緩衝液とは?原理・反応式とpHの計算方法、pH計の標準液まで

試薬瓶とビーカー、ビュレットが並ぶ工場の品質管理ラボ

緩衝液とは、少量の酸や塩基を加えても、また水で薄めてもpHがほとんど変わらない水溶液のことで、酢酸と酢酸ナトリウムのように弱酸とその塩(または弱塩基とその塩)を混ぜてつくります。

液の中に、加えたH+を受け止める役とOH−を受け止める役がどちらもたっぷりいるので、pHが動きにくくなります。

pHは、弱酸の電離定数Kaと、弱酸と塩の物質量の比だけで計算でき、酢酸緩衝液に塩酸を加えてもpHは4.76から4.63へ下がる程度です。同じ量の塩酸を純水に入れるとpHは7から2まで下がるので、その差は計算でもはっきり確かめられます。

目次

緩衝液のpHは公式で水素イオン濃度から計算できる

弱酸HAとその塩(A−を出す塩)を混ぜた緩衝液の水素イオン濃度は、電離定数Kaに、弱酸と塩の物質量の比を掛けるだけで計算できます。両辺の対数をとった形は、ヘンダーソン=ハッセルバルヒ式と呼ばれています。

緩衝液の水素イオン濃度(弱酸HA+その塩)
[H+] = Ka × n酸n塩
pHの形(ヘンダーソン=ハッセルバルヒ式)
pH = pKa + log10n塩n酸
Ka:弱酸の電離定数[mol/L] pKa=−log10Ka n酸・n塩:液中の弱酸と塩(共役塩基)の物質量[mol]。同じ液の中の比なので、モル濃度の比で書いても同じ値になります。

Kaは「電離度」ではなく電離定数で、温度が決まれば弱酸ごとに一つの値になります。この記事では25℃の酢酸のpKa 4.76(Ka=1.75×10−5 mol/L)を使い、教科書の例題でよく使う2.0×10−5 mol/Lとの違いは例題の中で示します。

この式が使えるのは、弱酸と塩がどちらも十分な量だけ共存し、その比が1:10から10:1くらいに収まっているときです。弱酸や塩が0.001 mol/Lを下回るほど薄い液や、加えた酸・塩基で片方を使い切りそうな液では、水の電離や残った強酸を入れて計算し直します。

緩衝液とは?

緩衝液は、弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を含む水溶液です。代表例が酢酸と酢酸ナトリウムの混合液で、アンモニアと塩化アンモニウムの混合液は弱塩基側の代表になります。

酸と塩基のやりとりで見ると、酢酸CH3COOHはH+を渡す側、酢酸イオンCH3COO−はH+を受け取る側で、この2つを共役酸・共役塩基の対と呼びます。緩衝液は、同じ対の酸と塩基を両方とも多めに入れた液だと言い換えられます。

塩酸と水酸化ナトリウムのような強酸と強塩基の組み合わせでは、緩衝液はできません。強酸は水中でほぼ完全に電離していて、H+を受け取って弱酸に戻る相手がいないためで、強酸と弱酸の違いがそのまま緩衝作用の有無に表れます。

緩衝液は、弱酸と塩を別々に溶かして混ぜる方法のほか、弱酸を強塩基で途中まで中和してもつくれます。

たとえば1.0 mol/Lの酢酸50 mL(50 mmol)に1.0 mol/Lの水酸化ナトリウム25 mL(25 mmol)を加えた場合を考えます。中和されるのは25 mmol分だけなので、酢酸25 mmolと酢酸ナトリウム25 mmolが残ります。

酢酸を水酸化ナトリウムで半分だけ中和する
CH3COOH + NaOH
→ CH3COONa + H2O
反応前:酢酸 50 mmol
NaOH 25 mmol
反応後:酢酸 25 mmol
+ 酢酸ナトリウム 25 mmol
酢酸もNaOHも1価なので、1 molずつ反応します。弱酸が残っている間は、液は緩衝液として振る舞います。

逆に、アンモニア水を塩酸で途中まで中和すれば、アンモニアと塩化アンモニウムの緩衝液になります。「弱い方が残る中和」を見たら緩衝液ができていると考えると、計算の入り口を間違えません。

緩衝作用の仕組み

緩衝作用は、液の中にH+を受け止める酢酸イオンと、OH−を受け止める酢酸分子が両方とも多量にあることで生まれます。加えられた強酸や強塩基は、どちらかの受け止め役と反応して弱い酸や水に変わるので、液のH+はほとんど増えも減りもしません。

例:酢酸+酢酸ナトリウムに酸・塩基を加えたときの反応式

酢酸と酢酸ナトリウムの混合液には、酢酸の電離平衡があります。酢酸ナトリウムはほぼ完全に電離しているので、液の中には電離していない酢酸分子と、塩から来た酢酸イオンがたくさん存在します。

液の中にある平衡と、塩の電離
CH3COOH ⇄ CH3COO− + H+
CH3COONa → CH3COO− + Na+
強酸(H+)を加えたとき
CH3COO− + H+ → CH3COOH
強塩基(OH−)を加えたとき
CH3COOH + OH− → CH3COO− + H2O
塩酸を加えた場合を化学反応式で書くと CH3COONa + HCl → CH3COOH + NaCl(弱酸の遊離)、水酸化ナトリウムなら CH3COOH + NaOH → CH3COONa + H2O(中和)です。

強酸を加えると増えたH+を酢酸イオンが受け取り、平衡が左へ動いて酢酸に戻ります。加えたものを打ち消す向きに平衡が移るというルシャトリエの原理のとおりで、H+は弱酸の中にしまい込まれ、液に残るのはごく一部です。

強塩基を加えた場合は、OH−が酢酸と中和して水になり、減ったH+を補うように平衡が右へ動きます。どちらの反応も、何が何に変わったかはイオン反応式で書くと追いやすく、Na+やCl−は反応に加わっていないことが分かります。

図1:緩衝液が酸と塩基を受け止める仕組み(酢酸緩衝液)

受け止め役が2種類そろっているので、どちらから来てもpHはほとんど動きません。

H+が入ってきたら酢酸イオンが受け取る
CH3COO−+H+→CH3COOH
酢酸が少し増える
液の中の受け止め役酢酸分子 CH3COOH
酢酸イオン CH3COO−
どちらも多量にある
OH−が入ってきたら酢酸が中和する
CH3COOH+OH−→CH3COO−+H2O
酢酸イオンが少し増える

※受け止め役を使い切るほど多くの酸や塩基を加えると、緩衝作用はなくなります。

酢酸に酢酸ナトリウムを加える理由

酢酸だけの水溶液にも同じ電離平衡はありますが、それだけでは緩衝液になりません。理由は、H+を受け止める酢酸イオンがほとんどないからです。

0.10 mol/Lの酢酸で電離しているのは約1.3%で、酢酸分子と酢酸イオンの比はおよそ99:1です。ここに強酸を加えると、わずかな酢酸イオンはすぐに使い切られ、残りのH+はそのまま液に残ってpHが大きく下がります。

0.10 mol/Lの酢酸の電離度(25℃)
α ≒ √KaC = √1.75×10−50.10
≒ 0.013(約1.3%)
α:電離度 C:酢酸のモル濃度[mol/L]。αが1より十分小さいときの近似式です。

酢酸ナトリウムを加えるのは、受け止め役の酢酸イオンを酢酸と同じくらいまで増やすためです。塩から来た酢酸イオンが多量にあるので、強酸を加えても受け止めきれ、強塩基に対しては酢酸分子がそのまま受け止め役になります。

加えた酢酸イオンが水と反応して酢酸に戻る加水分解も起きますが、0.10 mol/Lの酢酸ナトリウムで戻るのは約1万3千分の1にすぎません。加水分解の計算は水のイオン積Kwの記事で解いたとおりで、緩衝液の計算では無視して、酢酸イオンは塩の量だけあるとみなします。

図2:酢酸だけの液と、酢酸+酢酸ナトリウムの液(強酸を加えたとき)

違いは、H+を受け止める酢酸イオンの量です。量が足りなければ緩衝液でも効かなくなります。

酢酸だけ(0.10 mol/L)酢酸:酢酸イオン ≒ 99:1。少量の強酸で酢酸イオンがなくなり、加えたH+がそのまま残る緩衝作用なし
酢酸+酢酸ナトリウム(1:1)酢酸イオンが酢酸と同じだけある。2.0 mmolずつの液に0.30 mmolの塩酸を加えてもpHは4.76→4.63緩衝液
同じ液を10倍に薄めたものはじめのpHは同じ4.76でも、酢酸イオンは0.20 mmolしかない。0.30 mmolの塩酸で使い切り、pHは約2.5まで下がる緩衝能を超えた
比が1:100の液酢酸イオンが酢酸の100分の1しかない。強酸に対しては酢酸だけの液とほとんど同じ有効範囲の外

※液量はいずれも30 mL、25℃、酢酸のpKa 4.76で計算。10倍に薄めた液は、塩酸0.10 mmolが余り、酢酸0.40 mmolとともに33 mLにある状態から求めました。

緩衝作用を持つ目安:緩衝能と有効範囲pKa±1

緩衝液がどれだけ強酸・強塩基に耐えられるかは緩衝能(β)で表し、液1 LのpHを1だけ動かすのに必要な強酸・強塩基の物質量で定義します。弱酸と塩の合計濃度をCとすると、βは次の式で計算できます。

緩衝能(弱酸とその塩の液)
β = 2.303 × (C Ka[H+](Ka+[H+])2
+ [H+] + [OH−])
pH=pKa(酸:塩=1:1)のとき最大
β最大 ≒ 2.303 × C4
= 0.576 C
β:緩衝能[mol/(L·pH)] C:弱酸と塩(共役塩基)の合計濃度[mol/L]。[H+]と[OH−]の項は、pHが3より低いか11より高いときに効いてきます(pKa±1の範囲では1割に満たない大きさです)。

式から分かるのは2つで、緩衝能は酸と塩が1:1のときに最も大きく、合計濃度に比例して大きくなるという点です。比が10:1または1:10になるpKa±1では、最大値の約3分の1まで下がります。

図3:酢酸緩衝液の緩衝能とpH(合計0.10 mol/L)

緩衝能はpKaの4.76で最大になり、そこから離れるほど急に小さくなります。

00.020.040.062345678pHpH 4.76で最大有効範囲 pKa±1最大の約1/3緩衝能 β[mol/(L·pH)]

※上の式で25℃、酢酸のpKa 4.76として計算。最大値は約0.058 mol/(L·pH)で、濃度を2倍にすると曲線の高さも2倍になります。

このため緩衝液は、使いたいpHにpKaが近い弱酸を選び、酸と塩の比を1:1に近づけるのが基本です。pHを4.76付近に保ちたいなら酢酸、7前後ならリン酸の2段目、8前後ならトリスというように、目的のpHから弱酸を逆算します。

pKa±1は「これを超えると急に効かなくなる」という境目の目安で、比がおよそ同じなら多少どちらかが多くても緩衝液として使えます。一方で1:100のように偏った液は、pHの数字が狙いどおりでも、強酸か強塩基のどちらか一方にほとんど耐えられません。

弱酸とその塩の緩衝液の[H+]を導く(酢酸+酢酸ナトリウム)

公式は、酢酸の電離定数の式に、塩から来た酢酸イオンの濃度を入れると導けます。混合した直後の酢酸の濃度をCa、酢酸ナトリウムの濃度をCs(saltのs)として、酢酸の電離度をαとおいた濃度の収支を書くと次の表になります。

CH3COOHCH3COO−H+
電離する前CaCs0
変化した量−Caα+Caα+Caα
平衡のときCa(1−α)Cs+CaαCaα
表1:酢酸と酢酸ナトリウムの混合液の濃度の収支(単位はmol/L)。酢酸ナトリウムは完全に電離して、はじめからCsの酢酸イオンがあるとみなす
平衡のときの濃度を電離定数の式に入れる
Ka = [CH3COO−][H+][CH3COOH]
= (Cs+Caα)[H+]Ca(1−α)
[CH3COO−]=Cs+Caα、[CH3COOH]=Ca(1−α)、[H+]=Caα。

ここで効いてくるのが共通イオン効果です。液にはすでに塩から来た酢酸イオンがたくさんあるので、酢酸の電離平衡は左へ押し戻され、αは酢酸だけの液の1.3%よりさらに小さく、ほぼ0とみなせます。

αが十分小さければ、Ca(1−α)≒Ca、Cs+Caα≒Csと近似でき、100+1≒100と同じ考え方で小さい方を落とせます。すると式は簡単になり、[H+]はKaと濃度の比で決まります。

近似(α≪1)を入れる
Ka ≒ Cs[H+]Ca
[H+] ≒ Ka × CaCs
Ca・Csは、2つの液を混ぜたあとの全体の体積で割ったモル濃度です。

この近似は、CaとCsが[H+]より十分大きいときに成り立ちます。酢酸緩衝液なら[H+]は10−5 mol/L前後なので、濃度が0.001 mol/L以上あれば誤差はほぼ無視できますが、それより薄い液や比が極端な液では表1の式のまま解きます。

希釈とは?混ぜると濃度が変わる

希釈とは、溶液に水や別の溶液を加えて体積を増やし、モル濃度を下げることです。モル濃度はC=n/V(物質量÷溶液の体積)なので、物質量nが同じまま体積Vが増えれば、濃度はVに反比例して小さくなります。

酢酸の液と酢酸ナトリウムの液を別々に用意して混ぜると、どちらの成分も混合後の全体積で割り直す必要があります。ふつうの濃度の水溶液どうしなら、混合後の体積はそれぞれの体積の和とみなしてよく、濃い硫酸と水のように体積が和にならない組み合わせでは密度から求めます。

混合による希釈(2つの液を混ぜたとき)
C混合後 = C混合前 × Vその液V1 + V2
C:モル濃度[mol/L] V1・V2:混ぜる2つの液の体積。物質量C×Vは混ぜても変わりません。

緩衝液そのものを水で薄めた場合は、酢酸と酢酸イオンが同じ割合で薄まるので比は変わらず、pHはほとんど変わりません。ただし受け止め役の量は減るので、図2の3枚目のとおり、薄めた緩衝液ほど少しの酸で効かなくなります。

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物質量の比で計算する:ヘンダーソン=ハッセルバルヒ式

導いた式の濃度CaとCsは、どちらも同じ緩衝液の体積Vで割った値です。そこで濃度を物質量で書き直すと、分母と分子のVが打ち消し合い、物質量の比だけが残ります。

C=n/V を入れると、体積Vが消える
[H+] = Ka × n酸 / Vn塩 / V = Ka × n酸n塩
両辺の対数をとる
pH = pKa + log10n塩n酸
n酸:弱酸の物質量 n塩:塩(共役塩基)の物質量。mmolのまま入れてかまいません。

この形なら、混ぜる前の液の濃度と体積から物質量を出すだけで済み、希釈後の濃度を計算し直す手間がなくなります。強酸や強塩基を加える問題でも、反応で増減した物質量を足し引きしてから比をとれば、同じ式でそのまま解けます。

図4:緩衝液のpHを物質量で計算する手順

体積を割り直さず、物質量のまま足し引きして最後に比をとります。

STEP 01物質量を出す濃度×体積で、弱酸・塩・加える強酸や強塩基をmmolに直す
STEP 02反応で足し引きH+は塩を減らして酸を増やす。OH−は酸を減らして塩を増やす
STEP 03残りを確かめる酸と塩が両方残り、比が1:10〜10:1に入るか。片方が0なら公式は使えない
STEP 04比を式に入れるpH=pKa+log(n塩/n酸)。使ったKaと温度も書き残す

※STEP 03で片方を使い切っていたら、余った強酸(強塩基)の濃度からpHを求めます。

例題:酢酸と酢酸ナトリウムを混ぜた液のpH

0.10 mol/Lの酢酸20 mLと0.20 mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液10 mLを混ぜた液の[H+]とpHを、25℃で求めてみます。濃度で解く方法と物質量で解く方法を並べると、物質量の方が手数の少ないことがよく分かります。

濃度で解く(混合後の体積30 mLで割り直す)
Ca = 0.10 × 2030 = 0.0667 mol/L
Cs = 0.20 × 1030 = 0.0667 mol/L
[H+] = 1.75×10−5 × 0.06670.0667
= 1.75×10−5 mol/L
物質量で解く(体積は考えない)
n酸 = 0.10 × 20 = 2.0 mmol
n塩 = 0.20 × 10 = 2.0 mmol
pH = 4.76 + log102.02.0
= 4.76 + 0 = 4.76
Ka:酢酸の電離定数1.75×10−5 mol/L(pKa 4.76、25℃)。教科書の例題によくあるKa=2.0×10−5 mol/Lで解くと[H+]=2.0×10−5 mol/L、pH 4.70になります。

酸と塩が同じ物質量なので比は1で、pHはpKaそのものになります。答えが定数の値で変わるのは計算の誤りではないので、報告書や計算書には使ったKaと温度を書いておくと、あとで見比べたときに混乱しません。

例題:強酸を加えたときのpH変化を検算する

前の例題の緩衝液30 mLに、0.10 mol/Lの塩酸3.0 mL(0.30 mmol)を加えたときのpHを求めます。加えたH+は酢酸イオンと反応して酢酸に戻るので、塩が0.30 mmol減り、酸が0.30 mmol増えたところで比をとります。

塩酸0.30 mmolを加える(弱酸の遊離)
CH3COONa + HCl
→ CH3COOH + NaCl
n酸 = 2.0 + 0.30 = 2.3 mmol
n塩 = 2.0 − 0.30 = 1.7 mmol
pH = 4.76 + log101.72.3
= 4.76 − 0.13 = 4.63
同じ量の水酸化ナトリウムを加えた場合
pH = 4.76 + log102.31.7
= 4.76 + 0.13 = 4.89
Ka=2.0×10−5 mol/Lで解くと、塩酸を加えたあとは[H+]=2.0×10−5×2.3/1.7=2.7×10−5 mol/L、pH 4.57です。

比較のため、同じ塩酸を純水30 mLに加えると、0.30 mmolのH+が33 mLに広がって9.1×10−3 mol/Lとなり、pHは7.00から2.04まで下がります。

純水30 mLに同じ量を加えた場合(25℃)塩酸を加えた場合
[H+] = 0.30 mmol33 mL = 9.1×10−3 mol/L
pH = 2.04
水酸化ナトリウムを加えた場合
[OH−] = 9.1×10−3 mol/L
pH = 14 − 2.04 = 11.96
mmol/mLはmol/Lと同じ値です。pH+pOH=14は25℃のときの関係です。

図5:塩酸・水酸化ナトリウム0.30 mmolを加えたときのpH

緩衝液のpHは0.13しか動かず、純水は約5も動きます。

pH 0pH 2pH 4pH 6pH 8pH 10pH 12pH 14+NaOH → 4.89はじめ 4.76+HCl → 4.63酢酸緩衝液 30 mL+HCl → 2.04+NaOH → 11.96はじめ 7.00純水 30 mL

※25℃、酢酸のpKa 4.76。酢酸緩衝液は酢酸2.0 mmol+酢酸ナトリウム2.0 mmolの30 mLで、加えた液は0.10 mol/Lを3.0 mL。

pHが1違うと[H+]は10倍違うので、純水では[H+]が約9万倍になったのに対し、緩衝液では1.35倍にとどまった計算です。これが緩衝作用の大きさで、現場で緩衝液が使われる理由もこの数字に集約されます。

「緩衝液」の漢字と読み方

緩衝液は「かんしょうえき」と読み、「衝」は衝撃・衝突の衝で、外から来る衝撃(酸や塩基)を和らげる液という意味です。「衡」の字を使った「緩衡液」は誤りで、似た形の均衡・平衡の「衡」と取り違えやすいので注意します。

英語ではbuffer solution、略してbufferと呼び、試薬や分析の手順書では「バッファー」とカタカナで書かれることも多くあります。リン酸緩衝液はphosphate buffer、リン酸緩衝生理食塩水はPBSと略されます。

実際の現場では①:pH計の校正に使う標準液(JIS Z 8802)

分析室や工場で緩衝液がいちばん身近に使われているのが、pH計の校正です。ここで知っておきたいのは、標準液のpHが「計算した値」ではなく規格で決められた値であり、温度ごとに読み替えて使うという点です。

pHの測定方法を定めたJIS Z 8802では、組成と25℃のpHが決まった標準液を使ってpH計を合わせます。どれも緩衝液なので、空気に触れたり少量の不純物が入ったりしてもpHが動きにくく、基準として使えます。

標準液組成pH(25℃)
しゅう酸塩0.05 mol/L 四しゅう酸カリウム1.68
フタル酸塩0.05 mol/L フタル酸水素カリウム4.01
中性りん酸塩0.025 mol/L りん酸二水素カリウム+0.025 mol/L りん酸水素二ナトリウム6.86
ほう酸塩0.01 mol/L 四ほう酸ナトリウム(ホウ砂)9.18
炭酸塩0.025 mol/L 炭酸水素ナトリウム+0.025 mol/L 炭酸ナトリウム10.02
表2:JIS Z 8802のpH標準液と25℃のpH。HORIBAが公開しているJIS Z 8802(2011年確認)の温度別の表から抜き出した。中性りん酸塩は0℃で6.98、50℃で6.83のように温度で変わる。炭酸塩は10.01とする資料もあり、濃度の単位も資料によりmol/Lとmol/kgの表記がある。調製の細部はJIS本文で確認する

日常の校正でよく使うのは、フタル酸塩(pH 4.01)・中性りん酸塩(pH 6.86)・ほう酸塩(pH 9.18)の3種です。まず中性りん酸塩でゼロ点を合わせ、測る試料が酸性ならフタル酸塩、アルカリ性ならほう酸塩で傾きを合わせる2点校正が基本になります。

ホールピペットで液をメスフラスコに移して標準液を調製する作業

中性りん酸塩の6.86は、ヘンダーソン=ハッセルバルヒ式で計算した約7.2(リン酸2段目のpKa、比1:1)より0.3以上も低い値です。この差は、イオンが多い液ではイオンどうしが引き合い、実際に効く濃度(活量)が見かけの濃度より小さくなるために生じます。

中性りん酸塩標準液を活量で見積もる(25℃、イオン強度I=0.10)
pH = pKa2 + log10[HPO42−][H2PO4−]
+ log10γ2 − log10γ1
= 7.20 + 0 +(−0.43)−(−0.11)
= 約6.88(JISの値は6.86)
γ1・γ2:1価・2価のイオンの活量係数。デイビスの式(log10γ=−0.509z2(√I/(1+√I)−0.3I))で計算しました。同じ考え方で0.10 mol/Lずつの酢酸緩衝液を見積もると、4.76ではなく約4.65になります。

つまり公式で計算したpHは、濃い緩衝液ほど実測とずれます。正確なpHが必要な液は計算値をうのみにせず、校正したpH計で測って合わせるのが実務の進め方で、計算は配合の見当をつけるために使います。

標準液の扱いでは、ほう酸塩と炭酸塩が空気中の二酸化炭素を吸ってpHが下がりやすいことに注意します。二酸化炭素が水に溶けて炭酸になる反応が起きるためで、使う分だけ小分けにし、使った液は瓶に戻さないのが基本です。

pH計は、ガラス電極の電位から計算でpHを出す計測器です。同じ電気化学の計測である導電率計の校正と温度補償と同様に、校正した日時・標準液のロット・温度を記録し、計測器の校正周期と記録の残し方に沿って管理します。

実際の現場では②:バイオ・医薬の緩衝液と血液の炭酸緩衝系

タンパク質や細胞、酵素はpHが少し動くだけで性質が変わるため、バイオ・医薬の現場では緩衝液がほぼすべての工程に入ります。ここでの判断は、目的のpHにpKaが近く、使う温度や金属イオンの影響を受けにくい緩衝剤をどれにするかです。

図6:代表的な緩衝液のpKaと使える目安のpH範囲

保ちたいpHが帯の中に入る緩衝液を選びます。中性付近は候補が多く、用途で使い分けます。

血液 pH 7.4酢酸 4.76MES 6.10炭酸(1段目) 6.35リン酸(2段目) 7.21HEPES 7.50トリス 8.07ホウ酸 9.24炭酸(2段目) 10.3324681012pH(縦線=pKa、帯=pKa±1)

※pKaは25℃・イオン強度0の値で、資料によって±0.1程度の差があります(酢酸・炭酸はCRC Handbook、リン酸・トリス・ホウ酸はGoldbergらの集成、MES・HEPESは25℃の試薬メーカー表(Sigma-Aldrich)などをもとにした表)。血液の炭酸は37℃の血漿で見かけのpK 6.1を使います。

リン酸緩衝液

リン酸は3段階に電離する酸で、pKaは25℃で約2.2・7.2・12.3です。このうち2段目のH2PO4−⇄HPO42−+H+がpH 7前後に当たるので、りん酸二水素カリウムとりん酸水素二ナトリウムを混ぜて中性付近の緩衝液をつくります。

生理食塩水にリン酸緩衝液を加えたPBS(pH 7.4前後)は、細胞の洗浄や抗体の希釈で使われる定番の液です。安価で温度の影響が小さい一方、カルシウムやマグネシウムと結び付いて沈殿しやすいので、これらを多く含む液には向きません。

トリスとグッド緩衝液

トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)は、pKaが25℃で約8.07の弱塩基で、電気泳動や酵素反応の緩衝液に広く使われます。

注意したいのは温度で、pKaが1℃あたり約0.028下がるため、25℃でpH 8.0に合わせた液は4℃では約0.6高く、37℃では約0.3低くなります。

トリス緩衝液のpHの温度変化(25℃で合わせた液)
4℃:ΔpH ≒ −0.028 ×(4 − 25)= +0.59
37℃:ΔpH ≒ −0.028 ×(37 − 25)= −0.34
−0.028:トリスのpKaの温度係数[/℃]。酸と塩基の比が変わらなければ、pHはpKaと同じだけ動きます。

このため冷蔵で使う液は、使う温度でpHを合わせるのが基本です。トリスはアミノ基が金属イオンと配位結合をつくりやすく、金属を必要とする酵素の反応では結果を変えてしまうことがあるため、その用途には別の緩衝剤を選びます。

こうした弱点を減らす目的で、1966年にグッドらが生化学向けに提案したのがグッド緩衝液です。

MES(pKa 約6.1)・PIPES(約6.8)・MOPS(約7.2)・HEPES(約7.5)などがあり、pKaが中性付近にそろい、温度による変化や金属との結び付きが小さいように選ばれています。

いずれもアミノ基とスルホン酸基を持つ両性の分子で、アミノ酸が双性イオンになる性質と同じ形をしています。注射剤や抗体医薬では、有効成分を長く安定に保てるpHと緩衝剤を処方の段階で決め、無菌充填の工程でも液のpHを管理項目にします。

血液の炭酸緩衝系

人の血液は、動脈血でpH 7.35〜7.45という狭い範囲に保たれています。その主役が二酸化炭素と炭酸水素イオンHCO3−の炭酸緩衝系で、二酸化炭素は水と反応して酸になる酸性酸化物の代表です。

血液の炭酸緩衝系とヘンダーソン=ハッセルバルヒ式
CO2 + H2O ⇄ H2CO3 ⇄ H+ + HCO3−
pH = 6.1 + log10[HCO3−]0.03 × PCO2
= 6.1 + log10240.03 × 40 = 6.1 + log1020 = 7.40
6.1:37℃の血漿での炭酸の見かけのpK [HCO3−]:炭酸水素イオン濃度[mmol/L](基準値24) PCO2:二酸化炭素分圧[mmHg](基準値40) 0.03:二酸化炭素の溶解度[mmol/(L·mmHg)]。

比は20:1で、閉じた容器ならpKa±1から外れた弱い緩衝液です。それでも強く効くのは、肺が二酸化炭素を吐き出し、腎臓が炭酸水素イオンの量を調節する開いた系だからで、酸が入ってできたCO2はすぐに呼吸で外へ出され、比が保たれます。

実際の現場では③:めっき浴と排水処理のpH安定

工場の液では、緩衝作用は「わざと入れて使う」場合と「もともと入っていて効いてしまう」場合の両方があります。前者の代表がめっき浴、後者の代表が排水の中和で、どちらも液にどれだけ緩衝成分があるかで、pHの保ちやすさと薬品の量が決まります。

めっき浴のホウ酸と有機酸

電気めっきでは、陰極(めっきされる品物)の表面で金属の析出と同時に水素も発生し、表面近くの液だけH+が減ってpHが上がります。ニッケルめっきでは、ここで水酸化ニッケルができて皮膜に入り込むと、焦げや密着不良の原因になります。

そこでニッケルめっきのワット浴やスルファミン酸浴には、pH緩衝剤としてホウ酸を入れるのが一般的です。ホウ酸のpKaは約9.2なので、浴の弱酸性のpHでは緩衝能はそれほど大きくありませんが、陰極の近くでpHが上がりかけたところで効きます。

一方、ホウ素は排水基準で海域以外10 mg/Lに規制されているため、ホウ酸の代わりに酢酸やクエン酸を使う研究も進んでいます。表面技術協会の論文では、有機酸を入れた浴の方がホウ酸浴よりpHの緩衝作用が高かったと報告されています。

無電解めっきでは、クエン酸や乳酸などが緩衝剤と錯化剤を兼ね、金属イオンを錯イオンにして液を安定させます。ここでも、pHの維持と金属との結び付きを同じ物質が担っている点がトリスの話と共通しています。

排水に含まれる緩衝成分と中和量

排水を中和するとき、pHの数字だけから酸の量を計算すると、実際の必要量から大きく外れます。排水に炭酸塩・リン酸塩・有機酸などの緩衝成分が含まれると、同じpHでも中和に必要な酸の量が何倍にもなるためです。

計算例:どちらもpH 11.1の排水1 Lを、pH 8.3付近まで中和する酸の量(25℃)水酸化ナトリウムだけの排水
[OH−] = 1.4×10−3 mol/L
必要な酸 ≒ 1.4 mmol
0.010 mol/Lの炭酸ナトリウムを含む排水
CO32− + H+ → HCO3−
必要な酸 ≒ 10 mmol(約7倍)
0.010 mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液は、Kb=Kw/Ka2=2.1×10−4(炭酸のpKa2 10.33)から[OH−]=1.4×10−3 mol/L(x2/(0.010−x)=Kbを解いた値)、pH 11.1になります。pH 8.3付近は炭酸水素イオンがほぼ全部になる点です。

そのため排水の中和では、pHと一緒に酸消費量(アルカリ度)を測り、少量の排水に酸を少しずつ加える滴定で注入量を決めます。水酸化ナトリウムや硫酸の注入は、緩衝成分が多い排水ほど一度に入れすぎない制御にしておくと、pHの行き過ぎを防げます。

pHの範囲は放流水の一般排水基準(海域以外)で5.8〜8.6と決められており、重金属は水酸化物が沈みやすいpHに合わせて取り除きます。溶解度積で考える沈殿のpHを狙っても、緩衝成分が多い排水ではpHが目標に届くまで時間がかかるので、反応槽の滞留時間も緩衝の強さを見て決めます。

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緩衝液のよくある質問

緩衝液は何回でも酸や塩基を受け止められますか?

いいえ。受け止め役の弱酸か塩を使い切るとそれ以上は効かず、pHは急に動きます。どこまで耐えられるかは濃度と液量で決まり、薄い緩衝液ほど早く限界に達します。

緩衝液のpHは温度で変わりますか?

変わります。弱酸のpKaが温度で変わるためで、変わり方は緩衝剤ごとに違い、酢酸やリン酸は小さく、トリスは1℃あたり約0.03と大きく動きます。使う温度でpHを合わせ、記録にも温度を残します。

アミノ酸やタンパク質にも緩衝作用はありますか?

あります。アミノ酸はカルボキシ基とアミノ基の両方を持ち、それぞれのpKa付近で緩衝作用を示します。血液中ではヘモグロビンなどのタンパク質も、炭酸緩衝系と並んでpHを保つ役を担っています。

緩衝液をつくるとき、計算どおりのpHにならないのはなぜですか?

濃い液では活量の影響で、公式の値より0.1〜0.3ほどずれるのがふつうです。計算で酸と塩の量の見当をつけ、校正したpH計で測りながら酸か塩基を少しずつ加えて目的のpHに合わせます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 緩衝液は弱酸とその塩(弱塩基とその塩)の液で、H+は共役塩基が、OH−は弱酸が受け止めるのでpHが動きにくい
  • pHはヘンダーソン=ハッセルバルヒ式 pH=pKa+log(n塩/n酸)で、物質量の比から計算でき、希釈後の濃度を出し直さなくてよい
  • 酢酸2.0 mmolずつの液に塩酸0.30 mmolを加えるとpHは4.76→4.63、純水なら7.00→2.04
  • 緩衝能は酸:塩=1:1(pH=pKa)で最大、合計濃度に比例し、pKa±1で最大の約3分の1になる
  • pH計の標準液(JIS Z 8802、25℃で4.01・6.86・9.18)は規格の値で、濃い液のpHは活量の影響で計算値からずれる
  • バイオではリン酸・トリス・グッド緩衝液を温度と金属の影響で選び、血液は炭酸緩衝系、めっき浴はホウ酸、排水では緩衝成分が中和量を左右する

緩衝液の計算は、弱酸の電離平衡に塩を足しただけの式ですが、pH計の校正から医薬の処方、めっき浴や排水の管理まで、pHを狙った値に保つ現場の多くを支えています。

弱酸の強さを決める電離定数の考え方は、フッ化水素が弱酸である理由や、水溶液が弱酸性になるミョウバンの加水分解の記事でも扱っています。

出典

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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