電気陰性度とは?大きい順と周期表での大小関係、結合の極性への使い方

フッ素樹脂ライニング配管とバルブが並ぶ化学プラントの配管ラック

電気陰性度は、結合している原子が共有電子対を自分の側へ引き寄せる強さを表す数値で、周期表の右上ほど大きく、フッ素(3.98)が最大です。

代表的な非金属を、最も広く使われるポーリングの値で大きい順に並べます。F 3.98>O 3.44>Cl 3.16>N 3.04>Br 2.96>I 2.66>S 2.58>C 2.55>H 2.20 で、金属の多くは2より小さい値です。

値に単位はなく、フッ素を約4とした相対的な目盛りで、定義の違う尺度があるため、窒素と塩素のように尺度によって順番が入れ替わる組み合わせもあります。

材料の現場では、結合の偏りやイオン性を見積もり、フッ素樹脂の強さや溶媒の選び方、化合物半導体の性質を読む物差しとして使われています。

後半では、差1.7というイオン結合の目安とその限界、フッ素樹脂・水素結合と溶媒、化合物半導体、異種金属の腐食との混同まで扱います。

目次

電気陰性度とは?3つの尺度とイオン化エネルギー・電子親和力との関係

電気陰性度は、原子が単独でいるときではなく、ほかの原子と結合したときに共有電子対をどれだけ自分に引きつけるかを表します。測定器で直接測れる量ではないため、結合エネルギー、イオン化エネルギーと電子親和力、原子の大きさなど、別の測定値から計算して決めています。

代表的な尺度はポーリング、マリケン、オールレッド=ロコウの3つです。教科書やデータ集、PubChem の周期表に載っている値はポーリングの尺度なので、この記事でも数値はポーリングの値(PubChem)を基本にし、ほかの尺度は違いを説明するときにだけ使います。

図1:電気陰性度の3つの定義

どの尺度も「結合の電子を引く強さ」を表しますが、値を決める手がかりが違います。

尺度
値を決める手がかり
フッ素の値
よく使う場面
ポーリング(1932年)
違う原子どうしの結合エネルギーが、同じ原子どうしの平均より大きい分。差しか求まらないので F を約4とした相対値
F:3.98
教科書・データ集の標準。結合の極性やイオン性の見積もりに使う
マリケン(1934年)
イオン化エネルギーと電子親和力の平均。eV 単位で出て、ポーリングの目盛りに換算して使うことが多い
F:10.38 eV(基底状態の値で計算)
原子のエネルギーと電気陰性度の関係を考えるときに使う
オールレッド=ロコウ(1958年)
原子の表面の電子が受ける原子核の引力(有効核電荷と原子半径)。ポーリングの値に近くなるよう係数を合わせた式
F:4.10
周期表の傾向を原子の大きさで説明するときに使う

※フッ素のマリケン値は PubChem のイオン化エネルギー 17.423 eV と電子親和力 3.339 eV から筆者が計算。オールレッド=ロコウ値は WebElements。

旧来の説明で「電気陰性度はイオン化エネルギーと電子親和力の和」と言われるのは、マリケンの定義のことです。正確には和の半分(2つの平均)で、和に比例すると言っても間違いではありません。

イオン化エネルギーは原子から電子を1個引きはがすのに要るエネルギー、電子親和力は電子を1個受け取るときに出すエネルギーです。前者が大きい原子は自分の電子を手放しにくく、後者が大きい原子は他の電子を取り込みやすいので、両方が大きい原子ほど結合の電子を強く引き寄せます。

マリケンの電気陰性度
χM = I + A2
(例)フッ素:17.423 + 3.3392 = 10.38 eV
χM:マリケンの電気陰性度[eV] I:第1イオン化エネルギー[eV] A:電子親和力[eV]。値は PubChem の周期表データ

ただし、孤立した原子のいちばん安定な状態(基底状態)の値で単純に平均すると、塩素 8.29 eV が酸素 7.54 eV を上回り、水素 7.18 eV が炭素 6.26 eV を上回ります。

そこで実用のマリケン値は、結合に使う混成軌道の状態(原子価状態)のエネルギーで計算し直しており、こうするとポーリングの並びにほぼ重なります。

ポーリングの尺度は結合エネルギーの「余り」から決めます。H−Cl のように違う原子が結合すると、電子の偏りによる引き合いが加わり、結合エネルギーが H−H と Cl−Cl の平均より大きくなるからで、この余りが大きいほど差が大きいと考えます。

ポーリングの電気陰性度の差
|χA − χB| = 0.102 × √Δ
Δ = D(A−B) − D(A−A) + D(B−B)2
(例)塩化水素 H−Cl
Δ = 431 − 436 + 2422 = 431 − 339 = 92 kJ/mol
0.102 × √92 = 0.102 × 9.59 = 0.98(表の値の差 3.16 − 2.20 = 0.96)
D:結合エネルギー[kJ/mol](平均結合エンタルピー。H−H 436、Cl−Cl 242、H−Cl 431)。0.102 は kJ/mol を eV に直して平方根をとるための係数。差しか求まらないので、基準としてフッ素を約4に置く。平均には算術平均を使う教科書の式で、幾何平均を使う流儀もある

オールレッド=ロコウの尺度は、原子の表面にある電子が原子核から受ける引力の強さで決めます。内側の電子の打ち消し分を差し引いた正電荷(有効核電荷)を、原子の半径の2乗で割った値が大きいほど、結合の電子を強く引くという考え方です。

オールレッド=ロコウの電気陰性度
χAR = 0.359 × Zeffr2 + 0.744
Zeff:価電子が感じる有効核電荷(スレーター則で計算) r:共有結合半径[Å]。0.359 と 0.744 はポーリングの値に合わせるための係数

電気陰性度の差で結合に分極が起こる

電気陰性度の違う原子 A と B が共有結合すると、共有電子対は電気陰性度の大きい側へ寄ります。電子が寄った側はわずかにマイナス(δ−)、反対側はわずかにプラス(δ+)を帯び、この電荷の偏りを結合の分極(極性)と呼びます。δ(デルタ)は「わずかな量」を表す記号です。

たとえば H−Cl では、電気陰性度が 2.20 の水素から 3.16 の塩素へ電子対が寄り、H が δ+、Cl が δ− になります。

同じ原子どうしの H−H や Cl−Cl は差が0で偏りがありません。反対に差の大きい Na と Cl では、電子が丸ごと移って Na+ と Cl− のイオンになります。

図2:共有電子対の偏り

電気陰性度の差が大きくなるほど、電子対は相手の原子へ寄り、最後はイオンに分かれます。

HHH−H差 0:偏りなしHClδ+δ−H−Cl差 0.96:Cl 側へ寄るNaCl+−NaCl差 2.23:イオンに分かれる

※差はポーリングの値(PubChem)から筆者が計算。偏りから完全な移動までは連続的に変わり、はっきりした境目はありません。

分極は、物質の性質の多くを説明する出発点です。分子の中の偏りが打ち消されずに残ると極性分子になり、水に溶けやすさや沸点が変わります。判定の手順は極性分子と無極性分子の見分け方で、分子の形と組み合わせて整理しています。

有機化学では、炭素 2.55 と酸素 3.44 の差 0.89 で C=O の炭素が δ+ になり、ここに電子の多い相手が攻撃します。この考え方はカルボニル基の性質と反応でくわしく扱っています。

無機化学では、元素と酸素の電気陰性度の差が、酸化物や水酸化物が酸性になるか塩基性になるかを左右します。差の大きい Na の酸化物は塩基性、差の小さい S や P の酸化物は酸性という並びは、酸性酸化物・塩基性酸化物・両性酸化物の違いで反応式とともに確かめられます。

電気陰性度の大小を周期表で表してみる(大きい順)

典型元素の電気陰性度を周期表に並べると、右上ほど大きく、左下ほど小さいことがひと目で分かります。最大は右上のフッ素 3.98、典型元素で最小は左下のセシウム 0.79(フランシウムは 0.7 とされますが、放射性で実測が限られます)です。

図3:周期表で見る電気陰性度

色が濃いほど値が大きく、右上の F・O・Cl・N に大きい値が集まります。

1族2族13族14族15族16族17族18族1H2.20He—2Li0.98Be1.57B2.04C2.55N3.04O3.44F3.98Ne—3Na0.93Mg1.31Al1.61Si1.90P2.19S2.58Cl3.16Ar—4K0.82Ca1.00Ga1.81Ge2.01As2.18Se2.55Br2.96Kr3.005Rb0.82Sr0.95In1.78Sn1.96Sb2.05Te2.1I2.66Xe2.6周期1未満1〜2未満2〜3未満3以上

※ポーリングの値(PubChem)。1・2族と13〜18族の第1〜5周期。「—」は値が定められていない元素。

代表的な非金属を大きい順に並べると、F 3.98>O 3.44>Cl 3.16>N 3.04>Br 2.96>I 2.66>S 2.58>C 2.55>H 2.20 です。リン 2.19 は水素とほぼ同じで、炭素とセレン(2.55)は同じ値です。

「F>O>N=Cl」と覚える並べ方もありますが、ポーリングの値では塩素 3.16 が窒素 3.04 より大きく、差は0.12と小さめです。

オールレッド=ロコウや Allen(価電子のエネルギーから決める分光学的な尺度)では逆に窒素が上になるので、N と Cl は「ほぼ同じで、尺度によって入れ替わる」と理解しておくのが正確です。

元素ポーリングオールレッド=ロコウマリケン=ジャッフェAllen
F(フッ素)3.984.103.914.19
O(酸素)3.443.503.413.61
Cl(塩素)3.162.833.102.87
N(窒素)3.043.072.903.07
C(炭素)2.552.502.482.54
H(水素)2.202.202.252.30
表1:尺度ごとの電気陰性度(ポーリングは PubChem、ほかは WebElements。マリケン=ジャッフェは原子価状態から計算しポーリングの目盛りに換算した値)

金属は全体に値が小さく、アルカリ金属はフランシウムを除いて 0.79〜0.98、鉄 1.83、銅 1.90 と、多くが水素 2.20 より小さい値です。

ただし金 2.54、鉛 2.33、白金 2.28 のように水素を上回る金属もあります。「金属は必ず水素より小さい」とは言い切れず、金属と非金属の境目の考え方は金属元素と非金属元素の違いにまとめています。

電気陰性度の周期性

周期表の並びと電気陰性度の大小には、次の3つの決まりがあります。どれも、価電子が感じる原子核の正電荷の強さと、原子核から価電子までの距離の2つで説明できます。

  • 同じ周期(周期表の横の並び)では、原子番号が大きいほど大きくなる
  • 同じ族(周期表の縦の並び)では、原子番号が大きいほど小さくなる(13族・14族に例外あり)
  • 希ガスの多くは結合をつくらないので、電気陰性度が定められていない

同じ周期では、原子番号が大きいほど大きくなる

第2周期では、Li 0.98、Be 1.57、B 2.04、C 2.55、N 3.04、O 3.44、F 3.98 と右へ行くほど大きくなります。

同じ周期では価電子が同じ電子殻に入ったまま陽子が1個ずつ増えるので、価電子が感じる正電荷(有効核電荷)が強まり、結合の電子も強く引き寄せるからです。陽子が1個増えても、同じ殻の電子は互いをあまり打ち消さないので、増えた正電荷のほとんどがそのまま効きます。

有効核電荷は、陽子の正電荷から内側の電子が打ち消す分を差し引いた値です。ナトリウムを「陽子11個から内側の電子10個を引いて実質 +1」と見るのは考え方をつかむための簡略化で、スレーター則で計算すると約 +2.2 になります。

どちらの見方でも、同じ周期の右側ほど有効核電荷が大きくなる傾向は変わらず、電気陰性度の増え方もこれで説明できます。

図4:周期と族でどれだけ変わるか

横(第2周期)では陽子が増えて大きくなり、縦(ハロゲン)では距離が伸びて小さくなります。

第2周期(横):陽子が増えて大きく17族(縦):距離が伸びて小さく0.98Li1.57Be2.04B2.55C3.04N3.44O3.98F3.98F3.16Cl2.96Br2.66I同じ電子殻のまま有効核電荷が増える電子殻が外へ増え、核から遠くなる

※ポーリングの値(PubChem)。棒の高さは同じ縮尺。

同じ族では、原子番号が大きいほど小さくなる

17族のハロゲンでは、F 3.98、Cl 3.16、Br 2.96、I 2.66 と下へ行くほど小さくなります。下の元素ほど電子殻が1つずつ外へ増え、価電子と原子核の距離が離れるので、引きつける力(クーロン力)が弱まるからです。

陽子は下の元素ほど増えますが、増えた分の多くは内側の電子に打ち消されるので、価電子が感じる正電荷はあまり強くならず、距離の効果が勝ちます。

例外は13族と14族で、ガリウム 1.81 がアルミニウム 1.61 より、ゲルマニウム 2.01 がケイ素 1.90 より大きくなっています。

第4周期のこれらの元素は内側に3d電子を10個持ち、3d電子が正電荷をあまり打ち消さないためで、遷移元素を挟んだ影響は遷移元素と典型元素の違いでも触れています。

同じ「殻の数と有効核電荷」の考え方は、原子やイオンの大きさを比べるときにも使います。原子の大きさの周期性は原子半径とはで、陽イオン・陰イオンの大小関係はイオン半径とはで、同じ理屈から整理しています。

希ガスの多くは電気陰性度を定義できない

ポーリングの尺度は結合エネルギーから値を決めるので、結合をつくらない元素には値を付けられません。ヘリウム・ネオン・アルゴンは安定な化合物が知られていないため、電気陰性度が定められていません。

一方、1962年以降にはキセノンやクリプトンのフッ化物(XeF2、KrF2 など)が合成され、PubChem の表にはクリプトン 3.00、キセノン 2.6 の値が載っています。

つまり、「希ガスはすべて電気陰性度がない」のではなく、「化合物のない軽い希ガスには値がない」と理解するのが正確です。

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実際の材料・工場では:結合の極性で性質を読む

ステンレスのフランジに白いPTFEガスケットを載せる手元

電気陰性度の差からは、結合の電子がどちらに寄るか、結合がどれだけイオンに近いか、どのくらい強いかの見当がつきます。

一方で、物質の性質は結晶の組み方や分子の形、表面の状態にも左右されるので、電気陰性度は最初の当たりをつける道具で、最終判断には別の測定値を組み合わせると考えると、使いどころを外しません。

図5:電気陰性度が効く現場

結合の偏りという1つの考え方が、材料選び・溶媒選び・半導体の性質の読み方につながります。

結合のイオン性差の大きさからイオン結合寄りか共有結合寄りかの見当をつける
フッ素樹脂C−F 結合の強さが耐熱・耐薬品性と撥水性を生む
水素結合と溶媒F・O・N に付いた水素が沸点と溶けやすさを変える
化合物半導体原子どうしの差が大きい材料ほどバンドギャップが広い傾向

※異種金属の腐食は電気陰性度ではなく、その環境での電位列で判断します(後の章)。

イオン結合性の目安「差1.7」とその限界

「電気陰性度の差が1.7より大きければイオン結合」という目安は、ポーリングが示した結合のイオン性の式から来ています。差が1.7のときにイオン性がほぼ50%になるので、それより大きければイオン結合寄り、小さければ共有結合寄りと読むわけです。

ポーリングによる結合のイオン性の割合
イオン性 = 1 − e−(Δχ)2/4
(例)Δχ = 1.7:1 − e−0.72 = 1 − 0.49 = 約51%
(例)NaCl(Δχ = 3.16 − 0.93 = 2.23):1 − e−1.24 = 約71%
Δχ:2つの原子のポーリングの電気陰性度の差 e:自然対数の底(約2.718)。値は筆者が計算

図6:電気陰性度の差の物差し

差が大きいほどイオン性の割合が増えますが、1.7 の前後は連続的につながっています。

01230%50%100%電気陰性度の差(ポーリング)イオン性差1.7で約50%H−HC−HC−OO−HSi−OH−FNa−ClCs−F

※横軸はポーリングの電気陰性度の差、縦軸は上の式によるイオン性の割合(筆者計算)。点の位置は計算上の値で、物質が実際にイオン結晶になるかどうかとは別です。

ただし、この目安には外れる例がいくつもあります。フッ化水素 HF は差が1.78と1.7を超えますが、常温で分子からなる物質で、沸点は19.5℃、水溶液も弱い酸です。弱酸になる理由と工場での扱いはフッ化水素の性質で解説しています。

反対に、ヨウ化リチウム LiI は差が1.68と1.7に届きませんが、イオン結晶です。境目の前後では、差の数字だけで結合の種類が決まらないことが分かります。

塩化アルミニウム AlCl3(差1.55)は昇華しやすく、気体では Al2Cl6 の分子として存在します。小さく電荷の大きい Al3+ が Cl− の電子雲を強く引き寄せてゆがめ、差から見込むより共有結合性が強くなるからで、イオンの大きさと電荷も結合の性格を左右します。

二酸化ケイ素 SiO2 は差1.54で、Si と O が共有結合で立体的につながった結晶です。

結晶の種類と性質の関係は共有結合の結晶と分子結晶の違いにあるように、結合の種類と結晶の組み方の両方で決まります。差1.7は「どちら寄りか」を見る目安で、物質の分類は融点や導電性などの実測と合わせて判断します。

フッ素樹脂の C−F 結合が強く、撥水・耐薬品性をもつ理由

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂は、炭素の鎖にフッ素がすき間なく付いた高分子です。

C−F 結合の平均結合エネルギーは約485 kJ/mol で、C−H の約416、C−C の約346、C−Cl の約327 kJ/mol より大きく、炭素がつくる単結合の中で最も強い部類に入ります。この強さが、熱や薬品にさらされても分子が切れにくい土台になっています。

強さの理由が電気陰性度です。炭素 2.55 とフッ素 3.98 の差は1.43と大きく、結合は強く分極しますが、δ+ の炭素と δ− のフッ素が静電的に引き合うことで結合がかえって安定します。

さらにフッ素は電子を強く引きつけて手放さないので、酸化剤や多くの薬品が電子を奪ったり結合を切ったりしにくく、これが耐薬品性の一因になります。

撥水性と非粘着性も、フッ素が電子を強く握っていることに関係します。フッ素の電子雲は外から押されても変形しにくく(分極しにくく)、分子どうしを引き合わせる分散力が弱いので、PTFE の表面は水も油もぬれ広がりにくい低エネルギーの面になります。

表面のぬれやすさの目安である臨界表面張力は、PTFE で約19 mN/m と、水の表面張力 72.8 mN/m を大きく下回り、水の接触角は約109°と水滴が丸く転がる面になります。

分極しにくい性質は高周波の信号が熱に変わる損失も小さくするので、低誘電樹脂として高周波基板にも使われ、電子部品の分野でもフッ素樹脂の出番が増えています。

ただし、すべてを電気陰性度だけで説明できるわけではありません。大きなフッ素原子が炭素の鎖をらせん状にすき間なく覆って薬品の侵入を防ぐことや、分子量が非常に大きく結晶性が高いことも、耐薬品性と 260℃前後で連続して使える耐熱性を支えています。

化学プラントでは、この性質を使って配管やバルブの内面をフッ素樹脂で覆うライニング、フランジのすき間をふさぐ PTFE ガスケット、フッ化水素や濃い酸を扱う容器・チューブなどに使います。

フッ素樹脂でも溶融したアルカリ金属や高温のフッ素ガスには侵されるので、使える薬品と温度はメーカーの耐薬品表で確かめ、ガスケットなら締め付けによる変形(クリープ)も合わせて見ます。

水素結合と溶媒選び

水素結合は、電気陰性度の大きい F・O・N に結合した水素が、別の分子の F・O・N の非共有電子対に引き寄せられる結びつきです。IUPAC の定義でも、水素を挟む原子は水素より電気陰性度が大きいことが条件になっていて、強く分極した X−H 結合の δ+ の水素が橋渡しをします。

水素結合の効果は沸点に大きく表れます。水 H2O の沸点は100℃ですが、同じ16族の硫化水素 H2S は−60℃で、フッ化水素 19.5℃に対して塩化水素は−85℃です。分子の重さではなく、分子どうしが水素結合でつながるかどうかが、この差を生んでいます。

溶媒は、水素結合を出せるかどうかで大きく3つに分けて考えます。水やアルコールのように O−H・N−H をもつプロトン性溶媒、アセトンや DMF のように極性はあるが水素結合を出さない非プロトン性極性溶媒、ヘキサンやトルエンのような無極性溶媒です。

実務で溶かしたい物質と溶媒の相性を数値で比べるときは、Hansen の溶解度パラメータがよく使われます。分子どうしの引き合いを分散力 δD・極性 δP・水素結合 δH の3つに分けた値です。

水素結合の成分 δH は水 42.3、エタノール 19.4、アセトン 7.0、トルエン 2.0、ヘキサン 0 と並びます(単位 MPa1/2)。電気陰性度の大きい O をもち O−H で水素結合を出す水やアルコールほど、この値が大きくなります。

選び方の手順は、まず溶かしたい物質が O−H や N−H を持ち水素結合を出すか、C=O のように受けるだけかを見ます。

次に δP・δH が近い溶媒から候補を挙げ、再結晶なら熱いと溶けて冷やすと溶けにくくなる組み合わせを選びます。具体的な手順は再結晶の原理と溶媒の選び方にまとめています。

水にイオンが溶けるときも、δ− の酸素が陽イオンに、δ+ の水素が陰イオンに向いて取り囲みます。この水和のしくみと、水和熱が溶けやすさに与える影響は水和とはで解説しています。

半導体と腐食で電気陰性度をどう使うか

電気陰性度は、半導体では「材料の性質の傾向を推測する手がかり」として役に立つ一方、金属の腐食では「判断に使ってはいけない値」です。同じ元素の性質の話でも、どの現象を見るかで使える指標が変わる例として、2つを並べて整理します。

化合物半導体:結合のイオン性とバンドギャップ

ケイ素 Si の結晶は同じ原子どうしの共有結合ですが、ガリウムとヒ素の GaAs、ガリウムと窒素の GaN のような化合物半導体では、違う原子どうしの結合にイオン性が混じります。

電気陰性度の差が大きく原子が小さい材料ほど、バンドギャップ(電子を動けるようにするのに要るエネルギー)が広い傾向があります。バンドギャップが広いほど高い電圧や温度に耐え、短い波長の光を出せるので、パワー半導体や青色・紫外の LED に向きます。

材料電気陰性度の差バンドギャップ(300 K)主な用途
Si(ケイ素)01.12 eVLSI・パワー半導体
InP(リン化インジウム)0.411.34 eV光通信用レーザー・受光素子
GaAs(ヒ化ガリウム)0.371.42 eV高周波素子・赤外 LED
SiC(炭化ケイ素、4H)0.653.23 eVパワー半導体
GaN(窒化ガリウム)1.233.39 eV青色 LED・パワー・高周波
AlN(窒化アルミニウム)1.43約6.0 eV深紫外 LED・放熱基板
表2:半導体の電気陰性度の差とバンドギャップ(差はポーリングの値から筆者計算、バンドギャップは Ioffe Institute の半導体データベース。差とバンドギャップは一対一では対応しない)

表のとおり、差がほぼ同じ GaAs(0.37)と InP(0.41)でバンドギャップの大小が逆になるように、原子の大きさ(結合の長さ)も強く効きます。差は「広いか狭いかのおおまかな傾向」を見る手がかりで、材料の比較には実測のバンドギャップを使います。

GaN は差が1.23と大きく、六方晶(ウルツ鉱型)の結晶では結合の偏りが打ち消されずに残り、結晶自体が分極しています。

AlGaN と重ねると界面に電子が自然にたまり、これを使ったのが高速で動く GaN トランジスタ(HEMT)です。SiC と GaN の使い分けはパワー半導体 SiC と GaN の違いで比較しています。

異種金属接触腐食は電気陰性度ではなく電位列で考える

異なる金属をつないで水や海水にさらすと、一方が早く腐食する異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が起きます。どちらが腐食するかの判断に使うのは、その環境(海水・淡水など)で測った金属の電位を並べた電位列(ガルバニック系列)で、電気陰性度ではありません。

電気陰性度は、孤立した原子が結合の電子を引く強さです。一方の電位列は、溶液に浸かった金属が電子を出して溶けやすいかを表し、表面の酸化皮膜や溶液の種類で順番が変わります。2つを取り違えると、図7のように材料の組み合わせを逆に判断してしまいます。

図7:電気陰性度の順と海水中の電位列

チタンは電気陰性度では小さい側ですが、海水中では最も腐食しにくい側に来ます。腐食の判断に使うのは右の電位列です。

電気陰性度(大きい順)海水中の電位列(貴→卑)原子が結合の電子を引く強さ腐食の判断はこちらを使うFe(鉄)1.83Zn(亜鉛)1.65Al(アルミ)1.61Ti(チタン)1.54Mg(マグネシウム)1.31チタンステンレス(不動態)軟鋼・鋳鉄アルミ合金亜鉛マグネシウム上ほど腐食しにくい(貴)

※左はポーリングの電気陰性度(PubChem)。右は NASA ケネディ宇宙センターの資料にある海水中のガルバニック系列の並び(上ほど貴=腐食しにくい)。比べている量が違うので、左右の高さは対応しません。

チタンの電気陰性度は1.54で、アルミニウム 1.61 や鉄 1.83 より小さい値です。ところが海水中では、表面のごく薄い酸化皮膜(不動態皮膜)のおかげでチタンは系列のいちばん貴な側に位置し、つないだ鋼やアルミニウムのほうが腐食します。

建築設備の配管でも、銅・ステンレス・チタンなどの耐食材料を鋼やアルミニウムにつなぐと、卑な側の腐食が速まる事例が報告されています。ステンレスも不動態皮膜があるときは貴な側にありますが、皮膜が壊れると卑な側へ移るので、ステンレスの種類と使う環境の組み合わせで判断します。

対策は、系列で近い金属どうしを組み合わせる、絶縁フランジや絶縁ガスケット・スリーブで電気的に切り離す、カソード防食をかける、の3つが基本です。亜鉛めっきのように、卑な金属をわざと先に腐食させて鉄を守る犠牲防食の考え方はトタンとブリキの違いで、イオン化傾向とあわせて解説しています。

電気陰性度のよくある質問

電気陰性度に単位はありますか?

ポーリングの電気陰性度に単位はありません。結合エネルギーから2つの原子の差だけが求まるため、フッ素を約4とした相対的な目盛りで表しているからです。マリケンの定義では eV 単位の値が出ますが、ふつうはポーリングの目盛りに換算して使います。

電気陰性度が最も小さい元素は何ですか?

ポーリングの値で最も小さいのはフランシウムの 0.7 で、実測で確かめられた元素ではセシウムの 0.79 です。どちらも周期表の左下にある1族のアルカリ金属で、電子を手放しやすい性質はアルカリ金属の性質で整理しています。

電気陰性度と電子親和力・イオン化エネルギーの違いは何ですか?

イオン化エネルギーと電子親和力は、孤立した1個の原子が電子を失う・受け取るときのエネルギーで、実験で測れる量です。電気陰性度は結合の中で電子を引く強さを表す目安で、マリケンの定義ではこの2つの平均として計算します。

同じ元素でも電気陰性度は変わりますか?

変わります。表の値は代表的な状態のもので、酸化数が高いほど、また結合に使う混成軌道の s 成分が多いほど(sp3<sp2<sp の順)電子を引く力は強くなります。表の鉛 2.33 も高い酸化状態(Pb(IV))から求めた値です。

電気陰性度とイオン化傾向は同じ順番ですか?

同じではありません。電気陰性度が最も小さいのはセシウムですが、水溶液中のイオン化傾向(標準電極電位の低さ)が最も大きいのはリチウムで、小さなリチウムイオンが水分子を強く引きつけて安定になるためです。溶液中の反応や腐食はイオン化傾向や電位で考えます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 電気陰性度は結合の中で共有電子対を引き寄せる強さの目安で、単位のない相対値。ポーリング・マリケン(I と A の平均)・オールレッド=ロコウの尺度がある
  • 周期表の右上ほど大きく、ポーリングの値で F 3.98>O 3.44>Cl 3.16>N 3.04>Br>I>S>C>H。N と Cl はほぼ同じで尺度により入れ替わる
  • 同じ周期では右ほど大きく(有効核電荷)、同じ族では下ほど小さい(距離)。Ga・Ge は例外、He・Ne・Ar には値がない
  • 差1.7でイオン性約50%という目安は、HF・LiI・AlCl3 のように外れる例があり、実測と合わせて使う
  • フッ素樹脂の強さ、水素結合と溶媒、化合物半導体の傾向は電気陰性度で読めるが、異種金属の腐食は電位列で判断する

電気陰性度は、値を覚えること自体よりも、結合の電子がどちらに寄るかを考えて物質の性質を説明する道具として役立ちます。樹脂やガスケットの材料選び、溶媒の選定、半導体材料の比較で数値の意味が分かると、技術資料やメーカーのデータ表もぐっと読みやすくなります。

樹脂の種類ごとの特性はエンプラの種類と選び方、沸点の違いを使って物質を分ける方法は蒸留・分留の原理で解説しています。

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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