分液漏斗で芳香族化合物を分けるときの考え方は、酸や塩基と反応させてイオンにした成分だけを水層へ移し、分子のままの成分を有機層に残すことです。水と油のように混ざらない2つの液の間で、溶けやすさの差を使って目的の物質を取り出す操作を抽出と呼びます。
代表例は、アニリン・安息香酸・フェノール・ニトロベンゼンの4成分を溶かしたエーテル溶液で、塩酸・炭酸水素ナトリウム・水酸化ナトリウムの順に加えると、1つずつ水層へ移せます。安息香酸とフェノールを分ける鍵は、それぞれが炭酸より強い酸か弱い酸かという一点です。
「似た者同士はよく溶ける」:極性で決まる溶け方
化学には「似た者同士はよく溶ける」という経験則があります。電荷の偏りをもつ極性分子やイオンは極性の大きい水に溶けやすく、偏りの小さい分子はジエチルエーテルやトルエンのような極性の小さい有機溶媒に溶けやすい、という意味です。
芳香族化合物の多くは、ベンゼン環という大きな無極性の部分をもつため水に溶けにくく、有機溶媒にはよく溶けます。
安息香酸の水への溶解度は20℃で1 Lあたり2.9 g、ニトロベンゼンは25℃で2.1 gほどしかありません。−COOHや−NO2のように極性のある基が付いていても、分子全体としては水になじみにくいのです。
ところが、酸や塩基と反応してイオンになると話が変わります。イオンは周りを水分子に取り囲まれて安定になる(水和する)ので、同じ芳香族の骨格でも水に溶けるようになります。分子の極性の決まり方は、極性分子と無極性分子の見分け方で詳しく扱っています。
水と有機溶媒が2層に分かれた中で、イオンになった成分は水層に、分子のままの成分は有機層に集まります。
※六角形はベンゼン環、+・−の丸は電荷、小さな丸は水分子を表します。ジクロロメタンのように水より重い溶媒を使うと、有機層が下になります。
抽出とは:溶けやすさの差で目的の物質を取り出す
抽出は、混合物から目的の物質だけを、それがよく溶ける別の溶媒へ移して取り出す操作です。沸点の差を使う蒸留や、温度による溶解度の差を使う再結晶と並ぶ分離の基本で、混ざり合わない2つの液の間の「溶けやすさの差」を使う点が特徴です。
芳香族化合物の混合物を分けるときは、まず全体を有機溶媒に溶かし、一部の成分だけが反応する試薬の水溶液を加えます。反応してイオンになった成分は水層へ移り、反応しなかった成分は有機層に残るので、層ごとに分ければ1成分ずつ取り出せます。
このとき、どの試薬を選ぶかで「どれをイオンにするか」が決まります。塩基には酸を、酸には塩基を当てるのが基本で、酸どうしを分けたいときは強さの違う塩基を使い分けます。
分配係数と抽出回数:同じ溶媒量なら分けて使う
2つの液の間で物質がどれだけ分かれるかは、分配係数Kで表します。Kは「有機層の濃度÷水層の濃度」で、温度と物質・溶媒の組み合わせで決まる値なので、抽出を何回くり返しても1回ごとに同じ割合で水層から有機層へ移るとみなせます。
例として、水100 mLに溶けた物質1.00 gを、分配係数K=4の有機溶媒で抽出します。溶媒90 mLを1回で使う場合と、30 mLずつ3回に分けて使う場合を比べると、使う溶媒の総量は同じでも取れる量に差が出ます。
分配係数K=4の物質1.00 gを水100 mLから抽出したとき、水層に残る量の変化です。
※棒の高さは水層に残る量です。上の式ボックスの計算をそのまま図にしました。
少ない量の溶媒で何度も抽出するほど取り残しが減るのは、毎回「残っている分の一定割合」を新しい溶媒が引き受けるからです。米国環境保護庁(EPA)の分析法でも、水試料1 Lを塩化メチレン(ジクロロメタン)60 mLで3回抽出し、抽出液を合わせる手順が定められています。
分液漏斗(分液ロート)の使い方
分液漏斗(分液ロート)は、上に栓、下にコック(活栓)が付いた、なす形やしずく形のガラス器具です。混ざり合わない2つの液を入れて振り混ぜたあと静かに置くと、2つの層に分かれ、下の層はコックから、上の層は上の口から別々の容器に取り出します。
上の層をコックから流すと、管の中に残った下の層の液が混ざってしまいます。上下どちらの層が水層になるかは溶媒の密度で決まり、「有機層はいつも上」とは限らないので、操作の前に必ず確かめます。
振り混ぜとガス抜き:炭酸水素ナトリウムでは特に注意
分液漏斗に液を入れたら栓をし、片手で栓を、もう片方の手でコックのあたりを押さえて逆さにします。最初に軽く振ったらすぐ、コックを上に向けたままコックを開いて中の圧を逃がします。この操作がガス抜きで、振る→ガス抜きを数回くり返し、音がしなくなってから本格的に振ります。
圧が上がる原因は、ジエチルエーテルやジクロロメタンのような沸点の低い溶媒の蒸気と、炭酸水素ナトリウムが酸と反応して出す二酸化炭素の2つです。
EPAの分析法も、塩化メチレンは急に圧が上がるので、栓をして1回振った直後に最初のガス抜きをし、フードの中へ向けて抜くよう求めています。
振る、ガス抜きをする、静かに置く、栓を外して下の層から抜く、の順にくり返します。
※栓をしたままコックを開いても、上の空間が負圧になって液がうまく流れません。抜く前に必ず栓を外します。
振り終えたらスタンドのリングに戻して静かに置き、境目がはっきりしたら栓を外してからコックを開けます。取り出した液は、目的の物質が手元に得られたと確かめるまで、どちらの層も捨てずに残しておくのが実験の鉄則です。
上層・下層の見分け方とエマルション対策
どちらが上になるかは、2つの液の密度だけで決まります。ジエチルエーテル(0.71 g/cm3)や酢酸エチル(0.90)は水より軽いので上の層になり、ジクロロメタン(1.33)やクロロホルム(1.48)は水より重いので有機層が下の層になります。
水(1.00 g/cm3)より軽い溶媒は上の層、重い溶媒は下の層になります。
※密度(g/cm3、およそ20℃)は厚生労働省 職場のあんぜんサイトのモデルSDSによります。エーテルはジエチルエーテルです。
注意したいのは、溶けている物質の密度ではなく、溶液全体の密度で決まる点です。ニトロベンゼン自体は水より重い(1.20)ものの、少量をエーテルに溶かした溶液は水より軽いので上の層に入り、逆に濃い塩の水溶液は水より重くなって、層の差が開いたり縮んだりします。
どちらの層か迷ったら、層に水を数滴たらし、混ざらずに滴のまま残る層が有機層と判断できます。容器には「水層」「有機層」ではなく「上の層」「下の層」と書いておくと、取り違えたときにも後からたどれます。
激しく振ると、2つの液が細かい滴のまま混ざった乳濁液(エマルション)になり、境目がいつまでも分かれないことがあります。ジクロロメタンや濃い塩基性の液、界面活性剤のような物質を含む試料で起きやすいので、はじめは大きく揺らす程度にとどめるのが予防策です。
できてしまったエマルションは、しばらく静置する、ガラス棒で軽くかき混ぜる、少量なら遠心分離にかける、といった方法で崩します。よく効くのが、食塩(NaCl)や飽和食塩水を加える塩析(えんせき)で、水層のイオン濃度と密度が上がり、有機物が水に溶けにくくなって層が分かれやすくなります。
アニリンを塩酸で水層へ移す
ここからは、アニリン・安息香酸・フェノール・ニトロベンゼンの4成分を溶かしたジエチルエーテル溶液を例に、1成分ずつ水層へ移していきます。4つはどれも水に溶けにくいので、はじめはすべて上の有機層(エーテル層)にあります。
塩基から先に取り、酸は強い順に取ります。最後まで反応しないニトロベンゼンがエーテル層に残ります。
※遊離させた物質は、新しいエーテルで抽出し直して取り出します。
最初に塩基のアニリンを狙います。アニリンはアミノ基(−NH2)の窒素の非共有電子対で水素イオンを受け取る弱い塩基なので、塩酸を加えて振ると中和して塩化アニリニウム(アニリン塩酸塩)になり、イオンとして水層へ移ります。
安息香酸・フェノールは酸、ニトロベンゼンは中性なので、塩酸とは反応せずエーテル層に残ります。
取り出した水層に水酸化ナトリウムを加えるとアニリンが油状に分かれてくるので、新しいエーテルで抽出し直して回収できます。アニリンの塩基性の強さや工場での製法は、アニリンの性質と反応の記事で扱っています。
安息香酸を炭酸水素ナトリウムで取り出す
残ったエーテル層には、安息香酸・フェノール・ニトロベンゼンがあります。ここで水酸化ナトリウムを加えると、安息香酸だけでなく弱い酸のフェノールまで中和されて、両方が水層へ移ってしまいます。2つの酸を分けるには、片方としか反応しない、もっと弱い塩基が必要です。
手がかりは酸の強さの順番で、おもな有機化合物ではスルホン酸(−SO3H)>カルボン酸(−COOH)>炭酸(第1段階)>フェノール類の順に弱くなります。25℃のpKa(小さいほど強い酸)は、安息香酸4.20、炭酸6.35、フェノール9.99です。
炭酸より強い酸は炭酸水素ナトリウムと反応し、炭酸より弱い酸は反応しません。水酸化ナトリウムはどちらとも反応します。
※pKaは25℃の値(LibreTexts「Acid Dissociation Constants at 25°C」)。スルホン酸は水中でほぼ完全に電離する強酸です。
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は、炭酸という弱い酸の塩です。炭酸より強い安息香酸は、炭酸水素イオンから炭酸を追い出して自分が塩になり、生じた炭酸はすぐ水と二酸化炭素に分かれます。これが弱酸の遊離で、反応はイオン反応式で書くと流れが見やすくなります。
フェノールは炭酸より弱い酸なので、炭酸水素イオンからH+を奪えず、分子のままエーテル層に残ります。こうして安息香酸だけが安息香酸ナトリウムとして水層へ移り、二酸化炭素の泡が出るので、前の章のガス抜きがとくに大切になる工程です。
取り出した水層に塩酸を加えると、今度は塩酸が安息香酸より強い酸として働き、白い安息香酸が析出します。カルボキシ基がなぜ酸性を示すかはカルボニル基の解説、炭酸水素ナトリウムそのものの工業的なつくり方はソルベー法の記事が詳しく扱っています。
フェノールを水酸化ナトリウムで取り出す
安息香酸を取り除いたあとのエーテル層には、フェノールとニトロベンゼンが残っています。酸はフェノールだけになったので、ここで初めて強い塩基の水酸化ナトリウム水溶液を使えば、フェノールだけを中和してナトリウムフェノキシドにできます。
ナトリウムフェノキシドはイオンなので水層へ移り、エーテル層には酸とも塩基とも反応しない中性のニトロベンゼンだけが残ります。エーテルの沸点は35℃、ニトロベンゼンは約211℃と大きく離れているので、エーテルを穏やかに留去すればニトロベンゼンが残ります。
水酸化ナトリウムは皮膚や目を強く傷める強塩基で、濃い液を振るときは保護めがねと手袋が欠かせません。性質と取り扱いの注意は水酸化ナトリウムの性質と危険性にまとめています。
水層の安息香酸イオンとフェノキシドイオンは二酸化炭素で分ける
はじめに水酸化ナトリウムを加えてしまい、安息香酸ナトリウムとナトリウムフェノキシドが両方とも水層に入った場合でも、分け直せます。どちらかを分子に戻して有機層へ移せばよく、ここでも炭酸の強さがちょうど2つの酸の間にあることを使います。
水層に二酸化炭素を十分に吹き込み、エーテルを加えて振ります。水に溶けた二酸化炭素は炭酸として働き、自分より弱い酸のフェノールをフェノキシドイオンから追い出すので、フェノールは分子に戻ってエーテル層へ移ります。
同じ考え方は、1つの分子にカルボキシ基とフェノール性のヒドロキシ基をもつサリチル酸にも当てはまります。カルボキシ基が炭酸より強い酸なので、サリチル酸は炭酸水素ナトリウム水溶液に溶けて水層へ移ります。
このとき塩になるのはカルボキシ基だけで、炭酸より弱い酸であるフェノール性のヒドロキシ基は、−OHの形のまま残ります。サリチル酸からつくる医薬品原料の性質はサリチル酸メチルとアセチルサリチル酸の記事で扱っています。
実際の工場では:抽出塔とミキサーセトラーで連続して抽出する

工場の液液抽出も、混ざらない2つの液を接触させてから分けるという点は分液漏斗と同じです。違うのは、1回ずつ振る代わりに、2つの液を逆向きに流しながら何段も接触させる向流多段抽出で連続して処理することで、分配係数の計算で見た「何回も抽出する」効果を装置の段数で得ています。
代表的な装置は2つあります。1つはミキサーセトラーで、かき混ぜる槽(ミキサー)と静かに置いて2層に分ける槽(セトラー)を1組にして横に並べます。もう1つは抽出塔で、重い液を上から、軽い液を下から流し、塔の中の充填物や回転円板、脈動で細かい滴にして接触させます。
どちらも「混ぜる→分ける」を連続でくり返す装置です。2つの液は逆向きに流れます。
※ミキサーセトラーは実際には何段も並べ、隣の段へ2つの液を逆向きに送ります。塔の中の構造は充填物・多孔板・回転円板・脈動など方式によって違います。
石油化学では、ナフサの改質油などからベンゼン・トルエン・キシレンを取り出す工程が典型例です。欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)によると、芳香族と非芳香族は沸点が近いため、蒸留では分けられません。
そこでスルホランを溶媒にした液液抽出が最も一般的に使われ、原料は抽出塔の中を上へ流れながら、溶媒と向流で接触します。
芳香族を取り込んだ溶媒は、減圧の回収塔で芳香族と分けてから抽出塔に戻し、閉じたループで使い回す仕組みです。
抽出は分離の入口にすぎず、溶媒の回収にはエネルギーを使う蒸留が欠かせない点が、実験室との大きな違いです。
この記事の水酸化ナトリウムの操作に近いのが、クメン法のフェノール工場です。同じ資料によると、有機相のフェノールは苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)で洗ってフェノラートとして分け、その水溶液を硫酸で酸性にして油の層として取り出します。
それでも水に残るフェノールは、クメンなどの溶媒で抽出して回収し、溶媒は再び苛性ソーダで洗って使い回します。
こうした回収で、報告した7工場のうち5工場は前処理後の排水の平均フェノール濃度を1 Lあたり100 mg未満に抑えました。
ニトロ化の工場でもトルエンなどで排水から有害な有機物を抽出しており、抽出は製品の精製と、排水の負荷を下げる処理の両方を担う技術です。
湿式製錬の溶媒抽出:銅とレアアースを水と油で分ける
金属の製錬でも、水溶液と有機溶媒の間で金属イオンを移す溶媒抽出が大規模に使われています。銅では、低品位の酸化鉱などを希硫酸で溶かし(浸出)、溶媒抽出で銅だけを有機相へ移して濃くし、電気分解で金属の銅を析出させる方法がSX-EW(溶媒抽出・電解採取)です。
国際銅研究会(ICSG)によると、SX-EWでつくる精製銅は1960年代には世界の1%未満でしたが、2025年には世界の精製銅2,870万トンの約18%を占めるまでになりました。製品は、粗銅を溶かして純度を上げる銅の電解精錬と同じカソード銅です。
この平衡は、分液漏斗で安息香酸ナトリウムに塩酸を加えて安息香酸に戻す操作とよく似ています。水素イオンの濃さを変えるだけで、銅を有機相に入れたり出したりできるので、薄い浸出液から銅を集め、電解に向いた濃くてきれいな液に移し替えられます。
浸出液の銅を有機相に集め、濃い硫酸の液へ移してから電解でカソード銅にします。
※ICSG「The World Copper Factbook 2026」、KGHM の SX-EW の説明をもとにした概略です。浸出液や電解液の条件は鉱山ごとに違います。
レアアース(希土類)の分離は、溶媒抽出がいちばん苦労する例です。隣り合う元素どうしは化学的な性質がよく似ているので、1回の接触では少ししか分かれず、ミキサーセトラーを何十段も並べて少しずつ純度を上げていきます。
米国アイダホ国立研究所の報告(2016年)は、工業的な希土類の分離にホスホン酸系の抽出剤PC88Aが使われていると述べ、30段のミキサーセトラーで中・重希土類を分ける流れを試験しています。
分離に手間と設備がかかることは、レアアースの輸出規制が磁石の調達を揺さぶる背景の1つでもあり、製錬の技術と設備は資源の確保と切り離せません。
分析の前処理と溶媒の安全:固相抽出との使い分けと有機則
分液漏斗は、水や排水に含まれる微量の有機物を測る前処理の道具としても現役です。米国環境保護庁の方法3510Cは、通常1 Lの試料を決められたpHにしてジクロロメタンで3回抽出し、乾燥・濃縮してからガスクロマトグラフなどで測ると定めています。
半揮発性有機物の分析(方法8270)向けには、はじめにpH 2未満、次にpH 11より上で抽出する条件が指定されています。
酸性にすればフェノール類のような酸は分子に、塩基性にすればアミンのような塩基は分子に戻って有機層へ移るので、4成分の分離と同じ考え方で、酸性・塩基性の成分を取りこぼさず有機層に集められます。
一方で、液液抽出は溶媒を多く使い、エマルションで手間取ることもあります。
そこで広がったのが固相抽出(SPE)で、目的の物質を吸着する充填剤のカートリッジやディスクに試料を通し、少量の溶媒で洗い出します。EPAの方法3535Aは、地下水や排水の農薬・PCBなどにこの方法を使う条件をまとめています。
固相抽出は、吸着させて溶かし出すという点でクロマトグラフィーと同じ原理に立っています。溶媒が少なく自動化しやすい反面、試料に濁りが多いと詰まりやすいので、試料の性状と測る成分によって液液抽出と使い分けます。
抽出に使う溶媒は、どれも労働安全衛生法と消防法の規制を受けます。ジエチルエーテルは有機溶剤中毒予防規則(有機則)の第2種有機溶剤で、消防法では引火点が−45℃の特殊引火物にあたり、長く空気に触れると爆発性の過酸化物ができることもあります。
エーテルはアルコールの分子間脱水でつくられる溶媒で、工業でもこの反応から得られます。
水より重いジクロロメタンは燃えにくい溶媒ですが、2014年11月の改正で有機則から特定化学物質障害予防規則(特化則)の特別有機溶剤に移され、発がんのおそれを踏まえた管理が求められています。
作業場では局所排気装置の中で扱い、溶媒ごとの規制を確かめたうえでリスクアセスメントで危険の大きさを見積もり、保護具や換気の対策を決めます。
| 溶媒 | 密度(g/cm3) | 水と比べた層 | 労働安全衛生法 | 消防法 |
|---|---|---|---|---|
| ヘキサン | 0.66 | 上 | 第2種有機溶剤等 | 第4類 第一石油類 |
| ジエチルエーテル | 0.71 | 上 | 第2種有機溶剤等 | 第4類 特殊引火物 |
| トルエン | 0.87 | 上 | 第2種有機溶剤等 | 第4類 第一石油類 |
| 酢酸エチル | 0.90 | 上 | 第2種有機溶剤等 | 第4類 第一石油類 |
| ジクロロメタン | 1.33 | 下 | 特定化学物質(特別有機溶剤等) | 危険物に当たらない |
| クロロホルム | 1.48 | 下 | 特定化学物質(特別有機溶剤等) | 貯蔵等の届出を要する物質 |
引火しやすいエーテルやヘキサンを工場の規模で扱う場所では、蒸気が電気火花で燃えないよう、電気機器を防爆構造にします。実験室でも、火気を遠ざけ、ドラフト(局所排気装置)の中で操作するのが基本です。
分液漏斗による分離のよくある質問
分液漏斗と分液ロートは同じものですか?
同じ器具です。「ロート」は漏斗(ろうと)を片仮名で書いたもので、意味は変わりません。教科書や器具のカタログでは「分液漏斗」、実験の現場では「分液ロート」とも呼ばれます。
抽出したあと、有機層に残った水はどう除きますか?
まず飽和食塩水で有機層を洗って大部分の水を除き、そのあと無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムなどの乾燥剤を加えてから、ろ過して溶媒を留去します。乾燥剤は、取り出す物質と反応しない種類を選びます(乾燥剤の選び方)。
塩酸のかわりに硫酸でアニリンを水層へ移せますか?
移せます。アニリンは硫酸とも中和してアニリニウムイオンの塩になり、水に溶けます。大切なのは強い酸を加えてアニリンをイオンにすることで、酸の種類よりも、アニリンに対して十分な量を加えることが分離の決め手になります。
ジエチルエーテルのかわりに使われる溶媒はありますか?
酢酸エチル、ジクロロメタン、トルエン、ヘキサンなどがよく使われます。引火しにくさ、目的の物質の溶けやすさ、あとで留去しやすい沸点、法令の規制を比べて選び、ジクロロメタンのように水より重い溶媒では有機層が下になる点に注意します。
まとめ
- 抽出は、混ざらない2つの液の間の溶けやすさの差で目的の物質を取り出す操作。分子のままなら有機層、イオンになれば水層に移る
- 4成分の分離は、塩酸でアニリン、炭酸水素ナトリウムで安息香酸、水酸化ナトリウムでフェノールの順に水層へ移し、中性のニトロベンゼンがエーテル層に残る
- 炭酸より強い酸(カルボン酸)は炭酸水素ナトリウムと反応し、弱い酸(フェノール)は反応しない。水層の2つの酸の塩は二酸化炭素で分けられる
- 分液漏斗はガス抜きを最初の1回目からこまめに行い、上下は溶媒の密度で決まる。エマルションは静置・塩析・遠心で崩す
- 同じ溶媒量なら複数回に分けたほうが多く取れる(K=4、90 mLで1回は約78%、30 mL×3回は約91%)
- 工場では抽出塔やミキサーセトラーで向流多段に抽出し、銅のSX-EWやレアアースの分離、分析の前処理でも同じ原理が使われる
分液漏斗の操作は、酸と塩基、分子とイオン、密度と分配という化学の基本が1本の手順にまとまった技術です。試験管の上で見た「炭酸より強いか弱いか」の判断が、そのまま工場のフェノール回収や銅の製錬の設計につながっています。
反応のあとで物質を分ける方法として、イオン反応式の書き方とあわせて、蒸留・再結晶・クロマトグラフィーの記事も読むと、化学工場の「分ける工程」の全体像をつかみやすくなります。
出典
出典・参考資料(10件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 酸の強さ(pKa):LibreTexts「E1: Acid Dissociation Constants at 25°C」、PubChem「Benzoic acid」、PubChem「Phenol」
- 溶媒・試料の物性と適用法令:厚生労働省 職場のあんぜんサイト モデルSDS「ジエチルエーテル」「ジクロロメタン」「酢酸エチル」「トルエン」「ヘキサン」「クロロホルム」「ニトロベンゼン」「安息香酸」
- 特別有機溶剤への移行:厚生労働省「クロロホルムほか9物質に係る規制の改正」(2014年11月1日施行)
- 分液漏斗の操作:LibreTexts「Organic Chemistry Lab Techniques(Nichols)4.6 Step-by-Step Procedures For Extractions」
- 分析での液液抽出:US EPA SW-846「Method 3510C: Separatory Funnel Liquid-Liquid Extraction」(Revision 3、1996年)
- 固相抽出:US EPA SW-846「Method 3535A: Solid-Phase Extraction (SPE)」(Revision 1、2007年)
- 工業の液液抽出(芳香族抽出・フェノール回収・ニトロ化排水):European Commission JRC「Best Available Techniques (BAT) Reference Document for the Production of Large Volume Organic Chemicals」(2017年)4.2.2.2.1、8.4.2.3、10.4.2.2.3
- 銅のSX-EW:International Copper Study Group「The World Copper Factbook 2026」、KGHM「SX-EW (solvent extraction and electrowinning)」
- 銅の抽出剤の錯体:Harada, Miyake, Kayahara「Kinetic Mechanism of Metal Extraction with Hydroxyoximes」Journal of Chemical Engineering of Japan 22(2)(1989年)
- レアアースの溶媒抽出:K. Lyon ほか「Enhanced separation of rare earth elements」IMPC 2016(Idaho National Laboratory)
TOOLS & SERVICES
製造業で働く人の、仕事の道具・サービス紹介
これからの働き方、資格の勉強、打合せの記録。MONOSCOPE で紹介している3つです。
CAREER社外の仕事を知りたい転職・キャリアガイド今の会社で続けるか、社外にも目を向けるか。考える視点と転職サービスの紹介。仕事と働き方を考える ›
LICENSE仕事に関わる資格を学びたいSAT電験三種・エネ管・QC検定など。職種から資格を選べる表と受講料の比較。SATの対象資格を見る ›
RECORD打合せを記録したいPLAUD録音から文字起こし・要約まで。3機種の選び方と業務で使う前の確認表。PLAUDの使い方を見る ›
NEWSLETTER
品質保証・品質管理・化学・樹脂・ゴムの記事を、週1回まとめてメールで受け取る
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
品質保証・品質管理を選んだ状態で登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
