ボルタ電池の反応式と分極とは?減極剤の働きとダニエル電池との違い

希硫酸のビーカーに立てた亜鉛板と銅板、銅板に付く細かい気泡

ボルタ電池は、希硫酸に亜鉛板と銅板を浸して導線でつないだ電池で、亜鉛が溶けて電子を出し、その電子を銅板の表面で水素イオンが受け取って水素になります。全体の反応はZn+H2SO4→ZnSO4+H2で、負極が亜鉛、正極が銅です。

1800年に発表された、持続する電流を初めて取り出した化学電池ですが、電流を流すと電圧がすぐに下がる「分極」が弱点でした。異なる金属を電解液でつなぐとどちらかが溶けるというしくみは、配管の異種金属接触腐食や船・港湾の犠牲陽極として、いまも工場や現場に現れます。

後半ではダニエル電池との違いと歴史に触れたあと、異種金属接触腐食、犠牲陽極、電池の内部抵抗の測り方へ広げます。

目次

電池を読む前に:負極は還元剤、正極は酸化剤

電池の極は「イオン化傾向の大きい金属が負極」と覚えられがちですが、この覚え方は極板が金属でない電池では使えません。負極は電子を出す側(還元剤が酸化される場所)、正極は電子を受け取る側(酸化剤が還元される場所)と、電子のやりとりで決めると、どの電池にも同じ考え方が通じます。

イオン化傾向が大きい金属は電子を出しやすい還元剤なので、金属どうしの電池では結果として負極になります。一方で燃料電池の負極は水素、正極は酸素で、極板の白金や炭素は反応の場を貸しているだけです。

電子を出す物質と受け取る物質を、酸化剤と還元剤の半反応式で書き分けると見通しがよくなります。

言葉にも注意が要ります。電池では電子を出す負極がアノード、受け取る正極がカソードで、+側がアノード(陽極)になる電気分解とは+・−との対応が逆になるため、ボルタ電池の正極の銅板を「陽極」と呼ぶのは誤りです。

ボルタ電池の原理と構成

ボルタ電池は、負極に亜鉛(Zn)、正極に銅(Cu)、電解液に希硫酸(H2SO4の水溶液)を使います。濃硫酸ではなく水で薄めた硫酸で、水の中で電離した水素イオン(H+)が正極の反応の相手になります。

図1:ボルタ電池の構成

亜鉛板と銅板を希硫酸に浸し、外を導線でつなぎます。電子は導線を亜鉛から銅へ、電流はその逆向きに流れます。

電子 e⁻ の流れ →負極:亜鉛 Zn正極:銅 CuZn²⁺H₂← 電流の向きH⁺H⁺希硫酸

※銅板そのものは溶けません。銅板は電子を受け渡す場で、電子を受け取るのは液中のH⁺です。

原理:異なる金属を離して、導線と電解液でつなぐ

電池が働くには、電子を出す物質と受け取る物質を直接触れさせずに分け、外側は導線で、内側はイオンが動ける電解液でつなぐ必要があります。亜鉛を希硫酸に入れただけでは、亜鉛の表面で電子の受け渡しが済んでしまい、外へ電流を取り出せません。

亜鉛と銅を比べると、標準電極電位は亜鉛が−0.76 V、銅が+0.34 Vで、電位の低い亜鉛のほうが電子を出しやすく、負極になります。電子は導線を亜鉛から銅へ流れ、電流の向きはその逆で、正極(銅)から負極(亜鉛)へ流れると表します。

ボルタ電池の反応の流れ

ボルタ電池の中では、亜鉛の溶け出し、導線を通る電子の移動、銅板の上での水素の発生が、ひと続きで起きています。どれか1つが止まると電流も止まるため、正極で電子を受け取る反応が進み続けるかどうかが、電池の性能を左右します。

図2:電子が負極から正極へ移る3段階

亜鉛が出した電子が導線を通り、銅板の表面でH⁺に渡るまでの流れです。

負極亜鉛が溶けて電子を出すZn → Zn²⁺ + 2e⁻。亜鉛イオンが液に溶け出し、電子が亜鉛板に残る
外部回路電子が導線を流れる電子は亜鉛板から導線を通って銅板へ移る。途中の電球やモーターで仕事をする
正極H⁺が電子を受け取る2H⁺ + 2e⁻ → H₂。銅板の表面で水素が泡になって出る

※液の中では、亜鉛イオン(陽イオン)と硫酸イオン(陰イオン)が動いて電気のつり合いを保ちます。

液の中では電子は流れず、代わりにイオンが動いて電荷の偏りを打ち消します。負極の近くでは亜鉛イオンが増え、正極の近くではH+が減るので、陽イオンは正極側へ、陰イオンは負極側へ寄っていきます。

ボルタ電池の反応式と電池式

負極と正極の半反応式を足し、電子を消すと、電池全体のイオン反応式になります。両辺に硫酸イオンを足せば、亜鉛と希硫酸の化学反応式と同じ形で、ボルタ電池は「亜鉛が酸に溶けて水素が出る反応」を、電子だけ導線に回り道させたものと読めます。

負極(亜鉛板):酸化
Zn → Zn2+ + 2e−
正極(銅板):還元
2H+ + 2e− → H2
全体(イオン反応式)
Zn + 2H+ → Zn2+ + H2
全体(化学反応式。両辺に SO42− を1個足す)
Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2
電池式
(−) Zn | H2SO4aq | Cu (+)
検算(イオン反応式):Zn 1=1、H 2=2、電荷 +2=+2。(化学反応式):Zn 1=1、H 2=2、S 1=1、O 4=4。電池式は左に負極、右に正極を書き、|は電極と液の境目を表します。

流れた電気の量から、溶ける亜鉛と出る水素の量も計算できます。電子1 molの電気量はファラデー定数の96,485 Cで、電気分解と同じ考え方で、電子2 molあたり亜鉛1 molが溶けて水素1 molが出ます。

計算例:1.0 Aの電流を1時間取り出したとき
電気量 = 1.0 A × 3,600 s = 3,600 C
電子 = 3,60096,485 = 0.0373 mol
溶ける亜鉛 = 0.0373 ÷ 2 × 65.38 = 1.22 g
出る水素 = 0.0187 mol × 24.79 L/mol = 0.46 L
亜鉛のモル質量 65.38 g/mol。水素の体積は25℃・1 barの理想気体(24.79 L/mol)で計算。亜鉛板の上で直接溶ける分(自己放電)は含まない、電流として取り出した分だけの量です。

ボルタ電池の反応まとめ

負極では亜鉛が電子を出して亜鉛イオンになり、正極では銅板の表面でH+が電子を受け取って水素になり、全体ではZn+H2SO4→ZnSO4+H2です。正極の銅は反応式に出てこず、電子の通り道と受け渡しの場として働くだけです。

見落とされやすいのが、亜鉛板の上でも直接水素が出る反応です。亜鉛の表面の不純物や結晶の境目が小さな電池(局部電池)をつくり、電流を取り出していなくても亜鉛が溶けていくため、ボルタ電池は自己放電の大きい電池とされています。

ボルタ電池の欠点:起電力を保てない

ボルタ電池の最大の欠点は、電流を流しはじめると電圧がすぐに下がり、一定の電圧を保てないことです。百科事典では開回路電圧(電流を流していないときの電圧)を約1.1 Vとし、分極による電圧降下が著しいと説明しています。

ここで混同しやすいのが、計算で求める理論値、電流を流さずに測る開回路電圧、電流を流したときの端子電圧の3つです。ボルタ電池ではこの3つが大きく食い違い、それぞれ前提が違います。

電圧の種類ボルタ電池での値前提・意味
理論値(標準起電力)0.76 V25℃・標準状態で、正極の相手がH+/H2のときの計算値:0 −(−0.76)
開回路電圧(作りたて)約1.1 V電流を流さずに測った値(化学辞典ほか)。理由は銅の表面の酸化物が関わるとする説明などがあり、条件で変わる
端子電圧(電流を流しているとき)開回路電圧より大きく下がる分極と内部抵抗の分だけ下がる。下がり方は電流・電極の面積・液の状態で変わる
理論値は標準電極電位(Chemistry LibreTexts)から計算。開回路電圧は辞典の値で、測定条件で変わる

理論値0.76 Vと作りたての約1.1 Vの差

起電力の理論値は、正極と負極の標準電極電位の差で求めます。正極で電子を受け取るのがH+なら、相手の電位は0 Vなので、亜鉛との差は0.76 Vで、銅の電位(+0.34 V)は計算に入りません。

起電力の理論値(標準状態)
E° = E°正極 − E°負極 = 0 −(−0.76)= 0.76 V
反応のギブズエネルギー(電子2個)
ΔG° = −nFE° = −2 × 96,485 × 0.762 = −147 kJ/mol
濃度が変わったとき(ネルンスト式、水素は1 bar)
E = E° − 0.05922 log [Zn2+][H+]2
(例)[H+]=1、[Zn2+]=0.01 mol/L → 0.762 + 0.059 = 0.82 V
E°:標準起電力[V] n:やりとりする電子の数(2) F:ファラデー定数 96,485 C/mol Zn²⁺/Zn の標準電極電位 −0.7618 V(25℃)。ΔG° は亜鉛イオン(水溶液)の標準生成ギブズエネルギー −147 kJ/mol と一致します。濃度の影響は0.1 V未満で、1.1 Vとの差は説明できません。

作りたての電池が1 V前後を示す理由は、1つに決まった説明が定着しているわけではありません。1つの説明を紹介します。神奈川大学の講義資料は、銅板の表面の酸化銅がCuO+2H++2e−→Cu+H2O(標準電極電位+0.556 V)で電子を受け取り、H+より電位の高い相手と組んだ電池になると述べています。

この資料の説明はレモン電池のもので、ボルタ電池に当てはめた考え方です。酸化銅だけの計算(0.556+0.76=1.32 V)は実測の約1.1 Vと一致せず、実際の値は表面の状態や溶液の条件で変わります。

図3:標準電極電位のはしごで見る起電力

起電力は「電子を受け取る相手」と亜鉛の電位の差で決まります。相手がH⁺なら0.76 V、Cu²⁺なら1.10 Vです。

−0.760+0.34+0.56+1.23Zn²⁺/Zn(亜鉛)H⁺/H₂(水素)Cu²⁺/Cu(銅)CuO/Cu(酸化銅)O₂/H₂O(酸素)ボルタ0.76 Vダニエル1.10 V電位(V)

※25℃の標準電極電位(Chemistry LibreTexts。酸化銅は神奈川大学の講義資料)による理論値で、測定値ではありません。実際の電池では過電圧の分だけ低くなります。

電流を流しはじめると、こうした上乗せ分は小さくなり、残る相手はH+になり、理論値の0.76 Vからさらに水素を出すための余分な電圧(過電圧)が差し引かれるため、端子電圧は大きく下がります。

分極の原因:水素の気泡と過電圧

分極とは、電流が流れることで電極の電位が平衡の値からずれ、電池の端子電圧が下がる現象の総称です。ボルタ電池では正極の銅板で出る水素が原因の中心で、気泡が電極をふさぐこと、水素を出す反応が遅いこと、電極の近くの濃度の偏り、液や接触部の抵抗が重なっています。

電流 I を流しているときの端子電圧
V = E − η正極 − η負極 − I × r
V:端子電圧[V] E:開回路の起電力[V] η:電極の過電圧(活性化・濃度)[V] r:電解液・接触部などの内部抵抗[Ω]。分極は広い意味では η と I×r の両方を含み、ボルタ電池では正極の η が大きくなります。

図4:分極を起こす4つの要因

ボルタ電池の電圧が下がる理由は、水素の泡だけではありません。

気泡が電極をふさぐ銅板に付いた水素の泡が、液と触れる面積を減らし、電流の通り道をせばめる見た目で分かる
水素過電圧(活性化過電圧)銅の上でH⁺を水素にする反応は遅く、進めるのに余分な電圧が要る。電流を増やすほど大きい電極の材料で変わる
濃度分極銅板の近くでH⁺が使われて薄くなり、補給が追いつかないと電位がずれるかき混ぜると減る
内部抵抗(IR損)電解液・泡の層・端子の接触の抵抗で、電流×抵抗の分だけ電圧が下がる電流に比例

※過電圧の分類(活性化・濃度・抵抗)は世界大百科事典・ブリタニカの「過電圧」による。

気泡が電極をふさぐ

銅板に付いた水素の泡は、液と電極が触れる面積を減らし、泡の層そのものが電気を通しにくい壁になります。ブリタニカの「電池」の項も、銅の電極に水素の泡が集まって電子の流れを止めるため寿命が短かった、と説明しています。

水素過電圧:銅の上では水素が出にくい

泡を取り除いても、電圧は理論値どおりには戻りません。H+が電子を受け取って水素分子になる反応には、電極の材料ごとに決まった「出にくさ」があり、反応を進めるのに理論値より余分にかかる電圧を水素過電圧と呼びます。

水素過電圧は白金やパラジウムで最も小さく、銅、カドミウム、スズ、鉛、亜鉛、水銀の順に大きくなると百科事典は説明しています。電流を増やすほど過電圧も大きくなるので、ボルタ電池から大きな電流を取ろうとするほど電圧が落ちます。

同じ水素過電圧は、工業の電解では電気代を左右する損失になります。電気分解のセル電圧が理論値より高くなるのも、燃料電池の電圧が1.23 Vに届かないのも、電極の上の反応を進めるための過電圧があるためです。

濃度分極と内部抵抗

電流を流し続けると、銅板の近くではH+が使われて薄くなり、亜鉛板の近くでは亜鉛イオンが濃くなります。液をかき混ぜずに置くと補給が追いつかず、電極の近くの濃度で決まる電位がずれていくのが濃度分極です。

これに電解液や端子の接触の抵抗による電圧降下(電流×抵抗)が加わります。電流を止めると泡と濃度の偏りが少しずつ戻り、電圧も回復するので、分極は電極が壊れたのではなく、電流を流している間の「渋滞」と考えると分かりやすくなります。

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ボルタ電池の欠点の解決方法:減極剤で水素を出さない

分極の根本は、正極で水素が出ることでした。そこで正極側に、H+より先に電子を受け取る酸化剤を置き、水素を出さずに電子を受け取らせる方法が考えられ、この役目をする物質を減極剤と呼びます。

代表例の過酸化水素は、酸性の液で電子を受け取ると水になります。正極で水素が出ないので気泡がたまらず、電子を受け取る相手の電位も高くなるため、理論上の起電力はかえって大きくなります。

過酸化水素が正極で電子を受け取る(標準電極電位 +1.76 V)
H2O2 + 2H+ + 2e− → 2H2O
亜鉛の式と足した全体
Zn + H2O2 + 2H+ → Zn2+ + 2H2O
検算:Zn 1=1、H 4=4、O 2=2、電荷 +2=+2。理論の起電力は 1.76 −(−0.76)= 2.52 V ですが、過酸化水素は電極の上で分解しやすく、実際の電圧はこれよりずっと低くなります。

図5:水素の代わりに電子を受け取る減極剤の例

正極で電子を受け取る相手を、H⁺より受け取りやすい物質に替えると、水素の泡が出なくなります。

過酸化水素H₂O₂が電子を受け取り水になる。ボルタ電池の改良例として説明される
二酸化マンガンルクランシェ電池・マンガン乾電池の正極。マンガンが電子を受け取る
酸素空気電池の正極。空気中の酸素が電子を受け取る
銅イオンダニエル電池の正極。Cu²⁺が電子を受け取り銅が析出する

※減極剤の定義と、乾電池の二酸化マンガン・空気電池の酸素の例は、コトバンク「減極剤」による。

減極剤は、分極が主に電極で生じる水素によって起こるため酸化剤が使われる、と定義されています。マンガン乾電池の二酸化マンガン、空気電池の酸素が代表で、電子を受け取る相手を最初から電池に組み込んだものが、その後の実用電池の正極になりました。

正極の物質が電子を受け取るという考え方は、二酸化鉛が電子を受け取る鉛蓄電池や、酸素を受け取る燃料電池にも共通します。電池の種類を見るときは、負極で何が電子を出し、正極で何が受け取るかを確かめると比べやすくなります。

ダニエル電池との違い:受け取る相手を銅イオンに替える

ダニエル電池は、1836年にイギリスのダニエルが考案した電池で、ボルタ電池の分極の問題を、正極で電子を受け取る相手を替えることで解きました。銅板を硫酸銅水溶液に浸し、液中の銅イオン(Cu2+)に電子を受け取らせるので、正極では水素ではなく銅が析出します。

比べる点ボルタ電池ダニエル電池
負極亜鉛(希硫酸に浸す)亜鉛(硫酸亜鉛水溶液に浸す)
正極銅(同じ希硫酸に浸す)銅(硫酸銅水溶液に浸す)
正極で電子を受け取るものH+ → 水素が出るCu2+ → 銅が析出する
液の仕切りなし(1つの液)素焼き板・塩橋などで2つの液を分ける
起電力理論値0.76 V(作りたては約1.1 V)約1.1 V(理論値1.10 V)
電流を流したとき分極で電圧がすぐ下がる水素が出ず、電圧が比較的安定する
考案1800年 ボルタ1836年 ダニエル
起電力の理論値は標準電極電位(25℃)から。ダニエル電池の実測値は辞典により1.06〜1.14 Vの幅がある
ダニエル電池の反応
負極:Zn → Zn2+ + 2e−  正極:Cu2+ + 2e− → Cu
Zn + Cu2+ → Zn2+ + Cu  E° = 0.34 −(−0.76)= 1.10 V
電池式:(−) Zn | ZnSO4aq | CuSO4aq | Cu (+)。ΔG° = −2 × 96,485 × 1.104 = −213 kJ/mol。Cu²⁺/Cu の標準電極電位 +0.3419 V(Chemistry LibreTexts)。

2つの液を素焼き板で仕切るのは、銅イオンが亜鉛板に届いて直接反応するのを防ぎながら、イオンだけは行き来させるためです。「電子を受け取る物質を決めて、負極と直接触れさせない」という設計は、現在の電池の正極・セパレーターの考え方につながっています。

ボルタ電池の歴史:1800年の発表と電圧の単位ボルト

イタリアのボルタは、異なる金属を湿った物質でつなぐと電気が生じることを研究し、1800年3月20日付の手紙で王立協会会長のバンクスに発表しました。

この報告は同年の王立協会の会報(Philosophical Transactions)に掲載され、持続する電流を取り出す最初の装置として知られています。

それまでの静電気の実験と違い、電流を流し続けられる電源ができたことで、多くの電気化学の発見に使われました。電圧の単位ボルト(V)はボルタの名にちなみ、1881年の国際会議で国際ボルトとして採択され、1948年に現在の絶対ボルトに改められています。

その後の電池は、分極をどう抑えるかの歴史でもあります。電池工業会の年表と辞典をもとに、主な流れを並べると次のようになります。

  • 1780年:ガルバーニがカエルの足の実験から電池の原理につながる現象を見つける
  • 1800年:ボルタが亜鉛と銅で電池を発表する
  • 1836年:ダニエルが分極を起こしにくいダニエル電池を考案する
  • 1859年:プランテが充電できる鉛蓄電池を発明する
  • 1866年:ルクランシェが二酸化マンガンを使う電池を発明する(乾電池のもと)
  • 1887年・1888年:屋井先蔵、ガスナーらが乾電池を発明する

実際の現場では:異種金属接触腐食はボルタ電池と同じしくみ

ドック入りした船体に取り付けられた、溶けて減った犠牲陽極

1つ目は配管や構造物で起きる異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)で、2種類の金属が触れ合い、水でつながると、それだけでボルタ電池と同じ電池ができます。

ステンレス協会の資料によると、水の中で電位の異なる2つの金属が接すると電池ができます。電位の卑な金属はアノード(陽極)として腐食が速まり、貴な金属はカソード(陰極)として腐食が抑えられます。ボルタ電池の亜鉛が炭素鋼に、銅板がステンレス鋼や銅に入れ替わった形です。

図6:配管で起きる異種金属接触腐食

炭素鋼管とステンレス鋼管を直接つなぐと、炭素鋼が負極のように溶けます。絶縁継手で電子の通り道を切ると止められます。

炭素鋼管ステンレス鋼管e⁻絶縁絶縁継手で電子の通り道を切る卑:溶ける側貴:受け取る側Fe → Fe²⁺+2e⁻O₂+2H₂O+4e⁻→4OH⁻

※中性の水では、正極側で電子を受け取るのは主に水に溶けた酸素です。絶縁の要否は使用する水・金属の組み合わせで判断します(ステンレス協会、2015年)。

中性の水道水や冷却水では、正極側で電子を受け取るのはH+ではなく主に水に溶けた酸素です。標準電極電位で見ると鉄は−0.44 V、銅は+0.34 Vで差は0.78 Vありますが、実際の判断には海水や水道水の中で測った自然電位の並び(ガルバニック系列)を使います。

面積比:小さい負極と大きい正極が危ない

腐食の速さは、電位差だけでなく面積の組み合わせで大きく変わります。溶ける側(アノード)が小さく、受け取る側(カソード)が大きいと、同じ電流が小さな面積に集中して局部的に深く溶けます。

竹中技術研究報告(2008年)は、内面をライニングした鋼管の切断端だけが露出してアノードになり、端部の腐食欠損が最大13 mm(年2.17 mm)に達した事例を報告しています。アノードの面積が小さく、電流が端部に集中したためです。

同じ報告では、塩化物イオン200 mg/Lの水で温度を20℃から40℃に上げると、アノード側の腐食度が2倍以上になりました。

対策:絶縁継手で電子の通り道を切る

ボルタ電池は導線を外せば電流が止まるのと同じで、異種金属接触腐食も金属どうしの電子の通り道を切れば止まります。ステンレス協会は、炭素鋼(亜鉛めっきを含む)や鋳鉄とステンレス鋼管をつなぐときは絶縁が必要とし、銅・青銅とは電位が近いので直接つないでよいとしています。

  • 絶縁フランジ:フランジの間に絶縁シートを挟み、ボルトに絶縁スリーブとワッシャを付ける
  • 絶縁ユニオン・絶縁継手:ねじ込み配管の接続部に樹脂の絶縁材を入れる
  • 支持金具・壁貫通部の絶縁:吊りバンドや躯体の鉄筋を通じた「外側の短絡」も防ぐ
  • 確認:通水前にフランジ前後の絶縁抵抗が1 MΩ以上あること(国土交通省の機械設備工事監理指針による)

鋼管とステンレス鋼管の比較はステンレス配管と鉄配管の選び方で、ステンレスの表面に鉄粉が付いて錆びる現象はSUS304が錆びる原因で詳しく扱っています。黄銅は亜鉛を含むため、ステンレスとつなぐと脱亜鉛腐食が進むおそれがあり、合金の組成まで見て選びます。

犠牲陽極(流電陽極):電池のしくみで鉄を守る

異種金属接触腐食を逆手に取ったのが犠牲陽極です。鉄より電位の低い亜鉛・アルミニウム合金・マグネシウムを鉄につないでわざと負極にし、先に溶かすことで、鉄を電子を受け取る正極側に回します。ボルタ電池でいえば、守りたい鉄を銅板の位置に置く方法です。

亜鉛めっきが傷口で鉄を守る犠牲防食も同じしくみで、トタンとブリキの違いでは大気中で効く範囲の限界まで整理しています。海水や土の中のように電解液が途切れない場所では、ブロック状の陽極を取り付けて長い年数にわたって守ります。

図7:犠牲陽極で鋼管杭を守る

アルミニウム合金の陽極が先に溶けて電子を出し、鋼管杭の表面では酸素などが電子を受け取るので、鉄は溶けにくくなります。

鋼管杭アルミ合金陽極e⁻守られる側(カソード)先に溶ける側(アノード)Al → Al³⁺+3e⁻酸素などが電子を受け取る海水海底

※港湾の鋼構造物では主にアルミニウム合金陽極を使い、塩分の少ない河川域ではマグネシウム陽極を使います(港湾空港技術研究所)。

国土交通省中部地方整備局の技術交流会の資料は、港湾鋼構造物の防食には電気防食が有効で、主に犠牲陽極(流電陽極)法によると説明しています。港湾空港技術研究所の資料では、防食できているかを鋼材の電位で管理し、海水塩化銀電極に対して−800 mVを基準にした例が示されています。

直流電源と溶けにくい電極で電流を流し込む外部電源方式もあり、大きな電流を流せるので陽極が少なくて済みます。流電陽極方式は電源が要らず維持管理が容易な代わりに、陽極が溶けて減るので、寿命は陽極の質量とファラデーの法則で決まります。

アルミニウムの理論の電気量(Al → Al3+ + 3e−)
3 × 96,485 C26.98 g = 10,729 C/g = 2,980 A·h/kg
計算例:2.5 Aの陽極を20年もたせるのに要る質量
平均電流 = 2.5 A × 0.5 = 1.25 A
電気量 = 1.25 A × 20年 × 8,766 h/年 = 219,150 A·h
必要な質量 = 219,150 A·h2,600 A·h/kg = 約84.3 kg
2,600 A·h/kg はアルミニウム合金陽極の有効電気量で、理論値 2,980 A·h/kg の約87%です。初期電流の0.5倍が使用期間中流れ続けると仮定する考え方(港湾空港技術研究所)と、2.5 A・20年で84.3 kg(中部地方整備局 技術交流会資料)に合わせた計算例で、実際の設計は構造物・環境・基準に従います。亜鉛の理論値は約820 A·h/kg、マグネシウムは約2,205 A·h/kgで、有効電気量は実際にはこれより小さくなります。

陽極は消耗品なので、点検では鋼材の電位を測り、陽極の残りの量を寸法や流れた電流から見積もります。船体の外板に付ける亜鉛やアルミニウムの陽極も同じ考え方で、溶けて減った分を見て交換する消耗部品として扱います。

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電池の内部抵抗と分極の測り方:劣化診断の考え方

3つ目の場面は、電池そのものの点検です。ボルタ電池で見た「電流を流すと電圧が下がる」現象は、どの電池にもある内部抵抗と分極によるもので、電池が劣化すると内部抵抗が増え、同じ電流でも電圧が下がりやすくなります。

計算例:電流を流す前後の電圧から内部抵抗を求める(説明用の仮の数字)
r = E − VI = 1.10 − 0.950.50 = 0.30 Ω
E:電流を流す直前の電圧(開回路電圧)1.10 V V:0.50 Aを流しているときの端子電圧 0.95 V I:電流[A]。電流を流した瞬間に下がる分は主に抵抗、時間とともにじわじわ下がる分は主に分極(過電圧)によります。

同じ電池でも、測る周波数や電流を流す時間で値が変わる点に注意が要ります。測り方の目的を分けて選ぶと、次の表のようになります。

測り方何が分かるか向いている場面
交流法(1 kHz)電解液・接触部などの抵抗分。反応の遅れ(分極)はほとんど入らない短時間の受入検査、据置用電池の定期点検で傾向を見る。産業用リチウム二次電池の規格(JIS C 8715-1・IEC 62620)に交流内部抵抗の測定が含まれ、1 kHzが使われる(メーカー資料による)
直流パルス法電流を流した瞬間の降下(抵抗)と、数秒かけての降下(分極)を合わせた実際の電圧降下実際に使う電流で、どこまで電圧が下がるかを知りたいとき
交流インピーダンス法(周波数を変える)抵抗、電極反応の遅れ、イオンの拡散を周波数ごとに分ける劣化の原因を調べる研究・解析
値は温度・充電状態・測定器・周波数で変わるため、同じ条件で測って傾向を比べる

現場で大事なのは、1回の値の大小より、同じ条件で測った値の推移です。鉛蓄電池の制御弁式では内部抵抗が点検項目に入り、格子の腐食が進むと内部抵抗が上がって容量を取り出せなくなります。

非常用電源やUPSの電池は、使う場面が来るまで性能が見えません。内部抵抗の記録をもとに交換時期を決めるのは、設備保全のCBM(状態基準保全)の典型で、電池の配線や端子の接触が悪いときの電圧降下と切り分けて見ることも欠かせません。

ボルタ電池のよくある質問

ボルタ電池の正極で銅は溶けますか?

溶けません。銅板は電子を受け渡す場で、電子を受け取るのは液中のH+なので、銅板の表面では水素が出るだけです。銅が溶けるのは、銅のほうが負極になる組み合わせのときです。

ボルタ電池に濃硫酸を使わないのはなぜですか?

濃硫酸は水が少なく、硫酸がほとんど電離しないので、正極の相手になるH+が少ないためです。硫酸の濃さと電離の関係は希硫酸と濃硫酸の酸性の違いで、加熱した濃硫酸が酸化剤になる話は強酸性と強酸化力の違いで扱っています。

レモン電池はボルタ電池と同じしくみですか?

同じしくみです。亜鉛板と銅板を酸性の果汁に刺すので、亜鉛が溶けて電子を出し、銅板の側で電子が受け取られます。電圧は約0.9〜1.0 Vで、銅の表面の酸化物が電子を受け取ることで1 V近くになると説明する資料があります。

ボルタ電池はいまも使われていますか?

実用の電池としては使われていません。自己放電が大きく分極で電圧が保てないためで、電気化学の原理を学ぶ教材として残り、同じしくみは腐食や防食の理解に生きています。

まとめ

この記事のまとめ
  • ボルタ電池は希硫酸に亜鉛(負極)と銅(正極)を浸した電池で、Zn+H2SO4→ZnSO4+H2。銅板の上でH+が電子を受け取り水素が出る
  • 理論の起電力は0.76 V、作りたての開回路電圧は約1.1 Vで、差の理由は、銅の表面の酸化物が電子を受け取るためとする説明などがある
  • 分極は水素の気泡・水素過電圧・濃度の偏りと内部抵抗が重なって起き、電流を流すと端子電圧が大きく下がる
  • 減極剤(過酸化水素・二酸化マンガン・酸素)や、ダニエル電池の銅イオンのように、H+より先に電子を受け取る相手を置くと水素が出ない
  • 異種金属接触腐食・犠牲陽極・電池の内部抵抗の点検は、どれもボルタ電池と同じ「負極が溶け、正極で受け取る」しくみで読み解ける

ボルタ電池は実用の電池としては姿を消しましたが、「どちらが電子を出し、誰が受け取るか」という見方は、配管の材料選びや防食、電池の保全の判断にそのまま使えます。異種金属の組み合わせを考えるときの材料ごとの性質は、ステンレスの種類と違いで確かめられます。

表面処理で鉄を守る方法はめっきの種類と違いで、次世代の電池の材料と製造工程は全固体電池とリチウムイオン電池の違いで整理しています。業界の全体像は化学業界の解説から読むとつながりがつかみやすくなります。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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