濃硫酸が脱水剤に使われる理由は、H+ を相手に渡す力が強いこと、水と強く結び付くこと、揮発しない液体で98%まで濃くできることの3つです。この3つがそろう酸はほかにほとんどなく、実験室でも化学工場でも、水を取り除きたい反応に濃硫酸が選ばれてきました。
ここで分けておきたいのが、脱水作用と吸湿性です。脱水作用は砂糖のような化合物から水素と酸素を 2:1 の割合で奪う性質で、砂糖が黒い炭になるのはこのためです。吸湿性は空気や気体にすでに混ざっている水分子を吸い取る性質で、濃硫酸が乾燥剤になるのはこちらの働きです。
後半では、エステル化やニトロ化の反応器で濃硫酸が担う役割、気体の乾燥に使う場面と使えない気体、皮膚や衣服が炭化する理由と保護具まで扱います。濃硫酸を扱う現場で「なぜこの工程に硫酸が要るのか」を説明できることが、この記事のねらいです。
濃硫酸とはどんな液体か:脱水剤に向く3つの性質
工場で多く使われる濃硫酸は濃度93〜98%、試薬の濃硫酸は96%前後の、油のように重い無色の液体です。98%硫酸では、水は硫酸1分子に対して0.11個しかありません。液のほとんどが硫酸分子で、水の入る余地が大きく残っていることが、脱水剤としての出発点です。
水が少ないので硫酸はほとんど電離できず、水溶液の酸としての性質は弱く見えます。この「酸性を示しにくい」理由と、それでも H+ を渡す力は強いという話は濃硫酸は弱酸なのか?希硫酸との違いで詳しく扱っており、ここでは脱水に関わる3つの性質に絞ります。
乾燥では2つ目と3つ目、脱水反応では1つ目と2つ目が主に効きます。
※98%硫酸の水の数は、質量%から計算した値(水の物質量 ÷ 硫酸の物質量 = 0.11)です。
2つ目の性質は、水と混ぜたときの発熱に表れます。純硫酸1 kg を水で薄めると約193 kcal(約808 kJ)の熱が出ると百科事典にあります。
水の量や温度などの条件は示されていませんが、熱化学の表から求めた無限希釈の値は約95 kJ/mol(約970 kJ/kg)で、大きな発熱であることに変わりはありません。硫酸分子と水が強く結び付いて水和すると考えれば理解できます。
イオンや分子が水に囲まれて安定になる考え方は水和とは?イオンが水に溶ける原理で扱っています。
濃い硫酸の中では硫酸どうしでも H+ のやりとりが起こり、わずかに SO3 もできます。これは有機物に –SO3H を付けるスルホン化そのものではなく、スルホン化の材料を用意する段階にあたります。両者の関係は後のニトロ化・スルホン化の節で式にします。
脱水作用のしくみ:H+ が –OH に付き、水になって抜ける
濃硫酸の脱水作用は、H+ を –OH の酸素に渡して水の形をつくり、その水を液に抱え込むという流れで進みます。
この流れがそのまま当てはまるのは、エタノールのように –OH を持つ化合物の脱水です。酸素には非共有電子対があり、そこへ H+ が付くと –OH2+ になって、水分子として外れやすくなります。
H+ を渡すところと、できた水を抱え込むところの両方に硫酸が関わります。
※アルコールの脱水やエステル化では、H+ は最後に硫酸側へ戻るため、硫酸は触媒として働きます。
砂糖の炭化は脱水のあとに酸化も重なり、ギ酸は分子が CO と水に割れるなど、細部は反応ごとに違います。共通するのは「H+ を渡す」と「水を抱え込む」の2点です。
この3段階のうち、STEP 1 と STEP 2 は H+ を渡せる酸ならどれでも起こり得ます。濃硫酸が特別なのは STEP 3 で、できた水を抱え込んでも揮発せず、反応の場から水を取り除き続けられる点が、ほかの酸との違いです。
砂糖や紙が黒くなる:H と O を 2:1 で奪う炭化
砂糖(スクロース)に濃硫酸を注ぐと、黄色から茶色、黒へと色が変わり、熱と水蒸気を出しながら海綿状の炭素の柱が盛り上がります。英国王立化学会(RSC)の教材は、この演示を脱水と乾燥の違いを示す例として紹介しています。

RSC は、この式は単純化しすぎだとも注記しています。熱くなった濃硫酸は酸化剤としても働き、炭素の一部は CO や CO2 に、硫酸の一部は刺激臭のある SO2 になります。この演示はドラフト(局所排気装置)の中で行うのが前提です。
式どおりに進んだとすると、砂糖の重さの約6割が「水の成分」として奪われます(理論上の収支)。
※実際には一部が CO・CO₂・SO₂ になるため、残る炭素は理論値より少なくなります。
紙や綿、木材の主成分のセルロースも、ブドウ糖がつながった炭水化物です。世界大百科事典は、希硫酸で紙に字を書いて熱すると脱水作用で紙が炭化して黒く浮かぶと説明しており、衣服に硫酸が付くと穴があく理由も同じです。
ギ酸から一酸化炭素ができる
ギ酸 HCOOH に濃硫酸を加えると、分子の中から H と O が水の割合で抜け、一酸化炭素が出てきます。世界大百科事典も、実験室での一酸化炭素の製法としてギ酸を濃硫酸や濃リン酸で脱水する方法を挙げています。
一酸化炭素は無色・無臭で、血液のヘモグロビンと結び付いて酸素を運べなくする有毒な気体です。
においで気付けないので、ギ酸と強い酸を混ぜる操作は必ず局所排気の中で行い、廃液の容器でも混ぜないことが大切です。医学文献には、ギ酸と硫酸の混合で発生した CO による中毒例が報告されています。
エタノールの脱水:温度でエーテルとエチレンに分かれる
エタノールに濃硫酸を加えて温めると、温度によって生成物が変わります。教科書でよく使われる目安は、約130〜140℃で2分子から水が抜けるとジエチルエーテル、約170℃で1分子から水が抜けるとエチレンです。
分子間脱水(約130〜140℃):ジエチルエーテルができる
低めの温度では、H+ が付いたエタノール(–OH2+)に、別のエタノールの酸素の非共有電子対が近づきます。水が外れて2つの炭素鎖が酸素でつながり、最後に H+ を手放してジエチルエーテルになります。
分子内脱水(約170℃):エチレンができる
温度を上げると、–OH2+ が外れるのと同時に隣の炭素から H+ が離れ、炭素どうしの二重結合ができます。ここでも H+ は最後に硫酸側へ戻るため、硫酸は脱水を進める触媒であり、外れた水を抱え込む脱水剤でもあります。
ニトロ化・スルホン化も濃硫酸の H+ と脱水で進む
ベンゼンにニトロ基 –NO2 を付けるニトロ化には、濃硝酸と濃硫酸を混ぜた混酸を使います。化学辞典によると、混酸の中では次の平衡が成り立ち、硫酸が硝酸に H+ を渡して水を外すことで、ニトロ化の主役になるニトロイルイオン NO2+ ができます。
できたニトロベンゼンは、還元するとアニリンになり、染料・ゴム薬品・ウレタン原料へつながります(アニリンの性質と工場での製法)。置換基によってニトロ基の入る位置が変わる理由はオルトパラ配向性とメタ配向性で扱っています。
スルホン化では、硫酸どうしの H+ のやりとりで水が外れて SO3 ができ、これがベンゼンを攻撃して –SO3H が付きます。旧来「硫酸が硫酸に H+ を投げる」と説明されてきたのは、この前段のことです。
乾燥と脱水の違い:吸湿性と脱水作用を分ける
一言でいえば、乾燥は「混ざっている水分子を取り除くこと」、脱水は「化合物の分子の中から H と O を水の形で奪うこと」です。濃硫酸はこの両方ができるため混同されやすく、乾燥剤として働くのは吸湿性、砂糖を炭にするのは脱水作用と分けて考えます。
乾燥(吸湿性):混ざっている水分子を取り除く
乾燥は、気体や液体、固体に混ざっている水分子を取り除く操作です。濃硫酸は液の上の水蒸気の圧力がきわめて低いので、湿った気体を濃硫酸にくぐらせると水分子だけが吸い取られます。デシケーターの底に濃硫酸を入れて試料を乾かす使い方も、この吸湿性によるものです。
乾燥では、乾かされる物質の分子そのものは変わりません。濃硫酸は吸った水で少しずつ薄まり、薄まると吸湿の力も落ちるので、工場では濃度を測って新しい酸と入れ替えます。
脱水(脱水作用):分子の中の H と O を奪う
脱水は、もともと水分子を含んでいない化合物から、H と O を 2:1 の割合で引き抜く反応です。砂糖の炭化、ギ酸からの一酸化炭素、エタノールからのエーテル・エチレンはどれも、反応の前後で物質そのものが別のものに変わります。
両者の中間にあたるのが、硫酸銅(II)五水和物 CuSO4·5H2O の結晶水です。青い結晶に濃硫酸を加えると白くなりますが、結晶水は水分子のまま結晶に入っているので、水を加えると青に戻ります。RSC の教材はこれも dehydration(脱水)の例として扱っています。
| 観点 | 乾燥(吸湿性) | 脱水(脱水作用) |
|---|---|---|
| 除くもの | 混ざっている水分子 H2O | 分子の中の H と O(2:1) |
| 相手 | 変わらない(湿った塩素 → 乾いた塩素) | 別の物質になる(砂糖 → 炭素) |
| 代表例 | 気体の乾燥、デシケーター | 砂糖・紙の炭化、ギ酸 → CO、エタノール → エーテル・エチレン |
| 硫酸の働き | 水と結び付き、水蒸気をほとんど出さない | H+ を –OH に渡し、できた水を抱え込む |
| 戻せるか | 水を加えれば元の湿った状態に戻る | 水を加えても砂糖には戻らない |
| 中間 | 硫酸銅(II)五水和物の結晶水:濃硫酸で青 → 白、水を加えると青に戻る | |
なぜ塩酸や硝酸は脱水剤に使われないのか
塩酸や硝酸も強い酸ですが、脱水剤には使われません。理由は、濃い液をつくれず、もともと水を多く含んでいることです。塩化水素は常温で気体で、水に溶かした濃塩酸は約37%が上限の目安です。
硝酸は常温では液体ですが、市販の濃硝酸は60〜70%で、約68〜70%(資料により68.4〜69.8%)で水と共沸するため、ふつうの蒸留ではそれ以上濃くなりません。
濃塩酸や濃硝酸は、最初から水を抱えているので、ほかから水を奪う余地がありません。
※濃塩酸の37%・濃硝酸の68%は市販品と共沸の目安(コトバンク「塩酸」「硝酸」)。
図4の水の数は、濃さの違いを並べるための目安です。脱水剤になれるかどうかは、水の数だけでなく、揮発性と、酸そのものがほかの物質と反応するかどうかでも決まります。
2つ目の理由は揮発性です。濃塩酸や濃硝酸は温めると塩化水素や硝酸の蒸気を出して濃度が下がり、反応の場から逃げていきます。3つ目に、硝酸はそれ自体が有機物を酸化したりニトロ化したりするので、水だけを取り除く役には向きません。
濃硫酸は揮発しにくく、98%の濃さで貯めておけます。食塩や硝酸塩に濃硫酸を加えて塩化水素や硝酸を追い出す反応(揮発性酸の遊離)が成り立つのも、同じ性質の裏返しです。
濃硫酸の脱水作用でよくある勘違い
濃硫酸は脱水作用・吸湿性に加えて、強い酸性、熱濃硫酸の酸化作用など、いくつもの性質を持っています。どの性質が働いているかを取り違えると、反応式の読み方を誤ります。ここでは、もっとも多い疑問を取り上げます。
エステル化の濃硫酸は、脱水剤ではなく酸として働いているのでは?
答えは「両方」です。エステル化は平衡反応で、酢酸とエタノールからは酢酸エチルと水ができ、水が残っていると逆向きの加水分解も同時に進みます。濃硫酸はまず酸として反応を速め、次に脱水剤としてできた水を抱え込み、平衡をエステル側へ寄せます。
酸としての働きは、カルボン酸のカルボニル基(C=O)の酸素に H+ を渡し、炭素をアルコールに攻撃されやすくすることです。カルボニル基の性質はカルボニル基とは?ケトン基との違いで扱っています。
大学の化学実験テキストにも、収率を上げるには水を除いて逆反応を抑えればよく、そのため反応の触媒(脱水剤)として硫酸を使うと書かれています。
湿布薬の成分サリチル酸メチルも、サリチル酸とメタノールを濃硫酸の存在下でエステル化してつくります(サリチル酸メチルとアセチルサリチル酸の製法)。
つまり、濃硫酸が脱水剤として働けるのは、H+ を渡せる酸だからです。旧来の「酸として働いているから脱水剤になる」という説明は正しく、そこに「できた水を抱え込む力」を加えると全体像になります。
実際の工場では:エステル化・ニトロ化で濃硫酸が担う役割
化学工場では、濃硫酸は反応の原料というより「反応を進める道具」として使われることが多くあります。エステル化では触媒と脱水剤、ニトロ化では NO2+ をつくる相手と生成水の受け皿、さらに反応熱を受け止める液として働きます。
同じ硫酸が、反応の入口・出口・熱の受け皿の3役をこなし、最後は薄まって出てきます。
ベンゼンを連続でニトロ化する工程の特許には、過剰の硫酸が反応熱と生成水を吸収し、薄まった硫酸を濃縮して戻すと書かれています。硫酸は消費されないかわりに水で薄まっていくので、廃酸の濃縮は時間とエネルギー、耐食性の高い材料を要する工程として扱われます。
混酸を使うニトロ化は発熱が大きく、冷却や撹拌が止まると温度が上がって反応がさらに速まる危険があります。原料の仕込みの順番、冷却の能力、撹拌停止時の止め方を設計段階で決めておく考え方は、化学プラントの暴走反応事故から学ぶが参考になります。
同じ混酸は、セルロースやグリセリンの –OH を –ONO2 に変える硝酸エステルの製造にも使われます。
ニトロセルロースのように窒素の量で用途と危険性が大きく変わる物質の性質と保管はニトロセルロースとは?エステル化の反応式と用途・保管にまとめており、製造条件はこの記事では扱いません。
スルホン化は、洗剤の主成分のアルキルベンゼンスルホン酸や、染料・医薬の中間体をつくるのに使われる反応です。エステル化では、樹脂の可塑剤や香料、溶剤の酢酸エステル類など、硫酸を触媒にした製造が広く行われてきました。
実際の工場では:気体の乾燥に濃硫酸を使う場面と使えない気体
吸湿性を使う代表例が、硫酸工場そのものです。接触法では、硫黄を燃やす空気や製錬所から来る二酸化硫黄のガスを、93〜99%の硫酸を流した乾燥塔に通して水分を除いてから触媒の層へ送ります(米国 EPA)。工程全体は接触法とは?硫酸工場のしくみで扱っています。
食塩の電気分解でできる湿った塩素も、濃硫酸で乾かしてから圧縮・液化します。塩素は濃硫酸と反応しないので、乾燥塔の硫酸は吸った水の分だけ薄まるため、導電率計などで濃度を見ながら入れ替えます。
一方で、濃硫酸で乾かせない気体もあります。塩基性のアンモニアは中和されて硫酸アンモニウムになり、硫化水素は濃硫酸に酸化されて硫黄になってしまいます。
臭化水素やヨウ化水素も酸化されるので使えません。どの気体にどの乾燥剤を合わせるかは乾燥剤の選び方|組み合わせ表と工場での使い方に一覧があります。
吸湿性は、困った形で表れることもあります。燃焼排ガスに含まれる SO3 は水蒸気と結び付いて硫酸の霧になり、温度が下がった配管の壁で凝縮して腐食を起こします。ボイラーや熱回収設備で問題になるこの現象は酸露点とは?硫酸露点腐食の原因と対策で解説しています。
濃硫酸で皮膚や衣服が炭化する理由と安全対策
濃硫酸が皮膚に付くと、酸による組織の損傷に、脱水作用と水と混ざるときの発熱が重なり、重い薬傷になります。硫酸協会の安全データシート(SDS)は、濃硫酸を「重篤な皮膚の薬傷及び眼の損傷」を起こす皮膚腐食性 区分1 に分類しています。
綿の作業着や白衣は、紙と同じセルロースでできています。濃硫酸が付くと H と O が奪われて黒く炭化し、穴があきます。日本大百科全書は、希硫酸でも衣類に付いたまま放置するとぼろぼろになると注意しており、しずくの水が蒸発すると硫酸が濃くなっていくためです。
濃硫酸を扱う前にそろえる保護具は、SDS に具体的に書かれています。厚生労働省のモデルSDSと硫酸協会のSDSでは、耐酸性の手袋、保護眼鏡と顔面シールド、耐酸性の保護衣・前掛け・長靴(硫酸協会は安全靴)を挙げています。
設備は、硫酸協会が作業場の近くに手洗い・洗眼設備を、モデルSDSが洗眼と身体洗浄の設備を置くよう求めており、身体を洗える安全シャワーはその一つです。
体に触れさせない装備と、触れたときにすぐ洗える設備を、作業の前にそろえます。
※厚生労働省モデルSDS「硫酸」、硫酸協会 SDS「濃硫酸」(2023年10月改訂)をもとに作成。材質は手袋メーカーの耐薬品表で確かめます。
皮膚に付いたときは、汚れた衣服をすぐに脱がせ、大量の流水で洗い流して医師の診察を受けます。
眼に入ったときは、硫酸協会の SDS では15分以上洗い続けるとしており、洗いながら救急の手配を進めるのが基本です。洗う時間や連絡先は、使っている製品の SDS をもとに事業所の手順書へ書き、洗眼器の横にも掲示しておきます。
硫酸のミストを吸い込むと、のどや肺を傷めます。日本産業衛生学会は硫酸の最大許容濃度を 1 mg/m3 と勧告しており(SDS は2022年度の勧告を記載)、加熱や撹拌でミストが出る作業は局所排気の中で行います。
脱水作用ならではの注意もあります。ギ酸やシュウ酸を含む廃液に濃硫酸を混ぜると一酸化炭素が、砂糖や木くずなどの有機物に触れると発熱と SO2 が出ることがあります。廃酸の容器は中身ごとに分け、有機物の入った容器へ濃硫酸を入れないことを、手順書に書いておきます。
こうした危険を作業ごとに洗い出し、保護具と手順に落とし込む進め方は工場のリスクアセスメントのやり方が、職場の安全衛生の全体像は製造業の職場環境と安全衛生が参考になります。
濃硫酸の脱水作用のよくある質問
希硫酸にも脱水作用はありますか?
水が多い希硫酸は、そのままでは砂糖を炭にするほどの脱水作用を示しません。ただし、紙に付けて熱したり衣服に付いたまま乾いたりすると、水が蒸発して濃くなり、脱水作用で炭化が起こります。
脱水剤として使った濃硫酸はなくなるのですか?
アルコールの脱水やエステル化では、硫酸は触媒として H+ を受け取り直すので、硫酸分子そのものはほとんど減りません。そのかわり生成水を抱えて薄まるため、濃度が下がると脱水の力が落ち、濃縮するか新しい酸と入れ替えます。
濃硫酸のほかに脱水剤はありますか?
十酸化四リン(五酸化二リン)は濃硫酸より強く水を奪う固体の脱水剤で、濃リン酸もギ酸の脱水などに使われます。工業では、固体の酸触媒やゼオライト(モレキュラーシーブ)で水を除く方法もあり、目的の物質と温度で選びます。
砂糖に濃硫酸を加える実験で注意することは?
大きく発熱し、水蒸気に加えて有毒な SO2 や CO が出るため、保護眼鏡を着けてドラフトの中で行います。残った炭素には硫酸がしみ込んでいるので、素手で触らず、大量の水で薄めてから処理します。
まとめ:濃硫酸は H+ を渡して水をつくり、その水を抱え込む
- 濃硫酸が脱水剤になるのは、H+ を渡す力が強い、水と強く結び付く、揮発しない液体で98%まで濃くできる、の3つがそろうから
- 脱水作用は化合物から H と O を 2:1 で奪う性質(砂糖の炭化、ギ酸 → CO、エタノール → エーテル・エチレン)、吸湿性は混ざった水分子を吸う性質(乾燥剤)
- ニトロ化では硝酸に H+ を渡して水を外し NO2+ をつくり、エステル化では触媒としてできた水を抱え込み平衡を寄せる
- 塩酸・硝酸は濃くしても水を多く含み、揮発するので脱水剤にならない
- 現場では、薄まった廃酸の濃縮、乾燥塔の濃度管理、アンモニア・硫化水素には使わないこと、皮膚・衣服の炭化に備えた保護具と洗浄設備が要点
旧来の「H+ を投げたいのに投げる相手がいない」というたとえは、濃硫酸の脱水作用の入口をよく言い当てています。そこに「できた水を手放さない」という出口を加えると、砂糖が炭になる理由から反応器の廃酸の濃縮まで、一本の線でつながります。
硫酸は肥料や金属製錬、樹脂・医薬の中間体まで、化学工業の多くの工程を下支えする基礎原料です。化学品がどのような流れで製品になるかは化学業界のサプライチェーンから見渡せます。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 脱水作用(H と O を 2:1 で奪う)・炭化・吸湿性・乾燥剤・用途・衣服への注意・発熱:コトバンク「硫酸」(デジタル大辞泉、日本大百科全書、世界大百科事典、精選版 日本国語大辞典)
- 砂糖の炭化と結晶水、乾燥と脱水の区別:Royal Society of Chemistry Education「Sulfuric acid as a dehydrating agent」
- ギ酸の脱水による一酸化炭素の製法:コトバンク「一酸化炭素」(世界大百科事典、日本大百科全書、化学辞典 第2版)
- ギ酸と強酸の混合による一酸化炭素中毒:Ershad ほか「An Unusual Case of Carbon Monoxide Poisoning from Formic and Sulfuric Acid Mixture」Clinical Practice and Cases in Emergency Medicine 4(1)(2020)
- エタノールの脱水の温度:LibreTexts Chemistry「Dehydration of Alcohols to Make Ethers」
- 混酸の平衡と NO2+:コトバンク「混酸」(化学辞典 第2版、日本大百科全書)
- ニトロ化での硫酸の吸熱・吸水と廃酸の濃縮:米国特許 US4091042「Continuous adiabatic process for the mononitration of benzene」
- エステル化で硫酸を触媒(脱水剤)に使う理由:慶應義塾大学 理工学部 化学実験テキスト「酢酸エステル類の合成(果物の香り)」
- 接触法の乾燥塔:U.S. EPA AP-42 第8.10節「Sulfuric Acid」
- 塩素の硫酸乾燥と濃度管理:横河電機「Liquid Analyzers for Electrolysis Plants」
- 濃塩酸・濃硝酸の市販濃度と共沸:コトバンク「塩酸」、コトバンク「硝酸」
- GHS 分類・保護具・応急措置・許容濃度:硫酸協会 安全データシート「濃硫酸」(2023年10月改訂)、厚生労働省 職場のあんぜんサイト「モデルSDS 硫酸」
TOOLS & SERVICES
製造業で働く人の、仕事の道具・サービス紹介
これからの働き方、資格の勉強、打合せの記録。MONOSCOPE で紹介している3つです。
CAREER社外の仕事を知りたい転職・キャリアガイド今の会社で続けるか、社外にも目を向けるか。考える視点と転職サービスの紹介。仕事と働き方を考える ›
LICENSE仕事に関わる資格を学びたいSAT電験三種・エネ管・QC検定など。職種から資格を選べる表と受講料の比較。SATの対象資格を見る ›
RECORD打合せを記録したいPLAUD録音から文字起こし・要約まで。3機種の選び方と業務で使う前の確認表。PLAUDの使い方を見る ›
NEWSLETTER
研究開発・化学・樹脂・ゴムの記事を、週1回まとめてメールで受け取る
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
研究開発を選んだ状態で登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
