水素結合とは?F・O・Nとの関係と沸点が高い理由|ナイロンの吸水・樹脂乾燥まで

ナイロン糸のボビンが並ぶ合成繊維工場の巻き取り機

水素結合とは、フッ素(F)・酸素(O)・窒素(N)に結合した水素原子が、隣の分子の F・O・N がもつ非共有電子対に静電気の力で引き寄せられる、分子どうしの結びつきです。

強さは分子の中の共有結合の1/20前後ですが、分子間の引力の中では最も強い部類で、水の沸点や氷の軽さを決めています。構造式では、この結びつきを点線(…)で書き表します。

分子量18の水が100℃で沸騰するのに、分子量34の硫化水素は−60℃で気体になります。この差を生む同じ水素結合が、ナイロン部品が湿気で寸法を変える理由や、PET・ナイロンの樹脂を成形の前に乾燥機で乾かす理由にもなっています。

後半では、繊維・樹脂・紙などの材料の性質と、乾燥・溶媒選び・接着といった工程の管理に分けて、工場で水素結合がどう効いているかを扱います。

目次

水素結合とは:F・O・Nに結合した水素が隣の分子に引き寄せられる力

短く答えると、水素結合は「F・O・N に結合した H」と「別の F・O・N の非共有電子対」の間に働く引力で、構造式では点線(…)で書きます。関わる元素は F・O・N の3つが基本で、H を出す側を供与体、電子対で受ける側を受容体と呼びます。

出発点は、共有結合の電子の偏りです。水分子の O−H 結合では、酸素の電気陰性度が3.44、水素が2.20と大きく違うため、結合に使われている電子の対が酸素の側へ引き寄せられます。その結果、酸素はわずかにマイナス(δ−)、水素はわずかにプラス(δ+)に偏ります。

電子の引き寄せやすさの数値と周期表での並びは電気陰性度の大きい順と大小関係で整理しています。δ+になった水素が、隣の水分子の酸素の非共有電子対(結合に使われていない電子の対)と静電気の力で引き合い、分子どうしがつながります。

図1:水分子どうしの水素結合

水素(δ+)が、隣の分子の酸素(δ−)の非共有電子対に引き寄せられます。実線は分子の中の共有結合、点線が分子どうしの水素結合です。

OHHOHHOHHδ−δ−δ+δ+δ−水素結合水素結合分子の中の共有結合(O−H)分子どうしの水素結合(H…O)

※模式図です。O−H の共有結合は約96 pm、水どうしの水素結合(H…O)は約197 pm と、水素結合の方が長く弱い結びつきです。

水分子は折れ曲がった形をしているため、偏りが分子全体で打ち消されずに残る極性分子です。形と偏りから極性を見分ける手順は極性分子と無極性分子の見分け方で扱っており、水素結合は極性分子どうしの引力の中でも特に強いものと考えると位置づけがつかみやすくなります。

強さを数字で比べると、水素結合の位置がはっきりします。気体の分子どうしで測った目安は、O−H…O が約21 kJ/mol、N−H…N が約13 kJ/mol です。

これは O−H の共有結合(約463 kJ/mol)の1/20ほどですが、無極性分子どうしのファンデルワールス力(数 kJ/mol 程度)よりは強く、分子どうしを集める力としては大きな値です。

結合の種類強さの目安距離の目安例
共有結合(分子の中)391〜565 kJ/mol(N−H・O−H・H−F)約100 pm(水の O−H は約96 pm)水分子の中の O−H
水素結合(分子どうし)約13〜29 kJ/mol(N−H…N〜O−H…N)H…O・N 間で約160〜200 pm(水どうしは約197 pm)水どうし、ナイロンの鎖どうし、DNA の塩基対
ファンデルワールス力(分子どうし)数 kJ/mol 程度(分子の大きさで変わる)分子の大きさによるメタンどうし、ポリエチレンの鎖どうし
表1:結合と分子間の引力の強さの目安。共有結合は平均の結合エンタルピー、水素結合は気体の分子どうしの目安で、条件がそろった比較ではありません。

図2:結合の強さを同じ目盛りで比べる

水素結合は共有結合の1/20前後の強さですが、ファンデルワールス力よりは数倍以上強く、分子どうしの結びつきとしては最も強い部類です。

ファンデルワールス力数 kJ/mol水素結合 N−H…N13水素結合 O−H…O21共有結合 N−H391共有結合 O−H463共有結合 H−F5650200400結合を切るのに要るエネルギー(kJ/mol)

※水素結合は気相の目安、共有結合は平均の結合エンタルピー。ファンデルワールス力は分子の大きさで大きく変わります。

表と図の値は測った状態や分子の組み合わせがそろっていないので、精密な順位ではなく「桁の違い」を見るためのものです。共有結合は分子をつくる力、水素結合とファンデルワールス力は分子どうしを集める力で、水を沸騰させて切れるのは水素結合だけです。

なお、国際純正・応用化学連合(IUPAC)は2011年の勧告で水素結合の定義を広げ、C−H…O のように F・O・N 以外が関わる弱い引き合いも、結合ができている証拠があれば水素結合に含めました。教科書や現場でふつう「水素結合」と呼ぶのは、ここで扱う F・O・N の強いものです。

水素結合する分子の例:O−H・N−H・F−H をもつもの

水素結合をつくるかどうかは、分子の中に O−H・N−H・F−H の結合があるかで見分けます。HF・H2O・NH3 の3つが代表で、そのほかにも次のような分子が水素結合をつくります。

  • アルコール(エタノール C2H5OH など):−OH の H を出し、O の電子対で受ける
  • カルボン酸(酢酸など):2分子が −COOH どうしで2本の水素結合を結んだ二量体になりやすい
  • アミン(アニリン C6H5NH2 など):−NH2 の H を出す
  • アミノ酸・タンパク質・ナイロン:−NH− と C=O の間で、分子の中や分子どうしをつなぐ
  • 糖・セルロース:1分子に −OH が多く、分子どうしが何本もの水素結合で束になる

アミノ酸がもつアミノ基とカルボキシ基の性質はα-アミノ酸の基本構造と分類に、ブドウ糖がつながってできるセルロースの鎖はグリコシド結合のしくみにまとめています。どちらも分子の中に O−H・N−H をたくさん持つので、水素結合が性質を大きく左右します。

一方、アセトン(CH3COCH3)やエーテルのように O はもつが O−H をもたない分子は、自分どうしでは水素結合をつくれません。ただし、O の電子対で水の H を受けることはできるので、アセトンは水とよく混ざり、水素結合は同じ種類の分子どうしである必要はありません。

違う分子どうしの水素結合の代表が、DNA の二重らせんです。向かい合う塩基は A(アデニン)と T(チミン)が2本、G(グアニン)と C(シトシン)が3本の水素結合で対をつくり、この対の決まりがあるので片方の鎖からもう片方の並びが決まります。

水素結合と沸点:H2O・HF・NH3 だけが飛び抜けて高い

液体を沸騰させるには、分子どうしを引き離すエネルギーを熱として与える必要があります。分子の大きさが同じくらいでも、ファンデルワールス力に加えて水素結合も切らなければならない物質は、その分だけ多くの熱を受け取らないと気体になれず、沸点が高くなります。

図3:14〜17族の水素化合物の沸点

第3〜5周期は分子が重いほど沸点が上がりますが、水素結合をつくる第2周期の H₂O・HF・NH₃ だけがこの流れから外れて高くなります。水素結合をつくらない CH₄ は外れません。

−150−100−50050100沸点(℃)H₂O 100℃HF 19.5℃NH₃ −33℃CH₄ −162℃第2周期第3周期第4周期第5周期16族(H₂O など)17族(HF など)15族(NH₃ など)14族(CH₄ など)

※1気圧での沸点。値は下の表2。

水素結合をつくらない14族の CH4・SiH4・GeH4・SnH4 は、周期が下がって分子が大きくなるほど、電子の多さで強くなる分散力(ファンデルワールス力の一種)のおかげで沸点が素直に上がります。15〜17族も第3周期から下は同じ流れに乗っています。

ところが第2周期の NH3・H2O・HF だけは、この流れを延ばして予想される値よりずっと高い沸点を示します。たとえば水は、同じ16族の流れをそのまま延ばすと硫化水素(−60℃)より低い温度で沸騰してもおかしくない大きさの分子ですが、実際の沸点は100℃です。

族第2周期第3周期第4周期第5周期
14族CH₄ −161.5℃SiH₄ −111.9℃GeH₄ −88℃SnH₄ −52℃
15族NH₃ −33.3℃PH₃ −87.7℃AsH₃ −62.5℃SbH₃ −17℃
16族H₂O 100℃H₂S −59.6℃H₂Se −41.3℃H₂Te −2.2℃
17族HF 19.5℃HCl −85.1℃HBr −66.8℃HI −35.4℃
表2:14〜17族の水素化合物の沸点(1気圧)。値は CRC Handbook などを引いた各物質の資料による。

水を蒸発させるのに要る熱(蒸発熱)は100℃で40.65 kJ/molと大きく、ボイラーや蒸留塔で大量の蒸気を扱うときのエネルギーの多さも、水素結合の多さの表れです。

水とエタノールのように水素結合で強く引き合う液体の組み合わせは、蒸留・分留の原理で扱う共沸のように、沸点の差だけでは分けきれない振る舞いも見せます。

沸点と並んでよく問われるのが、氷が水に浮く理由で、これも水素結合の結果です。ほとんどの物質は固体の方が液体より密度が大きく沈みますが、水は逆で、氷の密度は0℃で0.9167 g/cm3、同じ0℃の水は0.99984 g/cm3あります。

図4:氷が水に浮く理由

氷では1分子が4つの分子と決まった向きに水素結合し、すき間の多い網目になります。融けると網目が一部くずれて分子が詰まるため、液体の方が重くなります。

氷(0℃)水(0℃の液体)0.917 g/cm³1.000 g/cm³すき間の多い網目網目がくずれて詰まる

※丸は水分子1個、点線は水素結合の模式図です。実際の氷は立体の網目で、液体の水の中でも水素結合はつながったり切れたりしています。

氷の中では、1つの水分子が4つの水分子と正四面体の向きに水素結合し、向きが決まっているためにすき間の多い六角形の網目をつくります。融けると網目の一部がくずれて分子がすき間に入り込むので、液体の水の方が詰まって重くなり、密度は3.98℃で最大になります。

水が凍ると体積はどれだけ増えるか(0℃)
体積の比 = 水の密度氷の密度 = 0.999840.9167 = 1.091
凍ると体積が約9%増える
密度の単位は g/cm3。同じ質量の水が氷になると、体積は密度の逆比で増えます。

この約9%の膨張は、冬に屋外の配管や冷却水ラインが割れる原因になります。工場の凍結防止で水を抜く、ヒーター(電気トレース)を巻く、流れを止めないといった対策をとるのは、閉じた配管の中で水が凍ると、逃げ場のない体積の増え分が管を内側から押し広げるためです。

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水素結合についてよくある疑問

ここからは、水素結合を学ぶとよく出てくる3つの疑問に答えます。いずれも「なぜ F・O・N と H の組み合わせだけが特別なのか」を、原子の大きさと分子の形から考えると筋道立てて説明できます。

なぜ水素だけが「水素結合」をつくるのか

答えは、水素は内側に電子をもたず、電子を引き寄せられると原子核がむき出しに近くなる、いちばん小さな原子だからです。水素の電子は1個だけで、それが F・O・N の側へ引き寄せられると、外から見るとプラスの原子核が露出したような状態になり、相手の電子対にぐっと近づけます。

ほかの原子は、結合に使う電子の内側にも電子の殻をもっているので、電子を引かれても原子核のプラスは内側の電子に覆われたままです。そのため δ+になっても、水素ほど小さく強い正電荷の点にはならず、相手の電子対に近づいて強く引き合うことができません。

ホウ素(2.04)やケイ素(1.90)のように、水素(2.20)より電気陰性度が小さい非金属もありますが、これは結合の電子の偏る向きが逆になるという話で、水素結合の条件とは別の問題です。水素結合で大事なのは、電子を引かれた水素の小ささとむき出しの度合いのほうです。

「水素の原子核には中性子がないから」という説明を見かけますが、中性子の有無は関係しません。中性子を1個もつ重水素でできた重水(D2O)も水と同じように水素結合をつくり、沸点は101.4℃と水よりわずかに高い値です。

原子の大きさの順は原子半径の大小の決まり方で確かめられ、同じ周期では右へ行くほど、同じ族では上へ行くほど原子が小さくなります。

なぜ窒素と塩素の電気陰性度は近いのに、HClは水素結合しにくいのか

まず数値を確かめると、ポーリングの電気陰性度は窒素3.04、塩素3.16で、同じではありませんが近い値です。それでも NH3 が水素結合をつくり、HCl はほとんどつくらないのは、塩素が第3周期の大きな原子で、電子対のマイナスが広い範囲に薄く広がっているためです。

窒素の非共有電子対は小さな原子の近くに集まっているので、δ+の水素が近づくと強く引き合えます。塩素は電子の殻が1つ多いぶん原子が大きく、電子対が広がって引きつける力が弱まるため、HCl どうしの引き合いは主に双極子どうしの引力とファンデルワールス力になります。

その違いは沸点にそのまま表れ、NH3 は−33℃、HCl は−85℃です。

ただし先に触れた IUPAC の広い定義では、塩化物イオン(Cl−)が水の H を受ける弱い水素結合もあると考えられています。「Cl はまったく水素結合しない」と言い切るより、「F・O・N に比べて弱い」と理解するのが正確です。

なぜHFの水素結合は強いのに、水の方が沸点が高いのか

1本の水素結合の強さを比べると、F が最も電気陰性度が大きいため、F−H…F は O−H…O と同じか強いくらいです。それでも水の沸点(100℃)がフッ化水素(19.5℃)より高いのは、1分子がつくれる水素結合の本数が、水の方が多いからです。

図5:H₂O・HF・NH₃ のつながり方の違い

1本の水素結合の強さより、1分子が何本つなげるかが沸点を決めます。出す H と受ける非共有電子対の両方がそろう水だけが、立体の網目をつくれます。

OHH水 H₂OH 2個で出し、電子対2組で受ける→ 最大4本の網目HFHFFフッ化水素 HFH が1個だけ→ ジグザグの鎖(1分子1本)NHHHアンモニア NH₃H は3個あるが、受ける電子対は1組だけ

※薄い丸は隣の分子の相手(受け手または出し手)を表す模式図です。

水分子は、H を2個もっていて水素結合を2本出せるうえ、酸素に非共有電子対が2組あるので2本受けることもでき、合わせて最大4本で上下左右に網目を広げます。1本の水素結合は2つの分子で分け合うので、氷の網目では1分子あたり2本に相当します。

フッ化水素は F に非共有電子対が3組あっても、出せる H が1個しかないので、分子は1本ずつつながったジグザグの鎖になり、1分子あたりの本数は1本です。液体の HF も平均5〜6分子の短い鎖が集まった状態で、気体になっても一部は鎖や環の会合体のまま残ります。

アンモニアは反対に、H を3個もっていても受け手になる非共有電子対が1組しかないので、出せる数ほどにはつながれません。性質の詳しい違いはフッ化水素の性質と弱酸である理由でも扱っており、出す側と受ける側の数がつり合う水だけが、立体の網目をつくれることが沸点の順に表れています。

実際の工場では:繊維・紙・タンパク質の性質を水素結合が決める

強さを生む一方で、水を吸う原因にもなるという両面があり、同じ水素結合が「長所」と「管理すべき課題」の両方になるのが材料での特徴です。

ナイロンとアラミド:強さの源と、吸水による寸法変化

ナイロンは、アミド結合(−CO−NH−)でつながった高分子で、隣り合う鎖の C=O と N−H が水素結合で結び付きます。

ポリエチレンのように鎖どうしがファンデルワールス力だけで集まる樹脂より融点が高く、強く粘り強いのはこのためです。ナイロンやPETをつくる反応は縮合反応のしくみで整理しています。

ベンゼン環をまっすぐつないだアラミド繊維では、硬い鎖が水素結合で横に整列して板状に並ぶため、引張強さが約3,000 MPaの繊維になります。防弾ベストや光ファイバーケーブルの補強材(ケブラーなど)に使われるのは、まっすぐな鎖と規則正しい水素結合の組み合わせがつくる強さです。

一方で、アミド基は水分子とも水素結合をつくるので、ナイロンは湿気を吸います。DuPont の PA66(Zytel)の設計資料では、相対湿度50%で約2.8%、100%で約8.5%の水を含んで平衡になり、そのとき寸法は約0.6%、約2.6%伸びるとされています。

数値は資料の代表値で、グレードや強化材の有無で変わります。

図6:ナイロンが湿気を吸ってから、現場で確かめるまで

吸水は水素結合の網目に水が割り込む現象なので、ナイロン部品の寸法や強さは「どの湿度の状態で測ったか」とセットで扱います。

STEP 1湿気を吸うアミド基どうしの水素結合のすき間に水分子が入り込み、鎖の間をゆるめる(PA66 は50%RHで約2.8%)
STEP 2寸法と剛性が変わる寸法が伸び(50%RHで約0.6%)、剛性と強さが下がる代わりに粘り強くなる。乾けば元に戻る
STEP 3条件をそろえて確かめる成形直後か調湿後か、温度・湿度・厚さを決めて寸法と物性を測り、保管の湿度も管理する

※数値は DuPont の PA66(Zytel)の設計資料の値。グレード・ガラス繊維の有無・厚さで変わります。

吸った水は鎖の間の水素結合に割り込んで鎖の動きをゆるめるため、剛性と強さが下がり、伸びと粘りが増します。

変化は乾けば戻る可逆なものです。ただし厚さ1.5 mmの成形品が50%RHで平衡に達するまで約125日かかるので、成形直後の乾いた状態と、数か月後の吸湿した状態で寸法や強さが違うことを前提に、部品の寸法を決めます。

設計や品質管理では、「成形直後(水分0.2%以下の状態)で測ったのか、調湿してから測ったのか」を必ず添えて数値を扱います。

精度が要る部品には、吸水の少ない PA612(50%RHで約1.3%)やガラス繊維で強化したグレードを選ぶ方法もあり、樹脂ごとの特性の違いはエンプラの種類と選び方で比べています。

セルロースと紙:繊維どうしをつなぐのは水素結合

紙は、木材のパルプからとったセルロースの繊維を水に分散させ、すいて乾かしたものです。繊維どうしを接着剤なしでつないでいるのは、主にセルロースの −OH どうしの水素結合で、水が抜けて繊維が近づくほど結合の数が増えて紙が強くなります。

逆に紙を水に濡らすと、水分子が繊維の間の水素結合に入り込んでつながりをほどくため、薬剤なしの紙では元の強さの10%未満になるほど弱くなります。キッチンペーパーや段ボールのように濡れても形を保ちたい紙には湿潤紙力剤を加え、乾いたときの強さの10〜30%を残せるようにしています。

セルロースを一度溶かして糸に戻した繊維がレーヨンで、製法はレーヨン(再生繊維)の製法で紹介しています。綿や紙が水を吸いやすく、乾くと縮んだり波打ったりするのも、繊維の中と間の水素結合が水の出入りで組み替わるためです。

タンパク質とDNA:形を保つ弱いつながり

タンパク質は、アミノ酸の鎖の C=O と N−H が水素結合を結ぶことで、らせん(αヘリックス)やシート(βシート)の形に折りたたまれます。1本1本は共有結合よりずっと弱いので、加熱や薬品で水素結合が切れると形がくずれ、働きを失う「変性」が起こります。

DNA の2本の鎖も塩基どうしの水素結合でつながっているので、加熱すると共有結合を切らずに1本ずつにほどけます。

遺伝子検査などで使う PCR(DNA を増やす方法)は、94〜98℃に20〜30秒加熱して鎖をほどく工程をくり返し、G−C の対が多い DNA ほど水素結合の本数が多く、ほどけにくくなります。

食品や医薬品の工場で加熱殺菌がタンパク質の性質を変えるのも、同じ水素結合の切断です。タンパク質の有無を色で確かめる方法はアミノ酸・タンパク質の検出反応でまとめています。

実際の工場では:乾燥・溶媒選び・接着を水素結合で読み解く

後半は、工程の条件として水素結合を管理する場面です。材料に吸われた水を抜く、溶かす・混ぜる相手を選ぶ、表面どうしをくっつけるという3つの作業は、どれも「どの分子と水素結合をつくらせるか」を決める作業と読み替えられます。

成形前の乾燥:ナイロンとPETは吸った水を抜いてから溶かす

射出成形機の上に付いたホッパードライヤーと除湿乾燥機

ナイロンや PET の樹脂ペレットは、保管中に空気中の水を吸います。吸った水は表面に付いているだけでなく、ペレットの内部まで分子との引き合いで保持されているため、温風を当てただけでは抜けにくく、成形の前に除湿した熱風を通す乾燥機で時間をかけて抜きます。

乾かさずに溶かすと、成形機の中の高温で水がポリマーの鎖を切る加水分解が起き、分子量が下がって強さや粘り(溶融粘度)が落ちます。ナイロンでは、水蒸気が成形品の表面に銀色の筋(シルバーストリーク)を残す外観不良も出やすく、乾燥の条件は品質の条件そのものです。

条件の一例が、BASF のガラス繊維33%強化 PA66(Ultramid A 218G V33)の加工資料です。水分を最大0.15%まで下げ、除湿空気の乾燥機で80℃(70〜100℃)とし、時間は初めの水分量と空気の露点で変わるとしています。他のグレードでは値が異なります。

PET はさらに厳しい条件です。Alpek Polyester の PET グレード(LaserW AF405)の例では、除湿空気の露点は−37℃以下(できれば−40℃以下)です。ホッパー入口は165℃(最高175℃)、滞留は4時間以上(6時間推奨)が条件です。

業界誌 PETplanet Insider の書籍抜粋では、押出機に入る時点の水分は50 ppm(0.005%)以下が目安です。それでも固有粘度(分子量の目安)は0.03〜0.04下がるという説明です。

ペットボトルの成形工程はペットボトルの製造工程とブロー成形で詳しく扱っています。

現場で管理する数字は、乾燥機の温度・露点・滞留時間に加え、乾燥後のペレットの水分(水分計で測る値)と、乾かしすぎによる黄変や粘度の上がりすぎです。具体的な値は樹脂のグレードごとの加工資料で決まるため、グレードを替えたら条件表も必ず見直します。

溶媒選び:溶解度パラメータの水素結合成分 δH

塗料・インキ・接着剤の溶剤や洗浄剤を選ぶときは、ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)がよく使われます。分子どうしの引き合いを分散力 δD、極性 δP、水素結合 δH の3つに分けた値で、3つの値が近い溶媒と溶質ほど混ざりやすく、溶けたり膨らんだりしやすいと見積もります。

溶媒δD(分散)δP(極性)δH(水素結合)
水15.516.042.3
エタノール15.88.819.4
アセトン15.510.47.0
トルエン18.01.42.0
n-ヘキサン14.900
表3:ハンセンの溶解度パラメータ(単位 MPa1/2、25℃)。Hansen「Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook」2nd ed. の値。

δH が42.3と飛び抜けて大きい水と、0のヘキサンが混ざらないのは表から読めます。エタノールは δH が中ほどで、水とも多くの有機溶剤とも混ざるので、洗浄や抽出で両方の性質を使い分ける溶媒として重宝されます。

使い方の例として、−OH を多くもつ樹脂(ポリビニルアルコールやセルロース誘導体など)を溶かしたいときは、δH の大きい溶媒から候補を挙げます。反対に、樹脂部品をふいても侵されにくい洗浄剤を探すときは、樹脂と δH が離れた溶媒を候補にします。

最後は実際に浸して膨潤や白化を確かめますが、試す順番を決めるのに水素結合の成分が役立ち、むやみに溶剤を試す回数を減らせます。

接着・塗料の密着:表面の −OH と水素結合

金属の表面は空気中で薄い酸化膜に覆われ、ガラスの表面にも −OH(シラノール基)が並んでいます。エポキシやウレタンの接着剤・塗料は、分子の中の −OH や −NH− がこの表面の −OH と水素結合をつくることで、硬化の前から表面になじみ、密着の一部を担います。

ポリエチレンやポリプロピレンのように表面に極性基がない樹脂は、そのままでは接着剤や塗料がはじかれやすいため、コロナ放電やプラズマで表面に −OH や C=O を作ってから塗ります。表面処理の考え方は表面処理の仕組みと基本原理で解説しています。

ただし密着は水素結合だけで決まるわけではなく、油や離型剤の汚れ、表面の粗さ、濡れ広がり(接触角)の影響も大きく受けます。現場で脱脂を最初に行い、水の接触角やぬれ張力で表面の状態を確かめてから塗るのは、水素結合をつくる相手の −OH を表面に出しておくための準備でもあります。

水素結合のよくある質問

水素結合は化学結合ですか、分子間力ですか?

分子と分子の間に働く分子間力に分類するのが一般的です。ただ、ファンデルワールス力より強く、決まった方向に働く点では共有結合に近い性質もあり、DNA やタンパク質のように1つの大きな分子の中で働く水素結合もあります。

C−H の水素も水素結合をつくりますか?

炭素と水素は電気陰性度の差が小さいので、C−H はふつう水素結合をつくらないと考えます。ただし IUPAC の2011年の定義は、C−H…O のようにごく弱い引き合いも、結合ができている証拠があれば水素結合に含めています。

水素結合の強さは何で比べますか?

身近な比べ方は、沸点・融点・蒸発熱のように分子を引き離すのに要る熱を見る方法です。研究では、水素結合をつくった O−H や N−H の伸び縮みの振動が赤外吸収で低い波数側へずれる大きさや、計算化学で求めた結合エネルギーからも比べます。

水素結合はなぜ温度で切れやすいのですか?

1本の強さが10〜30 kJ/mol 程度と共有結合よりずっと小さいので、加熱で分子の動きが激しくなると切れたりつながったりをくり返します。液体の水の中の水素結合も絶えず組み替わっており、温度が上がるほど1分子あたりの本数は減っていきます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 水素結合は、F・O・N に結合した H が別の F・O・N の非共有電子対に引かれる分子間の結びつきで、点線で書く
  • 強さは O−H…O で約21 kJ/mol と共有結合の1/20ほどだが、ファンデルワールス力より強い
  • H2O・HF・NH3 は水素結合の分だけ沸点が高く、氷はすき間の多い網目のため水に浮く(凍ると体積約9%増)
  • 水素だけが特別なのは、内側に電子がなく小さいため。HCl は Cl が大きく電子対が広がるので弱い。水の沸点が HF より高いのは本数が多いため
  • ナイロン・アラミド・紙の強さも水素結合で、同じ理由で吸水による寸法・強さの変化が起きる
  • PA・PET の成形前乾燥、溶媒の δH、接着前の表面処理は、水素結合をどう管理するかの工程

水素結合は、1本1本は弱くても数が集まると、水の沸点から繊維の強さ、樹脂の寸法、紙の濡れ強さまでを決める力になります。材料や工程で「水を吸う」「乾かす」「なじむ」という言葉が出てきたら、どこに O−H・N−H があるかを探すと理由が見えてきます。

分子の集まり方と融点の関係は共有結合の結晶と分子結晶の違い、イオンや分子が水に包まれるしくみは水和の原理で解説しています。

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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