一酸化炭素が水に溶けにくい理由|極性が小さいしくみと工場での扱い

高炉と3基の熱風炉、ガス配管が並ぶ製鉄所の全景

一酸化炭素(CO)が水に溶けにくいのは、分子の中の電荷の偏りがほとんどなく、極性をもつ水の分子に引きつけられないからです。偏りの大きさを表す双極子モーメントは約0.11 D(デバイ)で水の約17分の1しかなく、20℃の水100 mLに溶けるのは2.3 mLほどです。

炭素と酸素には電気陰性度の差があるのに偏りが小さいのは、三重結合の1本が酸素から炭素への配位結合で、電子を酸素へ寄せる力と炭素へ戻す力がほぼ打ち消し合うためです。工場ではこの性質が、高炉ガスや合成ガスに含まれる CO を水で洗っても取り除けないという制約として表れます。

目次

一酸化炭素とはどんな物質?性質と毒性

一酸化炭素は炭素原子1個と酸素原子1個からなる分子量28.0の気体で、無色・無臭です。空気に対する比重は0.97で、平均分子量が約29の空気とほぼ同じ重さのため、漏れても上や下にたまらず、まわりの空気と混ざって広がります。

図1:一酸化炭素の基本データ

においも色もなく、空気とほぼ同じ重さで、燃える範囲が広い気体です。

無色・無臭見ても嗅いでも気づけない。検知器でしか分からない
空気の0.97倍分子量28.0。漏れると空気と混ざって広がる
沸点 −191.5℃常温では気体。液化には深い冷却が要る
爆発範囲 12.5〜74 vol%空気中で燃える濃度の幅が広い可燃性ガス

※値は職場のあんぜんサイト「モデルSDS 一酸化炭素」と NIOSH Pocket Guide による。爆発範囲の上限はモデルSDSで74.2 vol%、NIOSH で74%。

化学的には還元剤としてよく働き、高温で金属の酸化物から酸素を奪って二酸化炭素になります。製鉄の高炉で鉄鉱石を鉄に変えているのもこの反応で、コークスが燃えてできた CO が炉の中を上りながら酸化鉄を還元します。

高炉の中で CO が酸化鉄を還元する反応
Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2
Fe2O3:鉄鉱石の主成分(赤鉄鉱)。CO は C + O2 → CO2、CO2 + C → 2CO の順にコークスからできる

毒性の強さは、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンとの結びつきやすさから来ています。厚生労働省の e-ヘルスネットは、CO は酸素に比べて200倍以上ヘモグロビンと結びつきやすいと説明していて、吸い込むと血液が酸素を運べなくなり、頭痛や吐き気から意識を失うまで進みます。

CO はヘモグロビンの中の鉄(ヘム鉄)に、炭素の側を向けて結合します。なぜ酸素の側ではなく炭素の側でつながるのかは、後で説明する分子の中の電子の並び方と同じ理由で説明できます。

一酸化炭素が水に溶けにくい理由|極性がほとんどないから

CO が水に溶けにくい理由を一言でいえば、水が極性の強い分子なのに対して、CO はほとんど極性のない分子だからです。極性物質は極性溶媒に、無極性物質は無極性溶媒に溶けやすいという「似たものは似たものを溶かす」の経験則がそのまま当てはまります。

水は電荷の偏った分子を引きつけて溶かす

水の分子は酸素側が負、水素側が正に偏っていて、まわりの水分子と水素結合で強くつながっています。そこへ別の分子が入るには水どうしのつながりを切る必要があり、入ってくる分子が水と同じように電荷の偏りや水素結合で引き合えるときだけ、切った分の埋め合わせができます。

分子の極性の決まり方は極性分子と無極性分子の見分け方で、水どうしをつなぐ力は水素結合のしくみで詳しく扱っています。CO には水素がなく、電荷の偏りもごく小さいので、水の分子のすき間に割り込む見返りがほとんどありません。

ただし「溶けない」わけではなく、量が少ないだけです。イオンや極性分子のまわりを水の分子が取り囲む水和が起こらない分、CO は水の分子のすき間にわずかに入り込む程度にとどまり、酸素や窒素と同じ「溶けにくい気体」の仲間になります。

ヘンリー定数で比べると、酸素や窒素と同じくらい

気体が水にどれだけ溶けるかは、温度を決めたうえで、その気体の分圧1あたりに溶ける量を表すヘンリー定数で比べます。NIST の値(25℃)では CO が 0.00099 mol/(kg·bar) で、酸素の 0.0013 や窒素の 0.0006 と同じ桁に並びます。

図2:気体の水への溶けやすさ(ヘンリー定数)

CO は酸素・窒素と同じくらい溶けにくく、二酸化炭素はその約34倍溶けます。

二酸化炭素 CO2

0.034

酸素 O2

0.0013

一酸化炭素 CO

0.00099

窒素 N2

0.0006

※単位は mol/(kg·bar)。25℃で、その気体の分圧1 bar あたり水1 kg に溶ける物質量。値が大きいほど溶けやすい。NIST Chemistry WebBook の値(窒素は 0.00060〜0.00065 の範囲)。棒の長さは値に比例。

計算例:25℃・1気圧の純粋な CO と接した水1 kg に溶ける量
c = kH × p = 0.00099 × 1.013
= 1.0 × 10−3 mol/kg
1.0 × 10−3 mol × 28.0 g/mol = 約28 mg
c:水1 kg に溶ける CO の物質量 kH:ヘンリー定数[mol/(kg·bar)] p:CO の分圧[bar](1気圧 = 1.013 bar)。同じ条件の二酸化炭素は 0.034 × 1.013 × 44.0 ≒ 1.5 g で、物質量で約34倍

二酸化炭素も分子全体では極性のない分子ですが、CO よりずっと多く溶けます。CO2 は酸素原子が負に偏った結合を2本もち、水の分子と引き合える部分があるうえ、溶けた一部が水と反応して炭酸になるためです。CO は水とも反応しない中性の酸化物なので、こうした上乗せもありません。

分圧と溶ける量の関係や、混合気体・温度を変えたときの計算はヘンリーの法則の計算方法で整理しています。温度が上がると CO の溶ける量はさらに減るので、温かい排水や冷却水に溶け込んで持ち出される CO はごくわずかです。

一酸化炭素の極性が弱い理由|三重結合の1本が配位結合

CO の極性がとても弱いのは、炭素と酸素の間の三重結合のうち1本が、酸素の非共有電子対を炭素と分け合う配位結合だからです。電気陰性度の差による偏りと、配位結合による逆向きの偏りが重なり、分子全体ではほとんど打ち消し合います。

電気陰性度の差だけを見ると極性分子になるはず

ポーリングの電気陰性度は炭素が2.55、酸素が3.44で、差は0.89あります。2つの原子だけからなる分子は形で偏りを打ち消せないので、差だけを見れば、酸素側が負に偏った極性分子になるはずです。

実際、同じ炭素と酸素の組み合わせでも、有機化合物のカルボニル基(C=O)は酸素側が負に大きく偏っていて、反応の起点になります。電気陰性度の値の決まり方と結合の偏りの見積もり方は電気陰性度の大小関係と使い方にまとめています。

三重結合のうち1本は酸素から炭素への配位結合

最外殻の電子は炭素が4個、酸素が6個で、どちらも相手と分け合える不対電子を2個ずつもっています。この2個ずつを出し合うと共有結合が2本でき、酸素のまわりは8個になりますが、炭素のまわりは6個で、8個そろうと安定するオクテット則を満たしません。

そこで酸素は、2組ある非共有電子対のうち1組(電子2個)を炭素との間に差し出し、炭素と共有します。片方の原子だけが電子対を出すこの結合が配位結合で、3本目の結合ができると炭素も酸素もまわりが8個になります。

図3:一酸化炭素の三重結合のでき方

共有結合2本では炭素の電子が6個に足りず、酸素の非共有電子対1組が配位結合の3本目になります。

① 最外殻の電子:C は4個、O は6個CO青い点:相手と出し合う不対電子灰色の点:非共有電子対② 不対電子を出し合い、共有結合が2本COC のまわり 6個(オクテットに2個足りない)O のまわり 8個③ O の非共有電子対1組で配位結合CO−+オレンジの線:O から C への配位結合C も O もまわりが 8個(オクテット)形式電荷は C が −1、O が +1

※点は最外殻の電子。線1本が電子2個(共有電子対)を表す。形式電荷は電子を結合の両側に半分ずつ配ったと仮定した帳簿上の電荷で、実際の電荷の偏りとは別のもの。

電子の数を帳簿のように数えると、炭素は自分の4個より1個多い電子を、酸素は6個より1個少ない電子を受け持つ形になり、形式電荷は炭素が −1、酸素が +1 です。配位結合のしくみと、金属イオンに配位子が結合する錯イオンの例は配位結合と共有結合の違いで扱っています。

偏りが打ち消し合い、炭素側がわずかに負になる

結合1本ごとに見ると、電気陰性度の大きい酸素は、共有している電子を自分の側へ引き寄せます。一方で配位結合は酸素の電子を炭素側へ移す向きに働き、炭素に残った非共有電子対も分子の外側へ張り出すので、電子を酸素へ寄せる力と炭素へ戻す力が反対向きに並びます。

図4:電荷の偏りが打ち消し合うしくみ

酸素へ寄せる向きと炭素へ戻す向きがほぼ同じ大きさで、差し引きはごくわずかに炭素側が負になります。

CO電子が寄る向き(矢印の先が負の側)電気陰性度の差(C 2.55・O 3.44)で結合の電子が O へ寄る配位結合で O の電子が C へ移り、C 側の非共有電子対も外へ張り出す差し引きC 側がわずかに負 約0.11 D(水は1.86 D、約17分の1)

※矢印は電子が寄る向きで、矢印の先が負の側。上2本の長さは向きを示すための模式で、実際の大きさを測った値ではない。差し引きの値と向きは実測(NIST CCCBDB、Rosenblum ら 1958)による。

差し引きの結果は、実測の双極子モーメントで約0.11 Dです。向きは1958年に同位体の測定から決められていて、電気陰性度から予想されるのとは逆に炭素の側がわずかに負で、ヘム鉄やニッケルに炭素の側から結合するのも、炭素に電子の多い側があるためです。

分子双極子モーメント[D]水への溶けやすさ
水 H2O1.857(溶媒)
アンモニア NH31.476非常に溶けやすい
塩化水素 HCl1.093非常に溶けやすい(塩酸になる)
一酸化窒素 NO0.159溶けにくい
一酸化炭素 CO0.112溶けにくい(20℃で 2.3 mL/100 mL)
窒素 N2・二酸化炭素 CO20(対称な分子)N2 は溶けにくい、CO2 はやや溶ける
表1:主な分子の双極子モーメント。値は NIST CCCBDB の実測値(気体の基底状態)。CO の溶解度は職場のあんぜんサイト「モデルSDS」

「CO は極性分子か無極性分子か」と問われたら、厳密には極性分子で、極性が水の約17分の1と小さいため性質は無極性分子に近い、と答えるのが正確です。

電子の数が CO と同じ14個の窒素 N2 は、沸点が −196℃と CO の −191.5℃に近く、水への溶けにくさもほぼ同じで、2つの分子が似たふるまいをすることがこの見方を裏づけています。

偏りはゼロではないので、赤外線で濃度が測れる

極性がゼロの N2 や O2 は、伸び縮みしても電荷の偏りが変わらないので赤外線を吸収しません。CO は偏りが小さくても伸び縮みとともに偏りが変わるため、波数 約2,143 cm−1(波長 約4.7 µm)の赤外線を強く吸収します。

この吸収を使うのが非分散赤外線(NDIR)方式の分析計で、JIS K 0098 の排ガス中の CO の分析方法にも入っています。空気の主成分の窒素と酸素は吸収しないので、空気の中の CO だけを選んで測れます。

結合の伸び縮みで赤外線を吸収するしくみはカルボニル基の IR 分析と同じです。

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実際の工場では:一酸化炭素を燃料・原料に使う

CO は毒性の強いガスですが、工場では燃える燃料として、また化学品の炭素源として大量に扱われています。どちらの場面でも、水に溶けにくく水と反応しないという性質のため、CO を含むガスは配管の中で液に吸い取られずにそのまま運ばれます。

図5:工場で一酸化炭素が使われる場面

燃料として燃やす場面と、炭素源として化学品に組み込む場面に分かれます。

高炉ガスCO を約2割含む製鉄所の副生ガス。熱風炉や発電の燃料に
合成ガスCO と水素の混合ガス。天然ガスや石炭からつくる
化学品の原料メタノール、酢酸、アルデヒド(オキソ法)の炭素源
ニッケルの精製CO と反応させて揮発する化合物にし、不純物と分ける

※高炉ガスの組成は IFRF Combustion Handbook(高炉6基の例で CO 20.0〜26.2%)による。

高炉ガス:製鉄所で燃料として使い切る

高炉の炉頂から出る高炉ガス(BFG)は、還元に使われきらなかった CO を含みます。IFRF の燃焼ハンドブックの高炉6基の例では CO 20.0〜26.2%、CO2 15.3〜23.1%、水素 0.4〜6.0%で、乾きガスの低位発熱量は 2.8〜3.9 MJ/m3 です。

熱量が都市ガスの10分の1にも満たない薄い燃料ですが、量が多いので製鉄所では捨てずに燃やします。高炉に送る熱風をつくる熱風炉や構内の発電設備で燃やし、熱量が足りないところはコークス炉ガスを混ぜて増やすのが一般的です。

高炉の中の反応と製鉄所全体の流れは溶鉱炉(高炉)と転炉の反応式で、CO の代わりに水素で還元する方式は水素還元製鉄と高炉の違いで紹介しています。

合成ガスとシフト反応:CO を水素や化学品に変える

天然ガスを高温の水蒸気と反応させる水蒸気改質や、石炭・重質油のガス化では、CO と水素の混合ガス(合成ガス)ができます。このガスからメタノールをつくったり、メタノールに CO を付け加えて酢酸にしたりと、CO は炭素原子を1個ずつ化学品に組み込む部品として使われます。

水素がほしいときは、CO を水蒸気と反応させるシフト反応で水素に変えます。米国エネルギー省の解説のとおり、改質のあとにシフト反応で水素を増やし、最後に CO2 などの不純物を吸着で除くのが、天然ガスから水素をつくる基本の流れです。

シフト反応(水性ガスシフト反応)と反応熱
CO + H2O ⇄ CO2 + H2 ΔH = −41 kJ
ΔH = (−393.5)−{(−110.5)+(−241.8)}
= −41.2 kJ
25℃・1 bar、すべて気体、CO 1 mol あたりの標準反応エンタルピー。値は NIST Chemistry WebBook の標準生成エンタルピー(CO −110.53、H2O(g) −241.83、CO2 −393.51 kJ/mol)。発熱反応なので、低い温度ほど右に進みやすい

アンモニアをつくる工場でも、原料の水素は同じ流れでつくられます。合成の触媒は酸素を含む化合物で働きが落ちるので、残った少量の CO はメタンに変えてから合成塔に送ります。合成の条件と工場の流れはハーバーボッシュ法の反応式と工場の条件にまとめています。

ニッケルの精製:炭素の側で金属と結合する性質を使う

CO が炭素の側で金属と結合する性質は、ニッケルの精製にも使われてきました。1890年にルートヴィヒ・モンドらが見つけたモンド法では、不純物を含むニッケルに CO を通して揮発性の Ni(CO)4(ニッケルカルボニル)をつくり、加熱して純粋なニッケルに戻します。

モンド法(カルボニル法)の反応
Ni + 4CO ⇄ Ni(CO)4
低い温度では右に進んで沸点43℃の液体(揮発しやすい)の Ni(CO)4 ができ、CO と反応しない不純物は固体のまま残る。より高い温度では左に進み、純粋なニッケルが析出して CO は再び使われる

Ni(CO)4 は CO よりはるかに毒性が強く、NIOSH の推奨ばく露限界は 0.001 ppm です。

金属に CO が結合した金属カルボニルは遷移金属に多く、触媒の分野では身近な化合物です。遷移金属の性質は典型元素と遷移元素の違いで、ニッケルの使い道の1つはめっきの種類と選び方で紹介しています。

実際の工場では:水で除けない一酸化炭素の扱い方

胸にガス検知器を付けて保温された配管のフランジを点検する作業者

水に溶けにくいという性質は、CO を取り除く側から見ると大きな制約です。アンモニアや塩化水素のようなガスなら水を噴霧する洗浄塔(スクラバー)で吸い取れますが、CO は水で洗ってもほとんど残るので、化学反応で別の物質に変えるか、吸着や燃焼で処理します。

水で洗っても取れないので、反応で別の物質に変える

どれくらい溶けないかは、ヘンリー定数から規模感をつかめます。次の計算は、高炉ガス1,000 Nm3 に含まれる CO を、仮にすべて水に溶かして取り除こうとしたときの理論上の水の量です。

計算例:高炉ガス1,000 Nm3(CO 22%)の CO を水に溶かすのに要る水の量
CO の物質量 = 1,000 × 0.22 m30.022414 m3/mol
= 9,815 mol
水1 kg に溶ける量 = 0.00099 × 0.22 × 1.013
= 2.2 × 10−4 mol/kg
水の量 = 9,8152.2 × 10−4 ≒ 4.4 × 107 kg
= 約4.4万トン
仮定:CO 22 vol%(IFRF の例 20.0〜26.2% の範囲)、全圧1気圧、水温25℃、水とガスが溶解平衡に達し、溶けた分だけ水を入れ替える。Nm3 は0℃・1気圧の体積で、1 mol = 0.022414 m3。設計値ではなく規模感をつかむための理論値

ガス1,000 Nm3 に対して水4万トン以上という量は現実的ではありません。ノルマル立方メートルの考え方と換算はNm3 と m3 の違いにあり、同じ条件の CO2 なら水の量はこの約34分の1で済むことからも、CO の溶けにくさが際立ちます。

そこで水素の製造では、CO をシフト反応で CO2 に変えてから、溶けやすく吸着しやすくなった CO2 として除きます。

燃料電池自動車用の水素の品質を決める ISO 14687(2019年版のグレードD)は、CO を 0.2 µmol/mol(0.2 ppm)以下と定めています。白金の触媒の表面に CO が強く結合して、働きを落とすためです。

図6:水素から一酸化炭素を除く流れ

水では吸い取れない CO を、反応で溶けやすい CO2 や害のないメタンに変えてから除きます。

STEP 1改質・ガス化天然ガスと水蒸気を700〜1,000℃で反応させ、CO と水素の混合ガスにする
STEP 2シフト反応CO + H2O → CO2 + H2。CO を減らし、水素を増やす
STEP 3吸収・吸着CO2 を吸収液や吸着剤(PSA)で除き、残る不純物も吸着で取る
用途ごと仕上げアンモニア用は残った CO をメタンに変える。燃料電池用は CO 0.2 ppm 以下まで下げる

※流れは米国エネルギー省「Hydrogen Production: Natural Gas Reforming」による。どの工程を組み合わせるかは水素の用途と求める純度で変わる。

燃料電池の触媒で CO が問題になる理由と電池の構造は燃料電池の仕組みと種類で説明しています。CO が触媒の金属に炭素側から結合して離れにくいのは、ヘモグロビンやニッケルと結合するのと同じ性質です。

中毒を防ぐ:検知・換気・保護具

無色・無臭で空気と混ざって広がる CO は、人の感覚では見つけられません。CO を扱う工場や、燃焼設備・エンジンのある場所では、固定式や携帯型の検知器で濃度を常に測ることが対策の出発点で、検知器には電気化学式のセンサーのほか、先に紹介した赤外線式も使われます。

労働災害でよく挙がる原因は、換気の悪い場所での火気の使用、冬のコンクリート養生の練炭、トンネル内のエンジン発電機、狭い場所でのアイドリングなどです。労働安全衛生規則 第578条は、自然換気が不十分な場所で内燃機関をもつ機械を使うことを、換気する場合を除いて禁じています。

基準・法令内容対象
日本産業衛生学会 許容濃度50 ppm(57 mg/m3)1日8時間・週40時間の平均ばく露の目安(勧告)
ACGIH TLV-TWA25 ppm米国の産業衛生専門家会議の勧告値(8時間平均)
NIOSH IDLH1,200 ppm生命や健康に直ちに危険がある濃度
特定化学物質障害予防規則第3類物質大量に漏れると急性中毒を起こすおそれのある物質。漏えいの防止などを定める
労働安全衛生規則 第578条内燃機関の使用制限自然換気が不十分な場所(換気するときを除く)
高圧ガス保安法可燃性ガス・毒性ガス高圧ガスとして製造・貯蔵・移動するとき
表2:一酸化炭素にかかる主な基準。許容濃度・ACGIH は職場のあんぜんサイト「モデルSDS」記載の2019年度の値、IDLH は NIOSH Pocket Guide。最新の値は各機関の公表資料で確かめる

濃度が高い場所に入るときは、防毒マスクではなく、外から空気を送る送気マスクや空気呼吸器を使います。どの作業にどの対策を当てるかは、工場の化学物質のリスクアセスメントで決めていくもので、進め方は工場のリスクアセスメントのやり方で紹介しています。

一酸化炭素のよくある質問

一酸化炭素と二酸化炭素は何が違いますか?

CO は酸素が1個の可燃性で毒性の強いガス、CO2 は酸素が2個の燃えないガスです。CO は燃えると CO2 になり、CO2 は水に溶けて炭酸になりますが、CO は水とも塩基とも常温では反応しない中性の酸化物です。

一酸化炭素はなぜ不完全燃焼で出るのですか?

炭素を含む燃料が燃えるとき、酸素が足りないと炭素が CO2 まで酸化されず、CO の段階で止まるためです。換気の悪い部屋のストーブや、空気の調整がずれたボイラー・燃焼炉で発生しやすく、排ガスの CO 濃度は燃焼の状態を見る指標にも使われます。

一酸化炭素中毒はなぜ気づきにくいのですか?

においも色もなく、初めの症状が頭痛や吐き気といった体調不良と区別しにくいためです。気づいたときには判断力が落ちていることもあるので、検知器の警報が鳴ったら作業をやめて新鮮な空気の場所へ退避し、換気と原因の確認を先に行います。

一酸化炭素は有機溶媒にも溶けにくいのですか?

極性の小さい CO は無極性の溶媒と相性がよい側に入りますが、常温で気体なので、有機溶媒でも溶ける量は多くありません。工業的に CO を分けて取り出すときは、溶媒に溶かすよりも吸着や深冷分離、金属と結合する性質を使った方法が中心です。

まとめ

この記事のまとめ
  • 一酸化炭素は無色・無臭で空気とほぼ同じ重さの可燃性ガス。ヘモグロビンと酸素の200倍以上結びつきやすく、毒性が強い
  • 水に溶けにくいのは、電荷の偏りが小さく水と引き合えないから。25℃のヘンリー定数は酸素・窒素と同じ桁で、二酸化炭素の約34分の1
  • 三重結合のうち1本は酸素から炭素への配位結合で、電気陰性度による偏りと逆向きに働き、双極子モーメントは約0.11 D(炭素側がわずかに負)
  • 工場では高炉ガスの燃料、合成ガスやシフト反応による水素・化学品の原料、ニッケルの精製に使われる
  • 水で洗っても取れないので、反応で CO2 やメタンに変えて除き、作業場では検知器・換気・送気マスクで中毒を防ぐ

「電気陰性度の差がある分子は極性分子」という見方は入口としては便利ですが、CO のように結合のしかたで偏りが打ち消される例外があります。その小ささが、水で除けない、赤外線で測れる、金属に炭素側から結合するという工場での扱い方の違いにまで表れています。

分子量から気体の重さを比べる方法は平均分子量と空気が約29の理由で、CO を燃料や原料として扱う化学メーカーの仕事は次の記事で紹介しています。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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