ニトロ化とスルホン化とは?濃硫酸が要る理由と反応式、工場での使われ方

撹拌槽と熱交換器、蒸留塔、配管ラックが並ぶ臨海部の化学プラント

ニトロ化はベンゼン環の水素をニトロ基(−NO2)に、スルホン化はスルホ基(−SO3H)に置き換える反応で、どちらも濃硫酸を使う置換反応です。ニトロ化では濃硝酸と濃硫酸を混ぜた混酸を、スルホン化では濃硫酸か、三酸化硫黄(SO3)を溶かした発煙硫酸を使います。

濃硫酸の役目は、H+を渡して環を攻撃できる陽イオンをつくることと、反応でできる水を抱え込むことの2つです。工業では、ニトロ化がアニリンを経てウレタン原料につながり、スルホン化は洗濯用洗剤の主成分やイオン交換樹脂をつくる反応として使われています。

ニトロ化(濃硝酸+濃硫酸の混酸、50〜60℃程度)
C6H6 + HNO3 → C6H5NO2 + H2O
スルホン化(濃硫酸で加熱、または発煙硫酸)
C6H6 + H2SO4 ⇄ C6H5SO3H + H2O
C6H5NO2がニトロベンゼン、C6H5SO3Hがベンゼンスルホン酸です。ニトロ化の濃硫酸は式に書かず、矢印の上に条件として添えるのが一般的です。検算:ニトロ化はC 6=6、H 7=5+2、N 1=1、O 3=2+1、スルホン化はC 6=6、H 8=6+2、S 1=1、O 4=3+1。
目次

なぜベンゼンは付加より置換反応が起こりやすいのか

エチレンのような普通の二重結合は、2本目の結合(π結合)が切れて原子が付け加わる付加反応を起こしやすく、π結合はσ結合より弱いので切るのが楽です。π結合とσ結合の違いはσ結合とπ結合の違いで詳しく整理しました。

ところがベンゼンでは、6個のπ電子が特定の2原子の間にとどまらず、環全体に広がります。この広がり(共鳴)でベンゼンは普通の二重結合を3つ並べた分子より安定になっていて、どれだけ安定かはベンゼン環の構造式と共鳴の記事で水素化熱を使って比べています。

環のπ電子を攻撃できるのは、電子を受け取りたがる陽イオンのような粒子(求電子剤)です。求電子剤が環の炭素1つと結合すると、輪が途切れた陽イオンの中間体ができ、ここから先の進み方で置換か付加かが決まります。

中間体に陰イオンが付けば付加になりますが、それでは安定な輪が失われたままです。代わりに付いた炭素の水素がH+として抜ければ、輪が元に戻るので、ベンゼンでは置換の道が選ばれます。

図1:中間体からの分かれ道

求電子剤E+が付いたあと、H+が抜ければπ電子の輪が戻り、陰イオンが付けば輪は戻りません。

HE+EENuE+が攻撃H+が抜ける陰イオンが付くベンゼン中間体(陽イオン)置換:輪が戻る付加:輪が戻らない

※E+は求電子剤(ニトロ化ではNO2+)、Nuは陰イオンなどの電子対をもつ粒子です。環の中の○は、6個のπ電子が環全体に広がっていることを表します。

こうして見ると、ニトロ化もスルホン化も「強い求電子剤をどうつくるか」が反応の要になります。硝酸や硫酸をそのまま混ぜても環を攻撃する力は弱く、そこで濃硫酸がH+を渡して求電子剤をつくる役を担います。

ニトロ化のメカニズム:濃硫酸がニトロニウムイオンをつくる

混酸の中では、硫酸のほうが硝酸より強い酸なので、硫酸が硝酸にH+を渡します。H+を受け取るのは硝酸の−OHの酸素で、その非共有電子対にH+が付くと、−OH2+が水分子として外れやすくなります。

水が外れたあとに残るのが、ニトロニウムイオン(NO2+、ニトロイルイオンとも呼ぶ)です。外れた水はもう1分子の硫酸からH+を受け取ってH3O+になり、まとめると次の式になります。

混酸の中でニトロニウムイオンができる
HNO3 + 2H2SO4 ⇄ NO2+ + H3O+ + 2HSO4−
環を攻撃し、H+が抜ける
C6H6 + NO2+ → C6H6NO2+ → C6H5NO2 + H+
C6H6NO2+は、HとNO2が同じ炭素に付いた中間体(陽イオン)です。抜けたH+は硫酸水素イオン(HSO4−)が受け取り、硫酸に戻ります。検算(1段目):H 5=3+2、N 1=1、O 3+8=2+1+8、S 2=2、電荷 0=+1+1−2。

図2:ニトロニウムイオンができて環に入るまで

濃硫酸はH+を渡して水を外させ、最後に抜けたH+を受け取ります。

01硫酸がH+を渡す硝酸の−OHの酸素にH+が付き、−OH2+になる
02水が外れてNO2+外れた水は硫酸に抱え込まれ、H3O+になる
03環を攻撃し、H+が抜けるNO2+が環と結合し、H+が抜けてニトロベンゼンになる

※LibreTexts「Nitration and Sulfonation of Benzene」、chemguide「The nitration of benzene」の説明をもとに整理しました。

濃硫酸は「触媒」なのか「脱水剤」なのか

最後に抜けたH+が硫酸に戻るので、式の上では濃硫酸は反応の前後で変わらず、教科書では触媒と呼ばれます。ただ、ベンゼン1分子がニトロ化されるたびに水が1分子でき、その水は硫酸に抱え込まれて酸を少しずつ薄めていきます。

硫酸が薄まるとNO2+ができにくくなり、反応が遅くなります。ニトロ化が「脱水縮合」とも説明されるのはこのためで、H+を渡す働きと水を抱え込む働きは、濃硫酸が脱水剤に使われる理由で扱っている脱水作用と同じものです。

一方の硝酸は、ここでは酸化剤としてではなく、NO2+のもとになる原料として働きます。濃硝酸そのものの性質や、銅との反応で見せる強い酸化力は濃硝酸と希硝酸の違いの記事で整理しています。

温度を50〜60℃に保つ理由

国内の教科書ではベンゼンのニトロ化を60℃前後で行うと説明し、英国の教科書サイトchemguideは50℃を超えない温度で約30分保つとしています。どちらも理由の中心は、温度が高いほど2つ目のニトロ基が入りやすくなることです。

2つ目のニトロ基は、すでに付いたニトロ基が環の電子を引き寄せるため、主にメタの位置に入って1,3-ジニトロベンゼンになります。chemguideは50℃でも少しできるとしていて、入る位置の決まり方はオルトパラ配向性とメタ配向性で詳しく扱っています。

ニトロ基が増えるほど分子は分解しやすく、エネルギーの大きい物質になります。フェノールに3つのニトロ基が付いたピクリン酸が爆薬に使われたのはその例で、温度を上げすぎない管理は品質と安全の両方のためだと言えます。工場での温度管理は後半の章で取り上げます。

スルホン化のメカニズム:SO3が環を攻撃し、反応は逆にも進む

スルホン化でも、硫酸どうしでH+のやりとりが起こり、水が外れて求電子剤ができます。濃硫酸の中では次の平衡でわずかに三酸化硫黄(SO3)が生じていて、このSO3が環を攻撃する求電子剤です。

濃硫酸の中でSO3ができる
2H2SO4 ⇄ SO3 + H3O+ + HSO4−
SO3が環を攻撃する(発煙硫酸やSO3ガスを使う場合)
C6H6 + SO3 → C6H5SO3H
SO3の硫黄は3つの酸素に電子を引かれて強くプラスに偏っているため、環の電子を受け取れます。SO3にH+が付いたHSO3+を求電子剤として描く説明もあります。検算(1段目):H 4=3+1、S 2=1+1、O 8=3+1+4、電荷 0=+1−1。

chemguideによると、ベンゼンを濃硫酸と数時間加熱還流するか、SO3を溶かした発煙硫酸と40℃で20〜30分温めるとベンゼンスルホン酸ができます。発煙硫酸のほうが早く進むのは、求電子剤のSO3を最初からたくさん含んでいるからです。

ニトロ化と同じ型の置換ですが、硫酸の立場は違います。ニトロ化の硫酸がH+を渡して戻る助け役だったのに対し、スルホン化では硫酸の一部がそのままスルホ基として環に入るので、硫酸は反応物です。SO3と発煙硫酸を工業的にどうつくるかは接触法と硫酸工場のしくみで解説しています。

スルホン化は可逆:水が増えると元に戻る

スルホン化の式が⇄になっているのは、逆向きにも進むからです。ベンゼンスルホン酸を熱い希酸と加熱したり水蒸気を通したりすると、スルホ基が外れてベンゼンに戻り、この逆反応は脱スルホン化と呼ばれます。

濃硫酸でスルホン化すると、反応で水ができて酸が薄まり、逆反応が進みやすくなって途中で頭打ちになります。そのため右へ進めたいときは、水を出さないSO3や発煙硫酸を使うか、できた水を除くのが基本の考え方です。

図3:スルホン化の平衡を動かす条件

水の量で向きが変わるのがスルホン化の特徴で、ニトロ化との大きな違いです。

+ H₂SO₄SO₃H+ H₂Oスルホン化脱スルホン化SO₃が多い・水を除く熱い希酸・水蒸気ベンゼンベンゼンスルホン酸水が増えるほど左向き(元のベンゼン)へ戻りやすい

※chemguide「The sulphonation of benzene」、LibreTexts「Nitration and Sulfonation of Benzene」をもとに作成。ニトロ化は通常の条件では逆向きに進みません。

外せる性質は有機合成で道具として使われます。先にスルホ基を入れて環の特定の位置をふさぎ、別の置換基を狙った位置に入れたあとで外す方法で、LibreTextsはこれを「ブロッキング基」として紹介しています。

ここまでの2つの反応を並べると、同じ置換反応でも濃硫酸の立場と逆反応の有無がはっきり違います。工場でつくられている製品まで含めて、次の表に整理しました。

比べる観点ニトロ化スルホン化
使う試薬濃硝酸と濃硫酸の混酸濃硫酸(数時間加熱)、または発煙硫酸・SO3
環を攻撃する粒子ニトロニウムイオン NO2+三酸化硫黄 SO3(H+が付いたHSO3+とも書く)
環に付く原子団ニトロ基 −NO2(窒素が環の炭素と結合)スルホ基 −SO3H(硫黄が環の炭素と結合)
濃硫酸の役割H+を渡してNO2+をつくり、できた水を抱え込むSO3の供給源で、硫酸そのものが反応物になる
逆向きの反応通常の条件では起こらない熱い希酸や水蒸気で元のベンゼンに戻る(可逆)
主な工業製品ニトロベンゼン→アニリン→ウレタン原料のMDI洗剤のLAS、イオン交換樹脂
chemguide、LibreTexts「Nitration and Sulfonation of Benzene」、環境省PRTRファクトシートなどをもとに作成

実際の工場では:ニトロ化からアニリン・ウレタン原料へ

工業で大規模に行われている主なニトロ化は、ベンゼンからニトロベンゼンをつくる反応と、トルエンからジニトロトルエンをつくる反応です。原料の硝酸はオストワルト法で、硫酸は接触法で、どちらも大量につくられています。

ニトロベンゼンからアニリン、MDIへ

環境省のPRTRファクトシートによると、ニトロベンゼンはほとんどがアニリンの原料として使われます。欧州連合の大規模有機化学品の技術資料(BREF、2017年)も、ニトロベンゼンとアニリンの製造は統合されていることが多いとしています。

アニリンは主にジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の原料になり、MDIはポリオールと反応してポリウレタンになります。ニトロベンゼンを水素で還元してアニリンにする工程は、アニリンの性質と工場での製法で反応式と物質収支まで詳しく扱っています。

図4:ニトロ化からウレタン製品まで

ベンゼンのニトロ化は、断熱材や接着剤になるポリウレタンへの長い流れの入口です。

ニトロ化の工場
01原料ナフサ由来のベンゼン、オストワルト法の硝酸、接触法の硫酸
02混酸でニトロ化発熱するので、温度を管理しながら原料を加える
03分離と洗浄有機層と廃酸に分け、ニトロベンゼンを水とアルカリで洗う
ニトロベンゼンから製品へ
04水素化ニトロベンゼンを水素で還元してアニリンにする
05MDAとMDIアニリンとホルムアルデヒドからMDA、ホスゲン化でMDI
06ポリウレタン建物や家電の断熱材、接着剤、塗料など

※EU BREF「Production of Large Volume Organic Chemicals」(2017年)、環境省PRTRファクトシート「ニトロベンゼン」(2012年作成)「アニリン」(第2版)をもとに要点を図にしたもので、工程の分け方は工場によって異なります。

数量の目安として、PRTRファクトシートのアニリンの製造・輸入数量は2023年度で約7万トンです。国内のニトロベンゼンの生産量は同じ資料で「公表データなし」とされていて、ここではアニリンの数量で規模をつかむにとどめます。

BREFは2011年の推計として、MDI(ポリメリックMDIを含む)の世界生産は500万トンを超えるとし、TDIと合わせるとジイソシアネート市場の約9割を占めるとしています。

数字は2011年のもので、いまの生産量を示すものではありません。ポリウレタンを原料に戻す取り組みは、ウレタンフォームのケミカルリサイクルの記事で紹介しています。

計算例:ニトロベンゼン1トンに要る原料と出る水・熱

反応式から、ニトロベンゼン1トンをつくるのに要る原料と、一緒にできる水、反応熱を計算してみます。収率100%の理論量なので、実際の工場では副生物や回収の損失の分だけ多くなります。

ニトロベンゼン1トンの物質量
1,000,000 g123.11 g/mol ≒ 8,123 mol
原料と水(どれも8,123 mol)
ベンゼン 8,123 × 78.11 ≒ 634 kg 硝酸 8,123 × 63.01 ≒ 512 kg
できる水 8,123 × 18.02 ≒ 146 kg
反応熱(25℃・1 bar、すべて気体)
ΔH =(68.53 − 241.83)−(82.9 − 134.31)≒ −122 kJ/mol
8,123 mol × 122 kJ/mol ≒ 約1.0 GJ
分子量はC 12.011、H 1.008、N 14.007、O 15.999から。生成エンタルピー(NIST Chemistry WebBook、気体、kJ/mol):ニトロベンゼン 68.53、水 −241.83、ベンゼン 82.9、硝酸 −134.31。検算:634+512=1,146 kg、1,000+146=1,146 kgで質量が保存されています。混酸の中では硫酸が水で薄まる熱なども加わります。

この計算から分かるのは、製品1トンごとに約146 kgの水が混酸に入り、約1 GJの熱が出ることです。水は硫酸を薄めて次のニトロ化を遅くし、熱は温度を押し上げるので、ニトロ化の工場は「水」と「熱」の行き先を設計する工場だと言えます。

温度管理と暴走反応

保護衣とゴーグルを着けて反応槽の温度計と冷却水の弁を点検する作業者

ニトロ化は発熱が大きく、温度が上がると反応がさらに速まって熱が増えるため、冷却が追いつかなくなると暴走反応に至ります。厚生労働省のモデルSDSも、ニトロベンゼンは強酸や窒素酸化物と激しく反応し、爆発の危険があるとしています。

産業安全研究所(現在の労働安全衛生総合研究所)は1989年、20リットルの反応器でベンゼンの混酸ニトロ化を調べました。50℃のベンゼンに混酸を連続して少しずつ送ると温度の上がり方はゆるやかでしたが、一気に投入すると、特に硫酸分の多い混酸で急に上がりました。

報告は、温度上昇が毎分100℃を超えるような状態は、冷却しても抑えられない可能性が高い暴走だとしています。さらに過去の災害には、熱的な設計の誤りよりも人の操作の誤りが原因となった例が多いと指摘しています。

同じ報告書には、実際の事故を1/2,000の規模で再現した実験もあります。

事故の対象は合成香料の原料(5-tert-ブチル-m-キシレン)のニトロ化で、ベンゼンではありません。混酸を入れたバッチ式の反応釜で撹拌が止まったのに原料の滴下が続き、混酸と2層に分かれてたまった原料が、撹拌の再開と同時に一気に反応して最終的に発火・爆発に至った事故です。

再現実験では、撹拌を再開した直後に温度が約30 K上がり、その後は毎分約220 Kの急上昇と二酸化窒素の発生が起きました。未反応の原料がたまること自体が危険で、反応が進んでいるのを確かめずに原料を加え続けないことが、運転の要点になります。

図5:ニトロ化の暴走を防ぐ4つの管理

「熱を出す速さ」を原料の加え方で決め、「熱を除く力」と「最後の逃がし先」で受け止めます。

原料の加え方混酸や原料を一気に入れず、反応で消費される速さに合わせて少しずつ加える
撹拌撹拌が止まったら原料の供給も止め、2層にたまった原料をいきなり混ぜない
冷却と温度監視ジャケットやコイルで除熱し、温度の上がり方を見る。反応が進まないまま原料をためない
放出と閉じ込め異常時は水を張ったタンクへ中身を落とし(ダンプ)、圧力は安全装置で逃がす

※産業安全研究所「ベンゼンのニトロ化における反応の暴走」「ニトロ化反応の暴走事故の再現実験」(RIIS-SRR-88、1989年)で挙げられた予防・防護の項目を整理したものです。

除熱の能力は、ジャケットや外部の熱交換器の伝熱面積と温度差で決まります。設計の考え方は熱交換器の種類と伝熱の計算で、圧力を逃がすラプチャーディスクの使い方は別の記事で解説しています。

暴走事故の型と再発防止の仕組みは、化学プラントの暴走反応事故から学ぶで事例とともに整理しています。ニトロ化に限らず、発熱反応の安全は「原料をためない」「熱の出入りを見る」の2点に集約されます。

廃酸の再濃縮と排水の処理

反応を終えた混酸は、水で薄まった硫酸が主の「廃酸」になります。そのまま捨てれば大量の硫酸を中和して処分することになるため、廃酸を濃縮して反応に戻す方法が使われます。

1978年に米国で登録された断熱ニトロ化の特許(American Cyanamid)は、反応器を外から冷やさず、反応熱を混合物に残したまま連続して運転する方法です。80〜120℃に温めた混酸をベンゼンと混ぜ、反応温度が145℃を超えないように混酸の組成を決めています。

この方法では、反応後の廃酸は硫酸62〜68%で、反応熱で温まったまま真空のフラッシュ蒸発器へ送り、水を飛ばして濃縮して戻します。

計算例で見た「1トンあたり約146 kgの水と約1 GJの熱」を、反応熱で水を飛ばす熱として使う発想です。同じ特許は、この方法でジニトロベンゼンを500 ppm未満に抑えられるとしていて、温度を上げても多置換を抑える工夫が組み込まれています。

BREFは、ニトロ化で出る窒素酸化物(NOx)を水や薄い硝酸で洗って回収するとしています。ニトロベンゼンをアルカリで洗った排水は、ニトロフェノール類やピクリン酸の塩を含んで特に毒性が高く、湿式酸化や焼却、活性炭吸着で処理します。

酸性の排水は、水蒸気で有機物を追い出したうえで中和し、生物処理に回します。排水の有機物の量を測る指標はCOD(化学的酸素要求量)の記事で、測定法と排水基準まで扱っています。

実際の工場では:スルホン化で洗剤とイオン交換樹脂をつくる

スルホン化で付くスルホ基は水になじみやすく、強い酸の性質をもちます。この2つの性質を、油になじむ部分や樹脂の骨格と組み合わせたのが、洗剤とイオン交換樹脂です。

洗濯用洗剤のLAS:SO3で直鎖アルキルベンゼンをスルホン化

環境省のPRTRファクトシートによると、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)は合成洗剤の主成分で、直鎖アルキルベンゼンを三酸化硫黄と反応させ、アルカリで中和してつくります。油になじむ炭素10〜14個のアルキル基と、水になじむスルホン酸の塩を1分子にもつ界面活性剤です。

直鎖アルキルベンゼンのスルホン化と中和(Rは炭素10〜14個の直鎖アルキル基)
R−C6H5 + SO3 → R−C6H4−SO3H
R−C6H4−SO3H + NaOH → R−C6H4−SO3Na + H2O
SO3との反応では水ができないので、硫酸を使うときのように酸が薄まって反応が頭打ちになることがありません。

化学工学会の英文誌に載った論文(2015年)によると、LASは通常、SO3ガスで直鎖アルキルベンゼンをスルホン化する流下膜式反応器でつくられます。流下膜式は、液体を管の内壁に膜のように流し落としながらガスと触れさせる方式です。

LASが使われる前は、枝分かれしたアルキル基をもつABSが主流でした。ABSは微生物に分解されにくく、1950〜60年代に下水処理場や河川で泡が立つ問題を起こしたため、分解されやすい直鎖のLASに置き換わりました。

環境省の資料によると、2013年度のLASの国内流通量は約4万7,000トンでした。販売量の81%が洗濯・住宅用の洗剤、約11%が業務用の洗浄剤です。

PRTRファクトシートでは、2010年の国内生産量が約5万5,000トンとされています。下水処理場でLASの97〜99.9%が取り除かれるという報告も紹介されています。

イオン交換樹脂:スチレン樹脂の粒をスルホン化する

水処理に使う強酸性の陽イオン交換樹脂も、スルホン化でつくります。スチレンにジビニルベンゼンを加えて重合した、網目状に橋かけされた樹脂の粒を、膨潤させる溶媒の中で濃硫酸と反応させ、樹脂の中のベンゼン環にスルホ基を付ける方法が特許にも記されています。

スルホ基に付いたH+やNa+は、水中のカルシウムイオンなどの陽イオンと入れ替わります。ナトリウム形の樹脂でカルシウムやマグネシウムを取り除く軟水化がその代表で、ボイラー水の水処理の記事でボイラーのスケールを防ぐ役割を説明しています。

強い酸の性質そのものを使う例もあります。スルホン酸型の強酸性イオン交換樹脂は、フェノールとアセトンからポリカーボネートの原料のビスフェノールAをつくる反応の触媒にも使われ、液体の酸と違って粒ごと分けられるのが利点です。

ほかのスルホン化:フェノールの旧製法と合成の位置決め

ベンゼンスルホン酸のナトリウム塩を、融かした水酸化ナトリウムと反応させるとフェノールができます。アルカリ融解法と呼ばれる古い製法で、いまの主流との比較はクメン法の反応式と工場のしくみの記事で、副生物の量まで並べています。

図6:スルホン化でできるもの

水になじむ性質と強い酸の性質、外せる性質が、それぞれ別の製品に生かされています。

洗剤(LAS)水と油の両方になじむ界面活性剤。約8割が家庭の洗濯用
イオン交換樹脂スルホ基のH+が陽イオンと入れ替わる。ボイラー給水の軟化など
固体の酸触媒スルホン酸型樹脂でビスフェノールAをつくる
合成の位置決めスルホ基で位置をふさぎ、後で外す。旧製法ではフェノールの原料にも

※環境省PRTRファクトシート「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩」(2012年作成)、特許JP4073496B2・JP3757516B2、LibreTexts「Nitration and Sulfonation of Benzene」をもとに作成。

ニトロ化・スルホン化のよくある質問

ニトロセルロースやニトログリセリンをつくる「ニトロ化」は同じ反応ですか?

混酸を使い、NO2+が関わる点は同じですが、付く場所が違います。ベンゼンのニトロ化では窒素が環の炭素と結合するのに対し、ニトロセルロースやニトログリセリンでは−OHの酸素にニトロ基が付いた硝酸エステルができます。

トルエンはベンゼンよりニトロ化しやすいですか?

しやすくなります。メチル基が環に電子を押し込んで求電子剤を引き寄せやすくするためで、ニトロ基は主にオルトとパラの位置に入ります。工業ではトルエンを2回ニトロ化したジニトロトルエンが、ウレタン原料のTDIのもとになります。

スルホン酸とスルホン酸塩はどう違いますか?

スルホン酸は−SO3Hをもつ強い酸で、それをアルカリで中和して−SO3Naなどにしたものがスルホン酸塩です。洗剤の成分として使われるLASは、中和したナトリウム塩などの形で製品に入っています。

ニトロベンゼンは法令上どんな扱いですか?

厚生労働省のモデルSDS(2017年改訂)では、消防法の第4類第三石油類(非水溶性)に当たり、労働安全衛生法の表示・通知とリスクアセスメントの対象、化審法の優先評価化学物質です。

日本産業衛生学会の許容濃度は1 ppmで、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は皮膚からの吸収にも注意が必要な物質(Skin)としています。毒物及び劇物取締法の劇物、化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)の第1種指定化学物質でもあります。法令は改正されるため、実務では最新のSDSで確かめてください。

まとめ

この記事のまとめ
  • ニトロ化はベンゼン環のHを−NO2に、スルホン化は−SO3Hに置き換える置換反応で、どちらも濃硫酸を使う
  • ベンゼンはπ電子の輪が安定なので、中間体からH+が抜けて輪が戻る置換を選ぶ
  • ニトロ化では濃硫酸がH+を渡してニトロニウムイオンNO2+をつくり、できた水を抱え込む。50〜60℃に保つのは多置換を抑えるため
  • スルホン化の求電子剤はSO3で、硫酸は反応物。水が増えると元に戻る可逆な反応
  • 工場では、ニトロベンゼン→アニリン→MDI→ポリウレタンの流れの入口で、暴走を防ぐ原料の加え方・撹拌・冷却と、廃酸の再濃縮が要になる
  • スルホン化は洗濯用洗剤のLAS(SO3と流下膜式反応器)や、スチレン樹脂をスルホン化したイオン交換樹脂をつくる

ニトロ化とスルホン化は、濃硫酸がH+を渡して求電子剤をつくり、水を抱え込むという同じ考え方で説明できる反応で、その水と熱の扱いが工場の設計まで決めています。

同じベンゼン環の置換反応では、触媒か光かで道が分かれるベンゼンと塩素の反応や、混酸でセルロースを硝酸エステルにするニトロセルロースも解説しています。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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