルト
低温での性質延性脆性遷移を示し、低温でもろくなる極低温でも延性を保つ金属・合金によって違う
充填率は計算値。すべり系の数は NPTEL(インド工科大学の公開講義)、低温での性質は大阪大学低温センターの解説による。六方最密構造の値は「六方最密構造の密度・充填率・配位数の求め方」と同じ

六方最密構造の単位格子の数え方や、面心立方格子と同じ値になる理由は六方最密構造の密度・充填率・配位数の求め方にまとめています。原子が金属結合でつながるこれらの結晶と、ダイヤモンドやドライアイスのような結晶の違いは共有結合の結晶と分子結晶の違いで比べています。

体心立方格子をとる主な金属の格子定数から密度を計算すると、次の表のようになります。どれも同じ式 2M/(NA a3) で求めた値で、充填率が同じでも原子1個の重さと大きさの違いで密度は20倍も開きます。

金属a(pm)モル質量(g/mol)格子定数から求めた密度(g/cm3)原子半径 √3a/4(pm)
ナトリウム429.0622.9900.967185.8
鉄(α鉄)286.6555.8457.87124.1
モリブデン314.795.9510.22136.3
タングステン316.52183.8419.25137.1
格子定数は室温付近の測定値(WebElements、各元素の原著文献)。密度と原子半径はこの記事で計算した値。鉄の資料の密度は物質・材料研究機構による7.87 g/cm3

モリブデンとタングステンは格子定数がほぼ同じなのに、原子が2倍近く重いタングステンは密度も約2倍になります。体心立方格子の金属は合金の主成分にも添加元素にもなり、鉄にクロムやモリブデンを加えた鋼が、構造用・耐熱用の材料として広く使われています。

実際の工場では:鉄の変態(α鉄 ⇄ γ鉄)と焼入れ

純鉄は温度で体心立方と面心立方を行き来する

純鉄は温度によって結晶構造が入れ替わる金属で、室温から912℃(資料によっては約910℃)までは体心立方格子のα鉄、それより高い温度では面心立方格子のγ鉄になります。さらに約1,400℃を超えると再び体心立方格子のδ鉄に戻り、そのまま融点に達します。

図4:温度で変わる純鉄の結晶構造

鉄は加熱すると体心立方→面心立方→体心立方と2回構造を変えます。鋼の焼入れや焼ならしは、面心立方(オーステナイト)になる温度まで加熱するところから始まります。

α鉄(フェライト):体心立方格子室温〜912℃。炭素はわずかしか溶けない。ふつうの鋼材の土台になる構造
912℃(約910℃)で変わる
γ鉄(オーステナイト):面心立方格子912℃〜約1,400℃。炭素を多く溶かし込める。焼入れはこの状態から急冷する
約1,400℃で変わる
δ鉄:体心立方格子約1,400℃〜融点。再び体心立方格子に戻る

※純鉄の値で、上から下へ温度が高くなる順に並べています。冷やすときは逆の順に変わります。炭素や合金元素を加えた鋼では、変態の温度が成分によって変わります。

この変態が工業的に重要なのは、2つの構造で炭素を溶かし込める量が大きく違うからです。面心立方のγ鉄は高温で約2%まで炭素を溶かせますが、体心立方のα鉄は約0.02%しか溶かせず、その理由になる原子のすき間の大きさは原子半径の記事の侵入型固溶の章で比べています。

焼入れとマルテンサイト変態

鋼をγ鉄の温度まで加熱して炭素を溶かし込み、そこから水や油で急に冷やすと、炭素が逃げ出す時間がないまま結晶が体心立方に近い形へ一気に組み替わります。これがマルテンサイト変態で、焼入れで鋼が硬くなるのは、溶け込んだ炭素が無理に閉じ込められた結晶ができるからです。

変態が始まる温度(Ms点)は鋼の成分で決まり、熱処理の条件を決める基準になります。焼入れ・焼戻し・焼なまし・焼ならしで何をねらうかは鋼の熱処理の基本と使い分けで整理しており、加熱温度の多くはこの体心立方から面心立方への変態点を目安に決まります。

鉄にニッケルを多く加えると、室温まで面心立方格子のまま保てるようになり、これがSUS304などのオーステナイト系ステンレスです。クロムを主に加えたSUS430のようなフェライト系は体心立方格子のままで、同じステンレスでも磁石につくかどうかや低温での性質が違ってきます。

高炉と転炉でつくった鋼は、圧延・鍛造のあとの冷え方や熱処理でα鉄とγ鉄の間を行き来し、そのたびに組織が変わります。同じ成分の鋼でも強さや粘り強さが変わるのは、この変態の通り方を工場で制御しているからです。

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実際の工場では:体心立方の金属が低温でもろくなる理由

シャルピー衝撃試験で割れた鋼の試験片の破面を手に取って見る手元

体心立方格子の金属には、温度が下がるとある温度範囲で急にもろくなる「延性脆性遷移」という性質があります。

大阪大学低温センターの解説では、鉄鋼やタングステン、モリブデン、クロムなど体心立方の金属は一般に低温脆性を示し、普通鋼は低い温度ではほとんど伸びずに壊れるとされています。

一方で、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼(オーステナイト系)など面心立方格子の金属は、極低温でもある程度伸びてから壊れます。ただし遷移温度は結晶構造だけでは決まらず、同じ体心立方の鋼でも成分・結晶粒の大きさ・熱処理の履歴で数十℃単位で動きます。

延性脆性遷移とシャルピー衝撃試験

低温でもろくなる理由は、体心立方格子では原子の面をずらす転位が、温度が下がるにつれて動きにくくなるからです。転位が動けないと、材料は変形して力を逃がす前に結晶の面に沿って割れ(へき開)、小さな傷や切欠きを起点に、き裂が一気に走る脆性破壊になります。

この性質を調べるのがシャルピー衝撃試験で、V字の切欠きを入れた角棒の試験片をハンマーで打ち、割るのに吸収されたエネルギーを測ります。温度を変えて試験すると、図5のように高温側では大きく、低温側では小さくなる曲線が描け、その境目が延性脆性遷移温度です。

図5:シャルピー衝撃試験の吸収エネルギーと温度(模式図)

体心立方の鋼は、ある温度より下で吸収エネルギーが急に落ちます。面心立方の金属にはこの落ち込みがありません。

体心立方の鋼面心立方の金属脆性破壊延性破壊遷移温度低温高温試験温度吸収エネルギー

※形を示すための模式図で、数値は入れていません。遷移温度は鋼の成分、結晶粒の大きさ、切欠きの有無、力を加える速さで変わります。

遷移温度は、鋼に含まれる炭素・酸素・窒素などの量や、結晶粒の大きさで大きく動き、同じ解説ではごく微量の元素でも影響が大きいと指摘しています。そこで、低温で使う船体や圧力容器の鋼材は、使う温度で試験片が所定の吸収エネルギーを満たすかをシャルピー試験で確かめてから使われます。

鋼の溶接部は、溶けて固まった金属と熱の影響を受けた部分で組織が変わるので、母材とは別に靱性を確かめます。継手の種類や溶接法の選び方は溶接の種類と違いで扱っていて、低温で使う構造物ほど、溶接の条件と試験の結果が品質記録の中心になります。

リバティー船とタイタニックの鋼板

体心立方の鋼の低温脆性が広く知られるきっかけになったのが、第二次世界大戦中の米国の戦時標準船です。

科学技術振興機構の失敗知識データベースによると、全溶接のリバティー船は1939〜1945年に2,708隻つくられ、1946年4月までに脆性破壊による損傷・事故が1,031件報告されました。

このうち200隻以上が沈むか使えなくなり、1943年1月にはT2型タンカーのスケネクタディ号が、岸壁に係留されたまま大きな音とともに真っ二つに折れています。主な原因は溶接継手の低温での靱性不足とされ、応力が集中する構造と溶接の欠陥が重なって、冬の低温で多く起きました。

この事故を受けて、炭素を減らしマンガンやケイ素を加えた溶接に向く鋼が開発され、き裂の進み方を力学で評価する破壊力学が体系づけられました。数字は文献で違い、別の集計では損傷1,289隻・重大な損傷233隻とされていて、同じデータベースもその差を断っています。

1912年に沈んだタイタニックの船体の鋼板も、米国標準技術研究所(NIST)が1998年に調べています。27 Jを基準にした延性脆性遷移温度は、回収した鋼板の長手方向で+40℃、横方向で+70℃と、比較に使った現代の鋼(ASTM A36)の−15℃よりはるかに高い値でした。

衝突したときの海水は−2℃で、鋼板は氷水の温度ではもろい状態だったことになり、マンガンが少ないことや結晶粒の粗さが原因に挙げられています。ただし報告は、船首の損傷に効いた可能性はあるものの、海面で船体が折れたときに効いた可能性のほうがずっと高いとしています。

同じ報告は、スラグを多く含んだ錬鉄のリベットが損傷の形に関わった可能性にも触れていて、鋼板の性質だけで沈没を説明してはいません。報告の著者は、当時の知識の範囲では明らかな冶金上の誤りはなかったという見解も示しており、延性脆性遷移という考え方そのものが、これらの事故を通して材料選びに組み込まれていきました。

すべり系と加工性

金属を曲げたり延ばしたりできるのは、結晶の中で原子の面がずれる「すべり」が起こるからです。体心立方格子には最密の原子の面がなく、最も詰まった{110}面で12通りのすべり系があり、{112}面・{123}面も数えると48通りになります(NPTEL)。

すべり系の数だけを見れば面心立方格子の12と同じかそれ以上あり、室温で鋼板を自動車のボディのような形にプレスできるのも、こうした滑りやすさが一因です。六方最密構造の金属のように室温ですべる面が底面の3つに限られ、温めて加工することが多い金属とは違います。

ただし体心立方格子のすべりは温度に敏感で、低温ほど転位が動きにくく、変形に大きな力が要ります。室温ではよく延びる鋼が、冬の屋外や低温の設備ではもろくなるのは、前の章で見た延性脆性遷移と同じ理由で、加工の条件を決めるときも使う温度での性質を確かめる必要があります。

X線回折(XRD)で体心立方と面心立方を見分ける

工場や研究所で結晶構造を確かめるときに使うのがX線回折(XRD)で、回折ピークの位置と強さから結晶相を見分けます。立方晶の金属では、ピークが出る面の組み合わせに構造ごとの規則があり、体心立方格子では面指数の和 h + k + l が偶数の面だけがピークになります。

面心立方格子では、h・k・l がすべて奇数かすべて偶数の面だけがピークになるので、低い角度から(111)・(200)・(220)の順に並びます。体心立方格子は(110)・(200)・(211)の順で、ピークの間隔の比を見ると、格子定数を知らなくても2つの構造を区別できます。

立方晶の面間隔とブラッグの公式
1d2 = h2 + k2 + l2a2
2d sinθ = λ
計算例:α鉄の(110)面(Cu Kα1、λ = 0.15406 nm)
d = a√2 = 0.28665 nm1.4142 = 0.20269 nm
sinθ = 0.154062 × 0.20269 = 0.3800
θ = 22.33° → 2θ ≒ 44.7°
d:格子面の間隔 θ:ブラッグ角(2θ が回折角) λ:X線の波長 h・k・l:面指数。同じ手順で(200)は65.0°、(211)は82.3°になります。a は WebElements の室温の値です。

図6:回折ピークが出る面の並び(模式図)

横軸に h²+k²+l²(sin²θ に比例)をとると、体心立方は2・4・6・8…と等間隔、面心立方は3・4、8、11・12…と間隔が不ぞろいで並びます。

体心立方格子(α鉄など)面心立方格子(γ鉄など)(110)(200)(211)(220)(310)(222)(111)(200)(220)(311)(222)246810123481112h²+k²+l²(大きいほど高い角度)

※棒の位置だけを示した図で、高さはピークの強さを表しません。実際の回折角は格子定数で決まり、同じ番号でも体心立方と面心立方では角度が違います。

この見分け方が品質管理で生きるのが、焼入れした鋼に残るオーステナイト(残留オーステナイト)の測定です。大阪府立産業技術総合研究所の技術資料は、残留オーステナイトが焼入れで生じて割れや寸法変化の原因になることがあり、両相の回折強度の比から体積率を求めると説明しています。

マルテンサイト(体心立方に近い構造)とオーステナイト(面心立方)は回折する角度が違うので、それぞれのピークの面積を比べれば量が分かります。

ピークの位置は格子定数や合金元素でずれるため、並び方の規則は見当をつける手がかりにとどめ、相の判定は複数のピークで行います。同研究所の装置は表面に近い浅い範囲を点で測るもので、部品を壊さずに熱処理の仕上がりを確かめられます。

実際の分析では、測ったパターンを国際回折データセンター(ICDD)などのデータベースと照らし合わせて結晶相を決めます(リガクジャーナルの基礎講座)。

熱処理の条件が仕様どおりかを受入れや出荷の段階で確かめる測定は、部品メーカーの品質保証の仕事の中で、硬さ試験や組織観察と組み合わせて使われています。

体心立方格子のよくある質問

体心立方格子の最近接距離はいくつですか?

最も近い原子どうしの中心間の距離は、体の対角線 √3a の半分で √3a/2 ≒ 0.866a です。原子が接しているので原子半径の2倍(2r)に等しく、鉄では a = 286.65 pm から約248 pm になります。

体心立方格子と面心立方格子で、一辺と半径の関係が違うのはなぜですか?

原子が接している方向が違うからです。体心立方格子では頂点と体心を結ぶ体の対角線の上で接するので 4r = √3a、面心立方格子では面の対角線の上で接するので 4r = √2a になります。

アルカリ土類金属はすべて体心立方格子ですか?

すべてではありません。室温で体心立方格子をとるのはバリウムで、カルシウムとストロンチウムは面心立方格子、ベリリウムとマグネシウムは六方最密構造です。アルカリ金属(リチウム・ナトリウム・カリウムなど)は、室温ではどれも体心立方格子をとります。

充填率が低い体心立方格子の金属は軽いのですか?

充填率だけでは決まりません。密度は原子1個の質量と大きさで大きく変わり、同じ体心立方格子でもナトリウムは約0.97 g/cm3、タングステンは約19.3 g/cm3です。充填率の差(68%と74%)が効くのは、同じ元素の中で結晶構造が変わる場合に限られます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 体心立方格子は立方体の頂点と中心に原子がある構造で、単位格子の原子数は2個、配位数は8
  • 原子は体の対角線の上で接し、4r = √3a。充填率は √3π/8 ≒ 68%で、最密構造の74%より低い
  • 密度は 2M/(NA a3)。鉄の a = 286.65 pm から7.87 g/cm3と資料の値どおりになる
  • 鉄は912℃で体心立方から面心立方に変わり、この変態と炭素の溶け込み方の違いが焼入れの土台になる
  • 体心立方の金属は低温でもろくなる延性脆性遷移を示し、シャルピー試験で確かめる。XRD ではピークの並びで面心立方と区別できる

体心立方格子は、立方体1つの幾何から密度・充填率の計算、鉄の熱処理、低温での割れ、X線回折の読み方までを1本の筋でつなげられる構造です。

結晶構造の違いが材料選びにどう効くかは材料技術の基本で、格子と半径の関係をイオン結晶で使う考え方はイオン半径の大小関係で整理しています。

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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