アミロースとアミロペクチンの違い|構造・ヨウ素反応の色とでんぷんの工業利用

ステンレスのタンクと配管が並ぶでん粉工場の内部

アミロースとアミロペクチンの違いは、グルコースのつながり方と枝分かれの有無です。アミロースはα-1,4結合だけで1本の鎖になってらせんを巻き、アミロペクチンはその鎖のところどころからα-1,6結合で枝が出た、房のような巨大分子です。

普段食べるうるち米には両方が含まれ、もち米はほぼアミロペクチンだけでできているため粘りが強くなります。この構造の差が、ヨウ素液で青くなるか赤紫になるか、冷めて硬くなるかを分け、工場ではその性質を使い分けて、でんぷんを紙の強度剤や段ボールの接着剤、食品の品質を保つ材料にしています。

目次

デンプンとは?α-グルコースがつながった植物の貯蔵多糖

デンプンは、α-グルコースが多数つながった多糖類で、植物が光合成でつくった糖をたくわえておくための形です。種子や根、地下の茎(いも)の細胞の中に「デンプン粒」という小さな粒として詰め込まれ、芽を出すときなどに分解されてエネルギー源になります。

グルコースが1つつながるたびに水が1分子ずつ抜けるので、デンプンは縮合反応を繰り返してできた天然の高分子とみなせます。グルコースC6H12O6から水を除いたC6H10O5が繰り返しの単位になり、デンプン全体は(C6H10O5)nと書けます。

グルコースがつながってデンプンになる(縮合)
n C6H12O6 → (C6H10O5)n + n H2O
nはつながったグルコースの数で、数千から数十万になります。厳密には鎖の両端の分だけ抜ける水は(n−1)分子ですが、nが非常に大きいのでnと書きます。

デンプン粒の中には、性質の違う2種類の分子が混ざっています。直鎖のアミロースと枝分かれしたアミロペクチンで、多くのデンプンではアミロースが重さで15〜35%、残りがアミロペクチンです(Tetlow & Bertoft、2020年)。

図1:デンプン粒の中の2つの成分

1つのデンプン粒の中に、まっすぐな鎖のアミロースと、枝分かれしたアミロペクチンが混ざっています。

デンプン粒アミロースアミロペクチンいも・種子の細胞内直鎖でらせんを巻く(15〜35%)枝分かれした巨大分子(残り)●=枝

※割合は多くのデンプンでの範囲(Tetlow & Bertoft、2020年)。もち米などのもち種はアミロースをほとんど含みません。分子の形は簡略化しています。

1つの分子に含まれるグルコースの数(重合度)は、分子量を繰り返し単位の式量162で割ると見積もれます。アミロースは数百〜数千個(下の計算では約6千個)、アミロペクチンは数万〜数十万個にもなり、デンプンを「数百〜数千個のグルコースの鎖」とだけ考えると、アミロペクチンの大きさを大きく見誤ります。

重合度 ≒ 分子量 ÷ 繰り返し単位の式量アミロース
1×106162 ≒ 約6×103
(グルコース約6千個)
アミロペクチン
1×107〜1×108162 ≒ 約6×104〜6×105
(グルコース約6万〜60万個)
162はC6H10O5の式量(12.01×6+1.008×10+16.00×5 ≒ 162.1)。分子量はTetlow & Bertoft(2020年)の目安で、同じ文献はアミロースの鎖を数百〜数千個としており、実際の個数は幅があります。

天然の高分子は1つの決まった分子量をもたず、長さの違う分子の集まりなので、ここでの値は平均分子量として読む数字です。同じグルコースでも、β-1,4結合でまっすぐつながると植物の繊維をつくるセルロースになり、これを溶かして糸に戻したものがレーヨンです。

アミロースとは?α-1,4結合だけでつながる直鎖とらせん

アミロースは、グルコースの1位の炭素と隣のグルコースの4位の炭素が酸素を介して結びつく、α-1,4グリコシド結合だけで1本の鎖になった分子です。グルコースには6位にも−CH2OHのOH基がありますが、アミロースではそこから枝が出ることはほとんどありません。

α-1,4結合では、隣り合うグルコースの環が同じ向きに一定の角度で連なるため、鎖はまっすぐ伸びずに少しずつ曲がっていきます。その結果、グルコース6個でほぼ1巻きのらせんになり、1巻きの高さは約0.8 nm(8 Å)です(Pesek ほか、2022年)。

らせんの内側には、ちょうどヨウ素やヨウ化物イオンが1列に入る太さの空間があり、これが後で説明するヨウ素デンプン反応の青色のもとになります。グリコシド結合ができるしくみやα・βの見分け方、酵素で切れる位置は、グリコシド結合の記事で反応式とともに詳しく扱っています。

かさばる枝をもたないアミロースは、加熱して水に分散させたあとに冷えると、鎖どうしが並んで寄り集まりやすい性質をもちます。この寄り集まりがご飯やうどんを硬くする老化の大きな原因になる一方で、乾かすと丈夫な膜になりやすいとされ、工業では高アミロースのでんぷんが繊維の糊やガラス繊維の集束剤に使われています。

アミロペクチンとは?α-1,6結合で枝分かれした巨大分子

アミロペクチンも骨組みはα-1,4結合の鎖ですが、ところどころでグルコースの6位のOH基から別の鎖が伸びています。この枝の付け根がα-1,6グリコシド結合で、多くのデンプンでは全結合の約5%を占めます(Tetlow & Bertoft、2020年)。

枝分かれの間隔の見積もり
α-1,6結合の割合 5%
→ 10.05 = 20
グルコース約20個に1か所
森北出版『化学辞典 第2版』はアミロペクチンの平均鎖長を約25単位としており、枝の間隔は「約20〜25個に1か所」が目安になります。

図2:鎖を伸ばすα-1,4結合と枝を出すα-1,6結合

1位と4位がつながると鎖が伸び、1位と6位がつながると、そこから枝が分かれます。

OO……1461α-1,4結合(鎖を伸ばす)α-1,6結合(枝を出す)6位の−CH₂−から枝へ主鎖が続く枝のグルコース

※六角形はグルコースの環(ピラノース環)を簡略化したもの。数字は炭素の番号です。アミロースは上の枝がなく、下の鎖だけが続きます。

枝の先がさらに枝分かれを重ねるので、アミロペクチンは房(クラスター)がいくつも連なったような形になり、分子量はアミロースより1〜2桁大きくなります。外側の短い鎖は2本ずつ絡み合った二重らせんをつくって並び、デンプン粒の中で規則正しい結晶の層を組み立てています。

デンプン粒の結晶の割合(相対結晶化度)は20〜45%ほどで、この結晶部分をおもに担うのがアミロペクチンです(Tetlow & Bertoft、2020年)。粒が冷水に溶けずに沈むのはこの結晶のためで、水と加熱して結晶をほどく「糊化」で、はじめて粘りのある糊になります。

アミロースとアミロペクチンの違いまとめ

2つの違いを一言でいえば、α-1,6結合の枝があるかどうかです。どちらもα-グルコースが同じ向きにつながったデンプンの仲間なので、枝が出ても結合の向き(α)は変わらず、違いは枝の有無と、そこから生まれる大きさ・形・性質の差です。

項目アミロースアミロペクチン
グルコースのつながり方α-1,4結合だけ(直鎖)α-1,4結合+α-1,6結合(枝分かれ)
枝の頻度ほとんどない全結合の約5%(約20〜25個に1か所)
分子の形らせん(グルコース6個で1巻き)房状。外側の短い鎖が二重らせんをつくる
分子量の目安約106(グルコース約6千個)107〜108(約6万〜60万個)
ヨウ素デンプン反応の色青赤紫
冷えたときの老化起こりやすい起こりにくい
デンプン中の割合多くのデンプンで15〜35%残りの大部分。もち種ではほぼすべて
米での例うるち米に15〜20%程度もち米はほぼアミロペクチンだけ
出典:Tetlow & Bertoft(2020年)、森北出版『化学辞典 第2版』、ALIC掲載の解説(2015年)、農研機構(2014年)。数値は多くのデンプンでの目安で、植物や品種によって変わります

実際のデンプンでは2つが同じ粒の中に混ざっていて、その比率は植物や品種で大きく変わります。もち米やもち種のトウモロコシのようにアミロースをほとんど含まないものから、高アミロース種のように大半をアミロースが占めるものまであります。

身近な例が米で、農研機構によると日本の一般的なうるち米のアミロース含有率は15〜20%程度、もち米は0%です。その中間の数%〜15%程度のものは低アミロース米と呼ばれ、アミロースが少ないほどご飯の粘りが強く、冷めても硬くなりにくくなります。

図3:米の種類とアミロース含有率

アミロースが少ないほど粘りが強く、ゼロのもち米はほぼアミロペクチンだけでできています。

もち米低アミロース米うるち米0%数%〜15%程度15〜20%程度帯は0〜25%の範囲での位置(左端が0%)

※農研機構「西日本向きの低アミロース米『ぴかまる』を開発」(2014年)の用語解説による日本の米の目安。品種によって幅があります。

農研機構は、冷めても硬くなりにくい低アミロース米に、家庭用だけでなくブレンド用・業務用の需要があるとしています。弁当やおにぎりのように炊いてから時間をおいて食べる用途で、アミロースの量が品種選びの判断材料になっているわけです。

ヨウ素デンプン反応:らせんの長さで色が変わる

ヨウ素液(ヨウ素ヨウ化カリウム水溶液)をデンプンに加えると、褐色の液が青紫色に変わります。これは、アミロースのらせんの中にヨウ素とヨウ化物イオンが1列に入り込んだ包接化合物ができ、らせんの中で電子が移って、ヨウ素だけのときとは違う色の光を吸収するようになるためです。

色はらせんの長さで決まり、平凡社『世界大百科事典』によれば、ひと続きの直鎖部分がグルコース30〜35個以上なら青、8〜12個なら赤、6個以下では呈色しません。長いらせんのアミロースは青、枝で鎖が短く区切られたアミロペクチンは赤紫、さらに枝の多いグリコーゲンは赤褐色になります。

図4:直鎖の長さとヨウ素デンプン反応の色

ヨウ素はらせんの中に1列に入り、らせんが長いほど色は赤から青へ移ります。

らせんの中にヨウ素が1列に入るグルコース6個で1巻き直鎖部分の長さと色6個以下8〜12個アミロペクチン(平均約25個)30〜35個以上(アミロース)呈色しない赤赤紫(極大吸収540 nm前後)青(極大吸収600 nm台)長い

※鎖の長さと色は平凡社『改訂新版 世界大百科事典』、アミロペクチンの平均鎖長と極大吸収波長は森北出版『化学辞典 第2版』とPesek ほか(2022年)による目安。色見本は見え方の代表例で、デンプンの種類で変わります。

芋の切り口で見る青紫は、青いアミロースと赤紫のアミロペクチンの色が重なったものです。アミロースを含まないもち米の飯粒にヨウ素液を垂らすと、青くならずに赤紫色を示すので、うるち米との見分けにもこの違いが使えます。

この色は加熱すると消えますが、冷やすと再び現れます(森北出版『化学辞典 第2版』)。温めるとらせんがゆるんでヨウ素が抜け出し、冷えると再び取り込まれるためと考えられ、加熱によってデンプンが反応する力を失ったわけではありません。

反応は鋭敏で、10−5 mol程度のヨウ素も検出できるため、ヨウ素滴定の終点を知らせる指示薬に使われます。食品や研究の現場では、色の変わり方からデンプンの分解の進み具合やアミラーゼの働きの強さも調べ、タンパク質の検出反応と同じく色で成分を確かめる分析の基本になっています。

ヨウ素が結びつく量は、純粋なアミロースで100 mgあたり18〜20 mg、アミロペクチンでは1 mg以下と大きく違います。

米の品質検査ではこの差を使い、国際規格ISO 6647-1が、脱脂した米粉をアルカリに溶かしてヨウ素で発色させ、波長720 nmの吸光度からアミロース含量を求める方法を定めています。

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デンプンの分解酵素:アミラーゼからグルコースまで

デンプンを分解する代表的な酵素がアミラーゼで、グリコシド結合に水を入れて切る加水分解を進めます。デンプンの鎖は、グルコース2個がα-1,4結合したマルトース(麦芽糖)が長く並んだものとも見ることができ、アミラーゼはこの鎖をいろいろな位置で切っていきます。

分解の途中では、長さのそろわない糖の鎖が混ざった「デキストリン」ができ、さらに進むとマルトースになります。マルトースはマルターゼ(α-グルコシダーゼ)によってグルコース2分子に分かれ、ここまで進むとデンプンは単糖まで戻ったことになります。

デンプンの加水分解(全体)
(C6H10O5)n + n H2O → n C6H12O6
マルトースがグルコースに分かれる
C12H22O11 + H2O → 2 C6H12O6
検算:下の式は左辺がC 12・H 24・O 12、右辺もC 12・H 24・O 12で釣り合います。上の式は縮合の式を逆向きにしたもので、結合1本を切るごとに水1分子が入ります。

分解の進み具合は、前の章のヨウ素の色で追えます。鎖が短くなるにつれて、直鎖の長さと色の関係のとおり青から赤のほうへ色が移り、6個以下まで短くなると呈色しなくなるので、色が消えたところが分解の目安になります。

α-アミラーゼは鎖の内側のα-1,4結合を切る酵素で、枝の付け根のα-1,6結合は残りやすくなります。そこで工場の糖化では、プルラナーゼやイソアミラーゼという枝切り酵素を糖化酵素と組み合わせて、グルコースの純度を上げています(ALIC『砂糖類・でん粉情報』2023年12月号)。

農林水産省の見通しでは、令和8でん粉年度の国内需要の約69%にあたる164万2千トンが、ぶどう糖・水あめ・異性化糖などの糖化製品に向かいます。液化から糖化、ブドウ糖の一部を果糖に変える異性化までの温度・時間の条件は、前述のグリコシド結合の記事で工程図とともに紹介しています。

実際の工場では:コーンスターチと加工でんぷんの使い道

農林水産省によると、令和8でん粉年度(2026年10月〜2027年9月)の国内のでん粉需要は237万4千トンの見通しです。供給の約86%にあたる205万3千トンは、輸入とうもろこしからつくるコーンスターチが占めます。

用途の見込みは、糖化製品が164万2千トン、化工でん粉が22万9千トン、製紙用・ビール用・片栗粉用などのその他が50万2千トンです。使い道ごとに求められる性質が違うため、未加工のまま使うものと、加工して使うものに分かれます。

未加工のでんぷんには、冷えると老化する、粘度が変わりやすい、糊化の温度が工程に合わないといった扱いにくさがあります。化工でん粉(加工でんぷん)はこうした癖を処理で直したもので、OH基の一部を別の基に置き換える、鎖どうしを橋かけする、鎖を短く切るのが代表的な方法です。

工業での使い道は、でんぷんのどの性質を使うかで整理できます。おもな対応は次のとおりで、どれもアミロースとアミロペクチンの性質、そして糊化・老化のしやすさと結びついています。

  • 接着する力:紙の繊維どうし、段ボールの中芯とライナー、板紙の層を貼り合わせる
  • 膜をつくる力:紙の表面を固めるサイズプレス、繊維のたて糸や、ガラス繊維を束ねる糊
  • 粘りと保水性:段ボールの糊の安定、塗工紙の顔料の塗料、食品のとろみ
  • 分解のしやすさ:糖化製品や発酵の原料、生分解性プラスチック

製紙・段ボール:紙の強さと貼り合わせを支える

食品以外の工業用でん粉では、製紙と段ボールがその大半を占めます(ALIC掲載の解説、2014年)。紙での主な役目は乾いた紙の強さを高め、印刷・加工・包装に耐えるようにすることで、古紙の割合が増えて原料の繊維が弱くなった分を、でん粉で補う使い方も増えています。

図5:紙と段ボールのどこにでんぷんが入るか

紙では強度と表面の仕上げに、段ボールでは貼り合わせの接着剤に、工程ごとに違う加工でんぷんが使われます。

紙をつくる(抄紙機)
01内添脱水前のパルプ液にカチオン化でん粉を加え、繊維どうしを接着して強度を上げる
02層間スプレー板紙の湿った層の間に生のでん粉を吹き付け、ドライヤーの熱で糊化させて貼る
03サイズプレス・塗工低粘度の酸化でん粉などを表面に塗り、印刷に耐える強さを出す。塗工では顔料をつなぐ
段ボールをつくる(コルゲートマシン)
04製糊苛性ソーダで糊化させた「キャリア」に、糊化前の生のでん粉「メイン」を分散させる
05シングルフェーサー波形の中芯の段の頂に糊を付け、熱ロールで裏ライナーと瞬間的に接着する
06ダブルバッカー表ライナーを重ねて熱盤で加熱し、メインのでん粉が糊化して接着が完成する

※ALIC掲載の解説「製紙および段ボール工業におけるでん粉の利用」(2014年)による。内添用は、同じ働きをするポリアクリルアミドなどに置き換わりつつあります。

抄紙機の入口でパルプの懸濁液に加える内添用には、カチオン化でん粉が使われます。パルプ繊維や填料(紙に混ぜる炭酸カルシウムなど)はマイナスの電荷を帯びているので、OH基に第三級アミンや第四級アンモニウムの基を付けてプラスにしたでん粉のほうが繊維によく吸着し、接着剤として働きます。

表面の強さが要る印刷用紙では、乾燥の途中で紙にでん粉の糊を塗るサイズプレスを通します。高速で均一に塗るには粘度の低い糊が必要なため、鎖を短くして老化もしにくい酸化でん粉や、工場内でα-アミラーゼで粘度を下げる自家変性でん粉が使われます。

断面に波形の中芯が見える積み重ねた段ボールシート

段ボールでは、波形の中芯と表裏のライナーを貼り合わせる接着剤がでん粉です。糊は、苛性ソーダで糊化させて粘りと保水性を出したキャリアに、糊化前の生のでん粉であるメインを分散させた二層の構造で、コルゲートマシンの熱でメインが糊化した瞬間に接着力が生まれます。

キャリアがないと、生のでん粉が沈み、水分を紙に吸われてメインが糊化しきれず接着不良になります。板紙の層間スプレーも、糊化前のでん粉を湿った紙の間に吹き付けて熱で糊化させる点は同じで、紙の表面に残りやすい粒の大きなばれいしょでん粉を好む製紙メーカーもあります。

輸出品の梱包に使う段ボールや紙の緩衝材は、欧州の包装規則PPWRのような包装材の規制でも扱われる資材です。段ボールの接着剤は小麦粉やニカワに始まり、水ガラスを経て、主にコーンスターチを使ういまのでん粉の糊に落ち着いたとされます(ALIC掲載の寄稿、2010年)。

繊維の糊付けとガラス繊維の集束剤

繊維で生かされるのは、でんぷんの膜をつくる力です。織物工場では、織機の上で何度もこすられるたて糸を守るため、糸に糊を付けて表面を固めます。

ALIC掲載の解説(2012年)によると、柔らかい膜をつくるポリビニルアルコール(PVA)だけの糊より、でん粉を混ぜた糊のほうが、織機の上でのたて糸切れが少なくなります。

でん粉の膜は硬くてもろいので、乾燥後に貼りついた糸どうしを1本ずつ分けるとき、膜がきれいに裂けて毛羽が立ちにくくなります。高濃度でも粘度の低い糊にするため、酸化でん粉や、PVAとなじむように改質した酸化でん粉が使われ、高速の織機の効率を支えています。

少し意外な使い道が、プリント基板の補強材になるガラス繊維です。紡糸した数百本のガラスのフィラメントを束ねる集束剤にでん粉を使い、膜をつくる力が強いヒドロキシプロピル化した高アミロースのコーンスターチが主に選ばれ、布に織ったあとは焼いて取り除きます(同解説)。

でんぷん系の生分解性プラスチック

でんぷんは、微生物がもつ酵素で切れるα結合の多糖なので、生分解性プラスチックの原料にもなります。日本バイオプラスチック協会(JBPA)が国内で展開されている生分解性プラスチックとして挙げる中には、でんぷんとポリエステルを組み合わせた「澱粉ポリエステル」があります。

ただし、でんぷんを含む材料がすべて生分解性になるわけではありません。JBPAはポリエチレンにでんぷんを混ぜた製品を生分解性プラスチックとして認めておらず、でんぷんの部分が分解されても、ポリエチレン自体は微生物で分解されないためです。

でんぷんは糖に変えて発酵させる原料にもなり、ポリ乳酸(PLA)などの原料作物にはトウモロコシが挙げられます。分解のしくみと種類は生分解性ポリマーの記事に、使い終わったプラスチックを化学的に原料へ戻す方法はケミカルリサイクルの記事にまとめています。

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実際の工場では:糊化と老化が食品の品質を決める

生のデンプン粒は冷たい水に溶けませんが、水と一緒に加熱すると粒が水を吸ってふくらみ、結晶がほどけて粘りのある透明な糊になります。この変化が糊化(α化)で、ご飯を炊く、うどんをゆでる、ソースにとろみを付けるといった加工は、すべて糊化を利用しています。

糊化したデンプンは水に分散した親水コロイドの一種で、冷えると鎖どうしが網目をつくって流動性を失い、わらび餅のようなゲルになります。このまま冷やして置いておくと、ばらばらになった鎖が水素結合で再び寄り集まり、硬くぼそぼそした状態へ戻っていきます。

これが老化(β化)で、食感が硬くなるだけでなく、透明感がなくなり、水が分離する離水が起きることもあります(ALIC掲載の解説、2015年)。炊いたご飯が冷めると硬くなるのも、チルドのうどんがぼそぼそになるのも、同じ老化です。

図6:糊化と老化で起きること

加熱で粒の結晶がほどけて糊になり、冷えて時間がたつと鎖が束になって硬くなります。

水+加熱冷却・保存生の粒糊化(α化)老化(β化)冷水に溶けない粘りのある透明な糊硬く白っぽい・離水
温度水が凍らない程度の低温で最も進む
水分50〜60%で最も進み、乾いた食品では起きない
アミロースアミロペクチンより老化しやすい
糖質・乳化剤老化を抑える。パンでは酵素も併用

※老化を左右する4つの因子は、ALIC掲載の解説「加工デンプンの特性と食品への利用法」(2015年)による。

老化の進みやすさを決める因子のうち、原料に関わるのがアミロースの量です。枝のない長い鎖のアミロースほど並んで束になりやすく、コーンスターチや小麦などの穀物系のでんぷんは、タピオカなどのいも系より老化しやすい性質があります。

もち米が炊いて冷めても比較的硬くなりにくいのは、アミロペクチンでほぼできているためで、低アミロース米に業務用の需要があるのも同じ理由です。

温度については、水が凍らない程度の低温で最も老化しやすいとされ、冷凍食品ではこの温度域をすばやく通り過ぎることが品質の要になります。水分は50〜60%のときに最も進みやすく、水分を極力減らした即席麺やせんべいでは老化が起きません。

チルドの麺や冷凍食品のたれ・ソースには、OH基の一部を置き換えて鎖の会合を抑えた耐老化性でんぷん(酢酸でんぷん、ヒドロキシプロピル化でんぷん)が使われます。粘度を安定させる架橋でんぷん(リン酸架橋など)と組み合わせ、冷蔵・冷凍を経てもとろみや食感を保ちます。

加熱殺菌のあと常温や冷蔵で流通するレトルト食品でも、ソースのとろみや具材の食感は、でんぷんの糊化と老化の影響を受けます。加熱後の冷却や保管の温度帯は、食品工場がHACCPで管理する項目でもあり、衛生だけでなく老化という品質の面からも決めておく必要があります。

アミロースとアミロペクチンのよくある質問

グリコーゲンとアミロペクチンはどう違いますか?

どちらもα-1,4結合の鎖にα-1,6結合の枝が付いた多糖ですが、グリコーゲンは動物が肝臓や筋肉にたくわえる多糖で、アミロペクチンより枝が多いのが特徴です。枝が多く直鎖部分が短いため、ヨウ素液では赤紫ではなく赤褐色になります。

セルロースとデンプンは何が違いますか?

どちらもグルコースがつながった多糖ですが、デンプンはα結合、セルロースはβ-1,4結合でつながっています。セルロースは鎖がまっすぐ伸びて水素結合で束になるため水に溶けにくく、人の消化酵素ではβ結合を切れないので消化できません。

デキストリンとは何ですか?

デンプンを酸や酵素で途中まで分解してできる、長さのそろわない糖の鎖の混ざりものです。分解の程度はDE(ブドウ糖当量)で表し、水あめはDE10〜60で、米国ではDE20未満のものをマルトデキストリンと呼びます。

加工でんぷんは食品添加物ですか?

化学薬品でOH基を置き換えるなどした食品用の加工でんぷんは食品添加物として扱われ、ALICの2015年の解説時点で12種類が使え、それぞれに規格基準があります。たとえばリン酸架橋でんぷんはリン含量0.5%以下と、加工の程度にも上限があります。

まとめ

この記事のまとめ
  • デンプンはα-グルコースが縮合でつながった植物の貯蔵多糖で、直鎖のアミロースと枝分かれしたアミロペクチンが同じ粒に混ざる
  • アミロースはα-1,4結合だけの直鎖で、グルコース6個で1巻きのらせんを巻く。分子量は約106
  • アミロペクチンはα-1,6結合の枝が全結合の約5%あり、分子量107〜108の巨大分子。2つの違いは枝分かれがあるかどうか
  • ヨウ素デンプン反応はらせんの長さで色が変わり、アミロースは青、アミロペクチンは赤紫。うるち米はアミロース15〜20%程度、もち米は0%
  • アミラーゼでデキストリン、マルトースを経てグルコースまで分解され、工場の糖化では枝切り酵素を併用する
  • 工業では製紙の強度剤や段ボールの接着剤、繊維の糊に使われ、食品では老化を抑える加工でんぷんが品質を支える

アミロースとアミロペクチンの差は、α-1,6結合の枝があるかどうかという1点ですが、その違いがヨウ素の色、米の粘り、冷めたときの硬さ、紙や段ボールでの使われ方まで決めています。

糖の還元性やグリコシド結合の土台は、ヘミアセタールとアセタールの解説で整理しています。でんぷんを原料に使う会社が集まる食品・医薬・日用品業界の全体像は、別記事で解説しています。

出典

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