酸性酸化物は塩基と反応して塩をつくる酸化物で、多くは非金属の酸化物です。塩基性酸化物は酸と反応して塩をつくる金属の酸化物で、両性酸化物はAl2O3やZnOのように酸にも強い塩基にも溶ける酸化物を指します。
反応式は、酸化物に水を足して酸や塩基の形に置き換えてから中和させ、2つの式を足せば迷わずに作れ、両辺の原子の数で検算できます。同じ酸と塩基の組み合わせは、発電所の排煙脱硫や高炉のスラグ、炉の内張りに使う耐火物の選び方にもそのまま出てきます。
先に全体像を表にまとめておきます。分類の軸は「酸と塩基のどちらと反応して塩をつくるか」で、水に溶けるかどうかは手がかりの1つにすぎません。
| 比べる点 | 酸性酸化物 | 塩基性酸化物 | 両性酸化物 | 中性酸化物 |
|---|---|---|---|---|
| 多い元素 | 非金属(C・N・P・S・Si など) | 金属(Na・K・Ca・Ba・Mg・Cu・Fe など) | 金属と非金属の境目(Al・Zn・Sn・Pb など) | 一部の非金属 |
| 代表例 | CO2、SO2、SO3、P4O10、SiO2 | Na2O、CaO、BaO、MgO、CuO、Fe2O3 | Al2O3、ZnO、SnO、PbO | CO、NO、N2O |
| 水に溶けるもの | オキソ酸になる(SO3→H2SO4) | 水酸化物になる(CaO→Ca(OH)2) | ほとんど溶けない | 酸も塩基もつくらない |
| 反応して塩をつくる相手 | 塩基 | 酸 | 酸と強い塩基の両方 | どちらとも反応しない |
| 工場での例 | 排ガスのSO2を石灰で吸収、ガラスの骨格のSiO2 | スラグをつくる石灰、塩基性耐火物のMgO | バイヤー法のアルミナ、亜鉛めっき | 燃焼ガスのCO・NO |
酸性酸化物とは:塩基と反応して塩をつくる非金属の酸化物
酸性酸化物とは、塩基と反応して塩と水をつくる酸化物で、水に溶けるものは酸素を含む酸(オキソ酸)になります。二酸化炭素CO2、二酸化硫黄SO2、三酸化硫黄SO3、十酸化四リンP4O10、二酸化ケイ素SiO2が代表で、大部分の非金属元素の酸化物がこのグループに入ります。
注意したいのは、水と反応するかどうかで分類が決まるわけではない点です。SiO2は水にほとんど溶けませんが、水酸化ナトリウムと反応してケイ酸ナトリウムという塩をつくるので、酸性酸化物に分類されます。
水に溶けてオキソ酸になるものと、水には溶けず塩基とだけ反応するものがあります。どちらも塩基と反応して塩をつくる点は同じです。
※P4O10は水と反応してリン酸H3PO4に、N2O5は硝酸HNO3になります。
水と反応してオキソ酸になる反応
水に溶ける酸性酸化物は、水と1対1や1対6などの決まった数で結びつき、オキソ酸になります。式は、左辺の酸化物と水の原子を全部右辺の酸に移すだけなので、原子の数を数えればそのまま検算できます。
水と結びつくのは、硫黄やリンのような非金属の原子が、まわりの酸素原子に電子を引っぱられて正に偏っており、そこへ水の酸素原子の非共有電子対(結合に使われていない電子の対)が近づいて結合をつくるためです。そのあと水素が酸素の上に移り、OHを持つオキソ酸の形に落ち着きます。
工業では、この反応がそのまま製品をつくる工程になっています。SO3を濃硫酸に吸収させて硫酸にするのが接触法の最後の段階で、二酸化窒素NO2が水と反応して硝酸と一酸化窒素になる反応は濃硝酸と希硝酸の生成物の違いにもかかわります。
塩基との反応:水を足して酸にしてから中和する
酸性酸化物と塩基の反応式は、いきなり書こうとすると右辺の水の数で迷います。そこで、まず酸化物に水を足して酸の形にし、その酸を塩基で中和してから、2本の式を足して途中の物質を消すと、確実に組み立てられます。
ここで足す水は、式を組み立てるための形式的な手順です。SiO2は実際には水と反応してH2SiO3になるわけではありませんが、式の上でそう置いても、足し合わせると水とH2SiO3は両辺で消えるので、最後の式は正しくなります。
水を足す、中和する、足して検算する。酸性酸化物でも塩基性酸化物でも同じ手順で組み立てられます。
※想定する生成物(どの塩になるか)は先に決めておきます。酸や塩基が多すぎる・足りないときや、高温で融かす反応では、生成物の形が変わることがあります。
手順に慣れると、検算のための目安も見えてきます。酸化物に足した水の数の2倍が、中和に必要なOH−の数になり、SiO2・CO2・SO3は水1個なのでOH−2個、P4O10は水6個なのでOH−12個です。
2本目は石灰水にCO2を通すと白くにごる反応で、石灰水と二酸化炭素の反応で詳しく扱っています。3本目のSO2と消石灰の反応は、後半で取り上げる発電所の排煙脱硫の出発点です。
SiO2とNaOHの反応は、ガラスのびんで身近に起きます。ガラスの主成分はSiO2なので、濃い水酸化ナトリウム水溶液をすり合わせのガラス栓のびんに入れると栓が固着しやすく、水酸化ナトリウムの扱いではポリエチレン容器が基本になります。
塩基性酸化物とは:酸と反応して塩をつくる金属の酸化物
塩基性酸化物とは、酸と反応して塩と水をつくる酸化物で、陽性の強い典型元素や酸化数の低い遷移金属の酸化物がこのグループです。Na2O・CaO・BaOは水に溶けて強い塩基性を示し、MgO・CuO・Fe2O3は水に溶けにくくても酸にはよく溶けます。
水に溶けるかどうかは、酸性酸化物と同じく分類の決め手ではありません。鉄さびの主成分である酸化鉄は水には溶けませんが、塩酸や硫酸に溶けて鉄の塩になるので、塩基性酸化物として扱います。
水との反応:酸化物イオンが水素イオンを受け取る
酸化バリウムBaOや酸化カルシウムCaOは、水と反応して水酸化物になります。これらはBa2+やCa2+と酸化物イオンO2−がつくるイオン結晶で、反応の主役はO2−です。
O2−がH+とくっつくのは、電子の余りと空きがかみ合うからです。O2−は非共有電子対を4組持ち、H+は電子を1つも持たない空の軌道だけの粒子なので、O2−が電子対を差し出してH+と共有結合をつくり、OH−になります。
塩基性酸化物のO²⁻が、水分子のH⁺を1個引き取ります。水の残りもOH⁻になるので、OH⁻が2個できます。
※O²⁻のまわりの8つの点は非共有電子対(4組)を表します。H⁺には電子がなく、O²⁻の電子対を受け取って結合します。
酸との中和反応
塩基性酸化物と酸の反応式も、酸性酸化物と同じ3つの手順で作れます。酸化マグネシウムMgOは水にほとんど溶けませんが、式の上では水を足して水酸化マグネシウムに置き換え、塩酸で中和してから足し合わせます。
塩基性酸化物の側にも検算の目安があり、酸化物に含まれるO 1個につきH+を2個受け取って水1個になります。O2−+2H+→H2Oという関係なので、Oが3個あるFe2O3なら塩酸は6個、水は3個です。
酸化鉄が酸に溶ける性質は、鋼材の表面処理で使われています。熱間圧延や焼なましで鋼の表面にできた酸化鉄の皮膜(スケール)を、硫酸や塩酸で溶かして落とす工程が「酸洗い」です。
酸洗いの式をイオン反応式で書くと、塩化物イオンは反応に関わらず、O2−とH+だけが水になることがよく分かり、塩酸の量もO 1個につきH+2個の目安で見積もれます。
両性酸化物とは:酸にも強い塩基にも溶けるAl₂O₃・ZnO
両性酸化物とは、酸に対しては塩基として、強い塩基に対しては酸としてふるまい、どちらとも塩をつくる酸化物です。代表は酸化アルミニウムAl2O3と酸化亜鉛ZnOで、アルミニウム・亜鉛・スズ・鉛の酸化物が両性の典型として挙げられます。
塩基性酸化物は酸に、酸性酸化物は塩基に溶けますが、両性酸化物は両方に溶けます。強い塩基と反応するときは、水酸化物イオンが4個ついたヒドロキシド錯イオン([Al(OH)4]−や[Zn(OH)4]2−)になって溶けるのが特徴です。
塩基との式も、3つの手順で組み立てられます。Al2O3+3H2O→2Al(OH)3と水を足し、Al(OH)3+NaOH→Na[Al(OH)4]を2倍して足せば、上の式になります。
教科書によっては、Al2O3+2NaOH→2NaAlO2+H2Oと書かれていることもあります。これは水のない状態で高温に融かして反応させたときの書き方(アルミン酸ナトリウム)で、水溶液の中の反応ならNa[Al(OH)4]、融解なら NaAlO2 と条件で書き分けると混乱しません。
相手が酸なら塩基として、相手が強い塩基なら酸としてふるまいます。どちらの反応も、工場では「溶ける・溶けない」の判断に直結します。
※アンモニア水のような弱い塩基には、Al₂O₃はほとんど溶けません。両性酸化物が溶けるのは強い塩基です。
酸性酸化物・塩基性酸化物・両性酸化物の見分け方
見分け方の最終的な基準は、その酸化物が酸と塩基のどちらと反応して塩をつくるかです。ただ、毎回実験するわけにはいかないので、実際にはもとの元素が周期表のどこにあるかで当たりをつけ、例外だけを別に覚えるのが効率的です。
周期表の右上にある非金属の酸化物は、共有結合の分子や結晶をつくりやすく、酸性を示します。左下にある金属の酸化物はイオン結晶をつくりやすく、塩基性を示し、その境目にある元素の酸化物が両性になります。元素ごとの区分は金属元素と非金属元素の見分け方と同じ線で考えられます。
第3周期を左から右へ進むと、酸化物は塩基性から両性を経て酸性に変わります。同じ元素でも、酸化数が高いほど酸性が強くなります。
第3周期の酸化物(最も高い酸化数のもの)
クロムの酸化物(酸化数で変わる)
※性質の強弱は大まかな傾向です。クロムの例はコトバンク所収のブリタニカ国際大百科事典「酸化物」による。
例外:中性酸化物と、酸化数の高い金属の酸化物
「非金属なら酸性」には例外があり、一酸化炭素CO、一酸化窒素NO、一酸化二窒素N2Oは、酸とも塩基とも反応しない中性酸化物です。COは不完全燃焼で、NOは高温の燃焼で生じますが、どちらも水や石灰に吸収させにくいので、排ガス処理ではSO2とは別の方法で除きます。
「金属なら塩基性」にも例外があり、三酸化クロムCrO3や七酸化二マンガンMn2O7のように、酸化数の高い遷移金属の酸化物は酸性酸化物です。金属でも酸化数が高いと、非金属の酸化物に近いふるまいをします。
CrO3は水に溶けてクロム酸に、Mn2O7は過マンガン酸になります。遷移元素の酸化数の幅は遷移元素と典型元素の違いで整理しています。
酸化物イオンのやりとりで見ると、水がなくても判断できる
ここまでの反応はすべて、塩基性酸化物がO2−を差し出し、酸性酸化物がそれを受け取る形に書き直せます。酸を「酸化物イオンの受け手」、塩基を「出し手」とみなす考え方は1939年にラックスが示したもので、水のない高温の融体でも酸・塩基を判断できるのが利点です。
周期表は当たりをつける目安、酸と塩基との反応が最終的な判断、酸化物イオンのやりとりは高温の工程を考える見方、と使い分けると混乱しません。
実際の工場では:排煙脱硫はSO₂と石灰の中和

石炭や重油を燃やすと、燃料中の硫黄が酸性酸化物のSO2になって排ガスに出ます。これを塩基性の石灰で受け止めて中和するのが排煙脱硫で、日本の排煙脱硫はほとんどが湿式で、本流は石灰石のスラリーで吸収して石膏にする「石灰石−石膏法」です。
環境省の資料によると、吸収塔に入る排ガスのSO2は500〜2,000 ppmほどで、60〜70℃に冷やしてから石灰石のスラリー(粉を水に混ぜた液)と接触させます。吸収したSO2はいったん亜硫酸カルシウムになり、空気を吹き込んで酸化すると、硫酸カルシウム二水和物=石膏になります。
酸性酸化物のSO₂を、塩基の石灰石が吸収塔で受け止めます。空気で酸化してできた石膏は、脱水して石膏ボードやセメントの原料になります。
※図では、亜硫酸カルシウムを酸化する工程を、吸収塔の下部の液に空気を吹き込む形に簡略化しています。酸化はpH 4程度で進めます(環境省「石膏に係る基礎的知見」)。
石灰石CaCO3はそのままでは塩基性酸化物ではありませんが、炭酸イオンが弱い酸の陰イオンなので、より強い酸性のSO2に追い出されてCO2を出します。弱い酸(炭酸)の塩に強い酸(亜硫酸)を当てると、弱い酸が追い出されるという関係で、酸性酸化物どうしの強さの差が反応を進めています。
計算例:SO₂ 1トンを処理すると石灰石と石膏はどれだけか
反応式の係数から、必要な石灰石とできる石膏の量を見積もれます。ここでは、SO2がすべて反応し、石灰石は純粋なCaCO3と置いた理論量を求めます。実際の装置では石灰石の純度や反応率、運転条件の分だけ、石灰石を多めに入れます。
できる石膏はSO2の重さの2.7倍近くになり、捨てれば大きな廃棄物ですが、品質をそろえれば原料になります。石膏ボード工業会の統計では、2025年に石膏ボードの原料として使われた排煙脱硫石膏は1,381千トンで、原料石膏の38.8%を占めました。
石膏そのものの性質と、ボードやセメントでの使われ方は石膏と焼き石膏の違いで詳しく扱っており、排煙脱硫石膏が化学工場や発電所とどうつながるかもそちらで整理しています。
一方、SO2の一部はさらに酸化されてSO3になり、排ガスが冷えると水蒸気と反応して硫酸の露になります。ボイラーの煙道や空気予熱器が腐食する酸露点の問題は、酸性酸化物と水の反応が設備の中で起きている例で、低温腐食と高温腐食の違いもあわせて押さえておくと対策の筋道が見えます。
製鉄・セメント・ガラス・耐火物:酸性と塩基性の組み合わせで考える
高温の工程では水がないので、前述の酸化物イオンのやりとりの見方が中心になります。SiO2は酸、CaOやMgOは塩基、Al2O3は両性という分類はそのままで、教科書の水溶液の式よりも、どの酸化物をどれだけ混ぜるかという組成比で語られるのが特徴です。
スラグの塩基度:CaOでSiO₂を受け止める
高炉では、鉄鉱石に含まれるSiO2やAl2O3を石灰石からできるCaOと結びつけ、溶けたスラグとして銑鉄から分けます。スラグの性質を表す指標が塩基度で、基本の形は塩基性のCaOと酸性のSiO2の比(CaO/SiO2)です。
CaOが足りないとスラグは酸性に寄り、炉の内張りや脱硫・脱りんの効き方が変わるので、石灰石の量で塩基度を合わせます。製鉄所全体の流れは溶鉱炉(高炉)と転炉の反応式で整理しています。
JIS塩基度では両性のAl2O3を塩基の側に足していますが、前述の論文では、Al2O3はスラグの水和の活性に対してCaOと同じには扱えないという指摘も紹介されています。両性酸化物が相手によって酸にも塩基にもなる性質が、指標の作り方にも表れている例です。
転炉や溶銑の予備処理では、鋼の性質を悪くするりんを取り除くため、塩基度をさらに高くします。りんは酸化されると酸性酸化物のP2O5になり、塩基性のCaOが多いスラグほどよく取り込まれるからです。
日本製鉄技報に載った2トン転炉の試験では、CaO/SiO2=2で溶銑中のりんを0.01%、3で0.001%まで下げられ、同じ論文は低い塩基度のスラグでは高い脱りん能力を得られないと述べています。
セメントとガラス:酸性のSiO₂と塩基性の酸化物を焼き合わせる
セメントは、石灰石(CaO源)と粘土(SiO2・Al2O3源)を原料に、ロータリーキルンで最高1,450℃ほどまで焼いてつくります。クリンカーの主役は3CaO・SiO2などのケイ酸カルシウムで、塩基性のCaOが酸性のSiO2と結びついた化合物が、水と反応して固まる力を生みます。
クリンカーに重量で約3%の石膏を加えて粉砕したものがポルトランドセメントで、この石膏は固まり始める時間を調整する役目を持ちます。高炉の水砕スラグもCaOとSiO2が主成分なので、細かく砕いてセメントに混ぜる高炉セメントの材料になります。
ガラスも、酸性のSiO2に塩基性の酸化物を加えて溶かした材料です。窓や瓶に使うソーダ石灰ガラスは、ケイ砂・ソーダ灰・石灰石などを溶融してつくり、一般的な組成は次のとおりです。
- SiO2(酸性):70〜74%
- Na2O(塩基性):12〜16%
- CaO+MgO(塩基性):10〜13%
- Al2O3(両性):0.5〜2.5%
Na2OはSiO2のつながりを切って溶けやすくし、CaOは水に溶けにくくする役目です。SiO2が酸性酸化物だからこそ、ガラスは強いアルカリに長くさらすと表面が侵されますし、フッ化水素酸がガラスを溶かす反応はSiO2の別の弱点にあたります。
耐火物:塩基性のスラグにはMgO、酸性の環境にはSiO₂
炉の内張りに使う耐火物は、化学的な性質から酸性・中性・塩基性に大きく分けられます。分ける理由は、酸性の物質と塩基性の物質は高温で互いに反応しやすく、塩基性のスラグが触れる場所に酸性の耐火物を使うと、れんがが溶かされてしまうからです。
| 比べる点 | 酸性耐火物 | 中性耐火物 | 塩基性耐火物 |
|---|---|---|---|
| 主な成分 | SiO2 | Al2O3、Cr2O3、炭素 | MgO、CaO |
| 代表例 | けい石れんが、ろう石質、粘土質、ジルコン質 | 高アルミナ質、クロム質、スピネル質、炭素質 | マグネシア質、ドロマイト質、マグネシア-カーボン質、クロム-マグネシア質 |
| 使われる場所の例 | コークス炉の炉体、ガラス槽窯 | 窯のバーナー周り、取鍋など | 転炉の内張り、電気炉、セメントのロータリーキルン |
| 相性が悪い相手 | 塩基性のスラグや粉じん | (比較的どちらにも使える) | 酸性のスラグ |
製鋼の転炉では、生石灰を入れて塩基性のスラグをつくるので、内張りには塩基性のマグネシア(MgO)系が選ばれます。日本製鉄技報によると、マグネシアに黒鉛を加えたMgO-C質れんがは1970年代末から転炉に使われ始め、現在では転炉のすべての部位の内張りに使われています。
逆に、酸性のSiO2を主成分とするけい石れんがは、高温で荷重を受けても縮みにくく、コークス炉の炉体やガラス槽窯に使われます。
化学辞典は塩基性耐火物について、成分の含有量に決まりはなく、接触するスラグの塩基度との相対関係で決まると説明しています。耐火物の選定はスラグの酸・塩基とセットで考えるのが基本で、アルミナ系の材料はファインセラミックスの用途と種類でも扱っています。
両性酸化物の性質を生かす・気をつける:バイヤー法と酸化皮膜
両性酸化物の「酸にも強い塩基にも溶ける」性質は、工場では長所にも短所にもなります。前述の両性酸化物の式が、アルミナをつくる工程では原料を選り分ける道具になり、アルミや亜鉛の部品では使える環境を狭める原因になっています。
バイヤー法:Al₂O₃はNaOHに溶け、Fe₂O₃は残る
アルミの原料ボーキサイトには、Al2O3の水和物のほか酸化鉄Fe2O3などが含まれます。バイヤー法では、これを高温・高圧の水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、両性のAl2O3だけがアルミン酸ナトリウムとして溶け、塩基性のFe2O3は溶けずに残る性質の差を利用します。
溶け残った酸化鉄などの残さは赤い泥(赤泥)として分けられ、国際アルミニウム協会によるとアルミナ1トンあたり約1.2トン出ます。
米国地質調査所の目安では、乾いたボーキサイト4トンからアルミナ2トン、そこからアルミニウム1トンができます。アルミナからアルミニウムを取り出す工程は融解塩電解とアルミ製錬で扱っています。
酸化皮膜と腐食:アルミと亜鉛は酸にもアルカリにも弱い
アルミニウムがさびにくいのは、表面にできる薄いAl2O3の皮膜が内部を守るからです。ただしこの皮膜は両性酸化物なので、中性付近では安定でも、強い酸や強いアルカリに触れると皮膜ごと溶け、内部のアルミが腐食します。皮膜を電気化学的に厚く育てる処理がアルマイトです。
亜鉛めっきも同じで、亜鉛と酸化亜鉛は酸にもアルカリにも溶けます。米国亜鉛めっき協会(AGA)によると、溶融亜鉛めっき鋼が最もよく持つのはpH 5.5〜12の液の中です。pH 3〜5.5と12〜13.5では数年しか守れず、pH 3未満と13.5超では使用を勧めないとしています。
亜鉛は鉄より先に溶けて鋼を守る犠牲防食の役も担っており、仕組みはトタンとブリキの違いで整理しています。設備の材料を選ぶときは、イオン化傾向に加えて、使う液のpHが両性金属の皮膜を溶かす範囲にないかを確かめておくと、思わぬ腐食を防げます。
酸性酸化物・塩基性酸化物・両性酸化物のよくある質問
酸性塩・塩基性塩と、酸性酸化物・塩基性酸化物は関係がありますか?
名前は似ていますが、別の分類です。酸性塩・塩基性塩は、塩の化学式に酸のHや塩基のOHが残っているかで決まり、炭酸水素ナトリウムNaHCO3は酸性塩ですが水溶液は弱い塩基性を示します。どちらも残らない塩化ナトリウムや炭酸ナトリウムが正塩です。
水に溶けない酸化物は、酸性か塩基性かをどう確かめますか?
酸の水溶液と強い塩基の水溶液のどちらに溶けるかを見ます。塩酸に溶けて水酸化ナトリウム水溶液に溶けなければ塩基性、その逆なら酸性、両方に溶ければ両性で、高温の融体ではスラグの塩基度のような組成の比で表します。
酸化鉄は塩基性酸化物ですか?
酸化鉄(FeO・Fe2O3)は主に塩基性で、塩酸や硫酸に溶けて鉄の塩になり、水酸化ナトリウム水溶液にはほとんど溶けません。バイヤー法で赤泥として残るのはこの性質のためで、赤さびと黒さびの違いは錆と磁石の関係の記事で扱っています。
両性酸化物をつくる元素は、アルミニウム・亜鉛・スズ・鉛だけですか?
この4つが代表ですが、ほかにもあります。ヒ素やアンチモンの酸化物、クロムの酸化数+3の酸化物Cr2O3なども両性とされ、同じ元素でも酸化数によって酸性・両性・塩基性が変わります。
まとめ
- 酸性酸化物は塩基と、塩基性酸化物は酸と反応して塩をつくり、両性酸化物(Al2O3・ZnOなど)は酸とも強い塩基とも反応する。水に溶けるかどうかは分類の決め手ではない
- 反応式は「水を足して酸・塩基の形にする→中和する→足して原子の数で検算する」の3手順で作る。足した水×2がOH−の数、酸化物のO 1個につきH+2個が目安
- 見分け方は、周期表の右上の非金属は酸性、左下の金属は塩基性、境目は両性。CO・NO・N2Oは中性、CrO3・Mn2O7は金属でも酸性
- 排煙脱硫は酸性のSO2を塩基の石灰で受け止める中和で、SO2 1 tから理論上約2.69 tの石膏ができる
- スラグの塩基度(CaO/SiO2)、セメント・ガラスの組成、耐火物の選定、バイヤー法、アルミ・亜鉛の腐食は、どれも酸化物の酸・塩基の組み合わせで説明できる
酸化物の酸・塩基は、反応式を作るための分類であると同時に、高温の炉や排ガス処理、材料の腐食を読み解く共通の言葉です。どの酸化物が酸でどれが塩基かが分かれば、スラグの組成や耐火物の選び方、めっきの使える範囲が一続きの話として見えてきます。
素材の現場については、鉄鋼・非鉄金属業界の全体像や窯業・セラミックス業界の全体像、化学業界の解説があります。

出典
出典・参考資料(16件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 酸化物の分類(酸性・塩基性・両性・中性、高酸化数の遷移金属酸化物、クロムの酸化物):コトバンク「酸化物」(日本大百科全書、化学辞典 第2版、世界大百科事典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ほか)、同「酸性酸化物」、同「塩基性酸化物」、同「両性酸化物」
- 酸化物イオンの受け手・出し手としての酸・塩基(1939年):NPTEL「Module 4: Acids and Bases, Lecture 2」
- 排煙脱硫(石灰石−石膏法)の条件と工程:環境省「石膏に係る基礎的知見」
- 石膏ボードの原料に占める排煙脱硫石膏:石膏ボード工業会「原料統計」
- 高炉スラグ微粉末の化学組成とJIS塩基度:佐川孝広「高炉スラグ微粉末の水和活性と体積変化に及ぼす化学組成の影響」コンクリート工学年次論文集 Vol.41、No.1(2019年)
- 塩基度と脱りん:宮田政樹ほか「CaO粉上吹き溶銑脱りん法の開発」日本製鉄技報 第414号(2019年)
- 転炉のMgO-C質れんが:筒井雄史ほか「転炉用MgO-C質れんが」日本製鉄技報 第415号(2020年)
- 耐火物の分類と使われる場所:コトバンク「耐火物」(世界大百科事典、日本大百科全書、百科事典マイペディアほか)、同「塩基性耐火物」(化学辞典 第2版)
- セメントの原料・焼成温度・クリンカー・石膏:コトバンク「セメント」(日本大百科全書、世界大百科事典ほか)
- 高炉スラグの発生とセメントへの利用:日本製鉄「鉄鋼スラグ製品 製造工程」
- ソーダ石灰ガラスの組成と用途:コトバンク「ソーダ石灰ガラスの一般組成」(日本大百科全書)、同「ソーダ石灰ガラス」
- 鉄鋼の酸洗い:コトバンク「硫酸」、同「塩酸」
- バイヤー法の工程:European Commission CORDIS「BRPR980728」プロジェクト概要
- ボーキサイト・アルミナ・アルミニウムの量の目安:U.S. Geological Survey「Mineral Commodity Summaries 2025: Bauxite and Alumina」
- ボーキサイト残さ(赤泥):International Aluminium Institute「Bauxite Residue」
- 亜鉛めっき鋼とpH:American Galvanizers Association「Galvanized Steel Performance – pH Curve」
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