状態量とは?熱・仕事との違いと示量性・示強性、経路の計算を図解

熱力学の実験台に置いたピストンシリンダーと圧力・温度計器

状態量とは、そのときの系の状態によって値が決まり、そこへ至る経路には依存しない量です。温度、圧力、体積、内部エネルギー、エンタルピー、エントロピーなどが該当します。

一方、熱と仕事は、状態が変わる途中で系と周囲の間を移動するエネルギーです。始まりと終わりが同じでも、どのように加熱し、膨張・圧縮したかで量が変わるため、状態量とは区別されます。

この記事では日常の比喩から、示量性・示強性、二つの経路の仕事計算、第一法則とサイクルまで整理します。「状態量だから変化しない」のではなく、「同じ状態なら同じ値になる」という違いが要点です。

目次

状態量とそうでないものの違い

熱力学でいう系は、考察の対象として区切った物質や領域です。まず「ピストンに閉じ込めた気体」などの対象を決め、その系の現在の状態と、周囲とのエネルギーのやり取りを分けて考えます。

たとえば気体の温度と圧力を測れば、今の状態を表す情報が得られます。一方、そこへ来るまでに何ジュール加熱したかは、今の温度だけからは決まらず、途中の仕事や熱の移動を知る必要があります。

「今どうなっているか」と「どう変えたか」を分ける

状態量の値は、定めた物質と状態について一意に決まります。どこから出発し、どの過程を通ってきたかが違っても、最終的に同じ状態へ到達すれば、その状態量は同じ値になります。

状態量の差も、始点と終点の値を引くことで決まり、途中の経路には依存しません。内部エネルギーならΔU=U₂−U₁であり、経路Aでも経路Bでも、同じ二状態を比較する限り同じ差になります。

図1:状態は系の中、熱と仕事は境界を通る移動

対象をピストン内の気体とした例です。内部エネルギーUは気体の状態を表し、QとWは過程中のエネルギーの受渡しを表します。

気体の状態T・p・V・UQ:熱として入るW:外へする仕事点線:系の境界

※熱は系へ入る向き、仕事は系が外へする向きを正とする符号規約を、この記事では使います。

熱力学の入門では、平衡状態にある系の量として状態量を扱います。激しく混ざる流体や温度むらがある場を一つの温度で表す場合には、代表値や局所状態というモデル上の扱いが加わります。

また「温度が同じ」だけでは同じ状態とは限りません。同じ温度の気体でも密度や圧力が違うことがあり、何を独立した状態の情報として与えるかを、対象とする物質の関係から決めます。

状態量の用語項目では、平衡状態との関係も紹介されています。以下の比喩では現在と履歴を区別し、その後の気体の例では始点と終点をそろえて、経路による違いを計算します。

身長・体重・BMIの比喩は、現在と履歴を分ける入口

身長170cm、体重60kgという現在の値からBMIを計算すると、約20.8になります。過去に体重が増減した人でも、同じ身長と体重を式へ入れる限り、現在のBMIは同じ値になるという比喩です。

現在の値から計算する比喩
BMI = 体重身長2
BMI = 601.702 ≒ 20.8 kg/m2
体重[kg]、身長[m]を代入します。身体指標を厳密な熱力学的状態量として定義するものではありません。

一方、現在の身長と体重だけでは、過去に摂取・消費したエネルギーの総量は決まりません。ダイエットした人と体重が一定だった人の、どちらが必ず多く消費したかも、この情報だけでは断定できません。

この比喩で押さえたいのは、現在の値から決まる量と、過程の情報が必要な量の違いです。熱力学へ戻すと、系の状態を表すUと、そこへ至る途中の熱Q・仕事Wという区別につながります。

代表的な状態量と、熱・仕事の単位

状態量かどうかは、単位がジュールかどうかでは判断できません。内部エネルギーU、エンタルピーH、熱Q、仕事WはいずれもJを使いますが、前二つは状態量、後二つは過程でのエネルギー移動です。

量記号・単位の例状態量か表すこと
温度T[K]状態量熱的な状態
圧力p[Pa]状態量単位面積への力に関わる状態
体積V[m³]状態量系が占める大きさ
内部エネルギーU[J]状態量系内部のエネルギー
エンタルピーH[J]状態量H=U+pVで定義される量
エントロピーS[J/K]状態量第二法則や可逆性に関わる量
熱・仕事Q・W[J]状態量でない境界を通るエネルギーの移動

温度の変化と内部エネルギーの変化も、常に同じものではありません。相変化などもあるため、温度だけを見て熱の出入りやエネルギーの変化を全て判断せず、対象物質の状態を合わせて確認します。

示量性・示強性は、系の量を増やしたときの変化

代表的な状態量は、物質の量に比例する示量性と、量を変えても値が変わらない示強性に分かれます。同じ温度・圧力・組成の物質を二倍集めると、体積や内部エネルギーは二倍になり、温度や圧力は同じです。

均一な液体を同じ条件で二つに分ける例では、半分の質量に対応して体積も半分になります。一方、分けた直後の温度や圧力を、量が半分だからと半分の値へ変えることはできません。

図2:量を半分にすると、体積は半分でも温度は同じ

均一な液体を分けても温度が変わらない、という説明用の比較です。分配時の熱損失や圧力変化は無視しています。容器の形と液面の高さは模式表示です。

分ける前分けた後2 kg・2 L300 K1 kg・1 L1 kg・1 L300 K300 K質量・体積は示量性、温度は示強性

単位質量当たりへ直した比体積v、比内部エネルギーu、比エンタルピーhなども状態量です。たとえばHはJ、hはJ/kgという違いがあり、全量と比量を混ぜるとエネルギー収支の単位が合わなくなります。

比熱も質量当たりの値として使うため、加熱量を計算する際には質量との掛け合わせが関係します。空気の比熱と加熱量の式を使うときも、全量か単位質量当たりかを分けます。

同じ二状態でも、膨張する圧力で仕事が変わる

気体がピストンを押す仕事は、どの圧力の下でどれだけ体積を増やしたかに関係します。準静的な体積仕事ならW=∫p dVと表せ、圧力と体積の線図では経路の下の面積に対応します。

ここでは同じ種類・物質量の理想気体を、状態Aの200kPa・0.010m³から、状態Bの100kPa・0.020m³へ変えます。圧力は絶対圧とし、仕事はピストンによる体積仕事だけで、等圧と定積の順序を比べます。

図3:高圧で膨張する経路と、低圧で膨張する経路

どちらもAからBへ到達しますが、横方向の膨張区間の圧力が違います。定積の縦区間ではピストンが動かず、この体積仕事はゼロです。

AB2001000.0100.020p[kPa・絶対圧]V[m³]経路a経路b気体が膨張押す圧力が違えば仕事も違う

経路aは、200kPaのまま0.010m³だけ膨張し、その後に体積を保って圧力を下げます。等圧膨張の仕事は圧力と体積変化の積で2kJとなり、後の定積区間では仕事を加えません。

経路bは、先に体積を保って圧力を100kPaへ下げ、その後に同じ体積だけ膨張します。この場合の仕事は1kJで、同じAとBを結んでも、経路aの2kJとは異なる結果になります。

準静的な体積仕事を比較する
W = ∫経路 p dV 等圧区間では W = p(V2 − V1)
Wa = 200 × (0.020 − 0.010) = 2 kJ
Wb = 100 × (0.020 − 0.010) = 1 kJ
p:気体の絶対圧[kPa]、V:体積[m3]、W:外へする体積仕事[kJ]。添字1・2は等圧区間の前後、a・bは経路を示します。定積区間ではdV=0です。

pとVはいずれも状態量ですが、過程に沿ってp dVを積み重ねた仕事は経路で変わります。状態量を式の材料に使ったからといって、計算結果が必ず状態量になるわけではないという具体例です。

急激な膨張の仕事は、ピストンが押しのける外圧を使って評価します。上の線図では気体と外側の力がつり合いながら動く準静的な過程を仮定しているため、気体の圧力pを積分に使えます。

経路依存と微分の関係は、仕事が状態量ではない理由の論考でも論じられています。資料では系が受ける仕事を正としているため、符号の定義を合わせて比較します。

第一法則では、熱と仕事の差が内部エネルギーの変化になる

閉じた系で運動・位置エネルギーの変化を無視すると、第一法則はΔU=Q−Wと書けます。ここでQは系へ入る熱、Wは系が外へする仕事を正とするため、出ていく仕事の分を引きます。

たとえば100Jの熱を受け取り、外へ40Jの仕事をすれば、内部エネルギーは60J増えます。内部エネルギーが増えた量と、受け取った熱の量は同じとは限らず、同時に外へした仕事が関係します。

図4:入った熱100Jの全てが、Uの増加になるわけではない

閉じた系で外へ40Jの仕事をした説明例です。残る60Jが内部エネルギーの増加で、QとWは移動、ΔUは状態の差です。

Q=100 JW=40 JΔU=60 JU₂−U₁の増加量系の境界を決めてから収支を書く
運動・位置エネルギー変化を無視した閉系
ΔU = Q − W = 100 − 40 = 60 J
Q:系へ入る熱[J]、W:系が外へする仕事[J]。仕事を系へ入る向きで正とする資料では、式の符号が変わります。

先ほどの理想気体ではAとBのpVが等しく、物質量も同じなので、両端の温度が同じになります。同じ種類・量の理想気体のUは温度で決まるためΔUはゼロで、受熱は経路aで2kJ、経路bで1kJです。

端点の温度と、二経路の正味受熱
pAVA = 200 × 0.010 = 2 kJ
pBVB = 100 × 0.020 = 2 kJ
pV = nRT より TA = TB、ΔU = 0
Qa = ΔU + Wa = 2 kJ
Qb = ΔU + Wb = 1 kJ
n:物質量[mol]、R:モル気体定数[kJ/(mol·K)]、T:絶対温度[K]。Qは途中の受熱と放熱を合計した正味量です。両端の温度が同じでも、二経路の途中は等温ではありません。

このように同じ内部エネルギー変化でも、熱と仕事の組は経路によって異なります。熱と仕事が両方とも状態量でないことは、保存則に反するのではなく、差として同じΔUになることと両立します。

等温変化は温度一定、断熱変化は熱の移動がないという別の条件です。定圧比熱と定容比熱の違いと同じく、何を一定にした過程かを式の前に確認します。

熱は物体の中へ蓄えられた物質のような量ではなく、温度差によるエネルギー移動を表します。物体の中にあるエネルギーを述べるときは内部エネルギーと区別し、Qを状態ごとの残高として扱わないようにします。

ピストン軸とおもり皿を備えた閉じたシリンダー教材
気体を対象に区切り、測定した状態と、境界を通じた熱・仕事の移動を分けて考える。

エンタルピーもエントロピーも、状態量として差を使う

エンタルピーはH=U+pVで定義され、右辺のU、p、Vが状態で決まるためHも状態量です。単位質量当たりではh=u+pvとなり、蒸気設備や流れのエネルギー収支で使われます。

全量と、単位質量当たりのエンタルピー
H = U + pV
h = Hm = u + pv
m:質量[kg]、H・U:全量[J]、h・u:比量[J/kg]、p:絶対圧[Pa]、V:体積[m3]、v=V/m:比体積[m3/kg]。

Hを熱そのものと覚えると、どの過程でもQ=ΔHとしてしまうおそれがあります。エンタルピーと内部エネルギーの違いを確認し、系の条件と仕事の種類を踏まえて収支へ使います。

蒸気タービンでは、入口と出口の比エンタルピー差が軸仕事の計算へ現れます。タービン仕事とエンタルピーの計算のように、流量と比量を組み合わせるため、閉じた系の式とは分けて扱います。

絞り弁では定常流れで、外との熱・軸仕事の授受と運動・位置エネルギー差を無視すると、入口と出口の比エンタルピーが等しくなります。絞り膨張の仕組みや蒸気減圧と乾き度でも、圧力低下とhの変化は別に考えます。

エントロピーSも状態量で、同じ二状態ならΔSは経路によらず決まります。ただしΔSを実際の熱量Qを温度Tで割るだけで常に求められるわけではなく、可逆な熱移動との関係を使って定義します。

断熱だから常にSが一定というわけでもありません。可逆断熱なら等エントロピーですが、閉じた断熱系で不可逆性があればSが増えるため、熱が出入りしないことと状態量の変化を分けます。

サイクルで元へ戻ると、状態量の差はゼロ

サイクルは、一連の過程を経て系が元と同じ状態へ戻る変化です。温度や圧力だけでなく状態全体が同じなので、内部エネルギー、エンタルピー、エントロピーなどの一周後の差はゼロになります。

それでも一周で外へ仕事を取り出す熱機関は成立します。ΔU=0を第一法則へ入れると、一周の正味の熱量と正味仕事が等しくなり、仕事がゼロであることまでは意味しません。

図5:状態量の差ゼロと、正味仕事ゼロは違う

高い圧力で膨張し、低い圧力で戻る模式サイクルです。閉曲線の内側の面積が、準静的な体積仕事の一周の差を表します。

A正味仕事pV一周後:ΔU=0Qnet=Wnet受熱100J・排熱70Jなら正味仕事30J数値と線形状は説明用の仮定

たとえば一周で100Jを受け取り70Jを排出すれば、正味の受熱は30Jで、正味仕事も30Jです。受けた熱が全て仕事になるという意味ではなく、系が元へ戻る間の収支を取っています。

状態点と各過程を比べる練習には、オットーサイクルやディーゼルサイクルの線図が役立ちます。点で決まる量と経路で積み上げる量を分けて読みます。

蒸気のランキンサイクルや、理想的なカルノーサイクルでも原則は同じです。各機器の出入口の状態と、機器を通じて移動する熱・仕事を区別します。

問題を解くときは、状態・過程・符号を先に整理する

まず系の境界と物質量を決め、閉じた系か、物質が出入りする系かを確認します。次に始点と終点の状態を整理し、等圧、定積、等温、断熱など、経路を指定する条件を別に書き出します。

そのうえで、求める量が状態量の差か、熱や仕事の過程量かを判定します。差なら端点の値を使い、仕事なら経路の情報を使い、熱なら第一法則などで必要な条件を結び付けます。

符号は、仕事を「される向き」で正とする資料もあるため、最初に定義を確認します。式の見た目がQ+WかQ−Wかだけで正誤を決めず、エネルギーが系へ入るか外へ出るかを矢印で照合します。

温度はK、圧力は絶対圧など、状態方程式に適した値を使うことも重要です。熱機関とサイクルの基本へ戻り、単位と仮定をそろえてから数値を代入します。

状態量のよくある質問

状態量は変化しない量ですか?

状態が変われば、状態量も変わる場合があります。経路によらないというのは、同じ状態なら同じ値、同じ二状態なら同じ差になるという意味で、温度や体積が常に一定という意味ではありません。

熱と内部エネルギーは何が違いますか?

内部エネルギーは系の状態を表す量で、熱は温度差によって境界を通るエネルギー移動です。加熱しても外へ仕事をすれば、その熱の全てが内部エネルギーの増加になるとは限りません。

圧力と体積が状態量なのに仕事はなぜ違いますか?

仕事は変化の途中に沿って圧力と体積変化を積み重ねる量で、どの圧力で動いたかに依存します。同じ端点でも高圧で膨張する経路と低圧で膨張する経路では、仕事が違います。

エントロピーが状態量なら断熱で一定になりますか?

断熱は熱の移動がない条件で、等エントロピーはSが一定という別の条件です。可逆断熱なら一致しますが、閉じた断熱系で不可逆な変化があればエントロピーが増えます。

一周して元の状態へ戻ると熱も仕事もゼロですか?

ゼロになるのは内部エネルギーなど状態量の一周の変化です。正味の熱と正味仕事が残るサイクルもあり、ΔU=0の条件では両者がエネルギー収支上で等しくなります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 状態量は系の状態で決まり、そこへ至る履歴や経路に依存しない
  • T・p・V・U・H・Sは状態量で、熱Qと仕事Wは過程中のエネルギー移動
  • 示量性は物質量に比例し、示強性は比例しない。全量と比量も分ける
  • 同じ二状態でも、経路が違えば熱や仕事は変わる
  • サイクルの状態量変化はゼロでも、正味熱と正味仕事はゼロとは限らない

式を読む前に、対象の系、二つの状態、経路、仕事の符号をそろえると整理が進みます。現在の状態を表す値と、その状態を変える間のエネルギーの移動を分けることが、熱力学を学ぶ土台になります。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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