σ結合(シグマ結合)は、2つの原子の軌道が結合の軸の上で正面から重なる強い結合で、π結合(パイ結合)は、軸に垂直なp軌道どうしが横に重なってできる弱い結合です。単結合はσ結合1本、二重結合はσ結合1本とπ結合1本、三重結合はσ結合1本とπ結合2本でできています。
構造式では二重結合を同じ線2本で描きますが、1本目と2本目は電子の居場所も強さもまったく違います。2本目のπ結合は軸の上下に電子が分かれて広がるため切れやすく、アルケンが臭素や水素とすぐ付加反応を起こすのも、二重結合のまわりで分子が回転できないのも、このπ結合が理由です。
単結合はすべてσ結合:軌道が正面から重なる
単結合は、どの原子の組み合わせでもすべてσ結合です。エタン(CH3–CH3)の炭素どうしの結合も、炭素と水素の結合も、エタノールの炭素と酸素や酸素と水素の結合も、2つの原子の軌道が結合の軸の上で向かい合って重なるという同じ形をしています。
正面から重なった軌道には電子が2個入り、その電子は2つの原子核を結ぶ線の上にいちばん多く集まります。両方の原子核が間の電子を強く引き合うので、σ結合は重なりが大きく、壊れにくい結合になります。
σ結合は軌道が軸の上で正面から重なり、π結合は軸に垂直なp軌道が横に重なって、軸の上と下に電子の雲ができます。
※●は原子核、破線は2つの原子核を結ぶ結合の軸です。π結合は上下2つの雲を合わせて1本の結合で、電子は2個入ります。
σ結合のもう1つの特徴は、軸のまわりに軌道の重なりが丸く対称に広がっていることです。片方の原子を軸のまわりに回しても重なり方は変わらないため、単結合でつながった原子団は自由に回転でき、エタンの回転のじゃまになるエネルギーはわずか12 kJ/molほどしかありません。
有機化合物の骨格をつくっているC–C結合とC–H結合は、ほとんどがこのσ結合です。ポリエチレンのように単結合だけでできた分子が、薬品にも熱にも比較的強いのは、強いσ結合が骨格のすべてを支えているからです。
二重結合・三重結合はσ結合とπ結合の組み合わせ
二重結合と三重結合も、1本目は単結合と同じσ結合で、2本目と3本目がπ結合です。π結合を説明するには、炭素がどの軌道を結合に使っているかを表す混成軌道の考え方を先に押さえておくと見通しがよくなります。
混成軌道 sp3・sp2・sp と結合の角度
炭素の価電子が入る軌道は2s軌道1つと2p軌道3つで、結合をつくるときはこれらが混ざり合って向きのそろった新しい軌道になります。混ぜる数によって、sp3、sp2、spの3種類があり、どれを使うかで分子の形と残るp軌道の数が決まります。
混成に使わなかったp軌道が、そのままπ結合の材料になります。sp2は1つ、spは2つのp軌道が残ります。
※角度は理想値です。実際の分子では結合相手の違いで少しずれ、エチレンのH–C–Cの角は121.2°(NIST CCCBDB の実測値)です。
単結合だけの炭素はsp3で、4本の結合が正四面体の頂点に向かうため、角度は109.5°になります。二重結合の炭素はsp2で、3本のσ結合が同じ平面の上に120°ずつ開き、その平面に垂直なp軌道が1つ余ります。
三重結合の炭素はspで、2本のσ結合が一直線に並び、互いに直角な向きのp軌道が2つ余ります。余ったp軌道の数が、そのままつくれるπ結合の本数になるので、混成の種類を見れば多重結合の数が分かります。
二重結合=σ結合1本+π結合1本
エチレン(CH2=CH2)では、2つのsp2炭素がσ結合で正面からつながり、それぞれに余った垂直なp軌道が横に並んで重なります。この横の重なりがπ結合で、電子2個が分子の面の上と下に分かれて雲のように広がります。
上の雲と下の雲は別々の結合ではなく、2つで1本のπ結合です。p軌道が横に重なるには2つのp軌道が平行にそろっていなければならないため、二重結合のまわりの6個の原子はすべて同じ平面に並び、エチレンは平らな分子になります。
三重結合=σ結合1本+π結合2本
アセチレン(HC≡CH)の2つのsp炭素は、σ結合1本に加えて、上下方向と前後方向のp軌道でπ結合を2本つくります。2本のπ結合は互いに直角に交わり、電子の雲は結合の軸を筒のように取り巻きます。σ結合の向きが一直線なので、分子全体は棒のような形です。
σ結合とπ結合の数え方
分子に含まれるσ結合とπ結合の数は、構造式の線を数えるだけで決まります。単結合・二重結合・三重結合を1本ずつ、次のように分けて足し合わせます。
σ結合とπ結合の違い
σ結合とπ結合の違いは、軌道の重なり方から始まり、強さ・回転・反応のしやすさまでつながっています。主な違いを表にまとめると、次のようになります。
| 比べる点 | σ結合 | π結合 |
|---|---|---|
| 軌道の重なり方 | 結合の軸の上で正面から | 軸に垂直なp軌道が横に |
| 電子のいる場所 | 2つの原子核を結ぶ線の上 | 軸の上と下(2本目は前と後ろ) |
| 重なりの大きさ・強さ | 大きく、強い | 小さく、σより弱い |
| 結合のまわりの回転 | 自由に回れる | 回るとπ結合が切れるので回れない |
| 反応のしやすさ | 切れにくい | 付加反応で開きやすい |
| 含まれる結合 | 単結合・二重結合・三重結合の1本目 | 二重結合の2本目、三重結合の2・3本目 |
結合の長さとエネルギーで比べる
π結合が加わるほど、炭素どうしを結ぶ電子が増えて原子核が強く引き寄せられ、結合は短くなります。実測の長さはエタンの単結合が153.6 pm、エチレンの二重結合が133.9 pm、アセチレンの三重結合が120.3 pmで、三重結合は単結合の8割ほどの長さしかありません。
結合の数が増えると、長さは短くなり、切るのに要るエネルギーは大きくなります。ただし2倍・3倍にはならず、増える分はσ結合1本より小さくなります。
※長さは各分子の実測値(NIST CCCBDB)、エネルギーは多くの分子の平均結合エネルギー(OpenStax Chemistry 2e)で、性格の違う値です。1 pm(ピコメートル)は1兆分の1メートル。
結合を切るのに要る平均結合エネルギーは、C–Cが345 kJ/mol、C=Cが611 kJ/mol、C≡Cが837 kJ/molです。二重結合は単結合の2倍の690 kJ/molには届かず、上乗せされた分、つまりπ結合1本ぶんはσ結合1本より小さいことが数字から読み取れます。
π結合の強さは見積もり方で値が変わり、平均結合エネルギーの差からは約266 kJ/mol(C≡CとC=Cの差なら約226 kJ/mol)になります。
教科書では、二重結合を回すのに要るエネルギーは少なくともπ結合の強さ以上だとして、約350 kJ/molという推定も紹介されています。どの見積もりでも、常温の熱運動のエネルギー(1 molあたり約2.5 kJ)よりはるかに大きいので、二重結合のまわりは回転できません。
π結合が回転を止める:シス・トランス異性
二重結合のまわりで片方の炭素を回そうとすると、平行にそろっていた2つのp軌道の向きがずれ、90°回ったところで横の重なりがなくなります。つまり回転するにはπ結合をいったん切らなければならず、常温の熱運動ではこの壁を越えられないため、二重結合はその場で固定されます。
メチル基(CH3)が二重結合の同じ側にあるのがシス形、反対側にあるのがトランス形です。π結合が回転を止めるので、2つは別の物質として取り出せます。
※分子式はどちらもC4H8で、原子のつながる順番も同じです。違うのは、二重結合をはさんだ原子団の向きだけです。
2-ブテン(CH3CH=CHCH3)には、2つのメチル基が二重結合の同じ側にあるシス形と、反対側にあるトランス形があり、自然には入れ替わりません。このように、つながり方は同じで二重結合をはさんだ向きだけが違う異性体をシス・トランス異性体(幾何異性体)と呼びます。
単結合だけのブタンでは、メチル基がどの向きにあっても結合がくるくる回るので、こうした区別は生まれません。シス・トランス異性は、二重結合の炭素それぞれに異なる2つの原子団が付いているときに現れ、片方の炭素に同じ原子団が2つ付いた1-ブテンには現れません。
σ結合とπ結合の反応性
化学反応では、分子どうしがぶつかって古い結合が切れ、新しい結合ができます。切れやすい結合を持つ分子ほど穏やかな条件で反応するので、σ結合とπ結合の強さの違いは、有機化合物の反応のしやすさの違いにそのまま表れます。
二重結合で付加反応が起きる理由
π結合の電子は原子核から離れた軸の上下に広がっているので、外から近づく分子にさらされやすく、相手から電子を求める試薬に攻撃されやすくなります。エチレンに臭素を加えると、触媒がなくても常温ですぐにπ結合が開き、2個の臭素原子が二重結合の両側の炭素に1個ずつ付きます。
付加反応が進みやすいのは、弱いπ結合1本を手放して、強いσ結合を2本手に入れる取引になっているからです。エチレンの水素化を平均結合エネルギーで見積もると、熱を出す方向に進む反応だと計算でき、NISTの生成エンタルピーから求めた実測値ともよく合います。
ただし熱を出す反応でも、すぐ進むとは限らず、水素の付加は触媒がないとほとんど進みません。π結合の弱さは反応の向きを決め、触媒・開始剤・光は反応の速さを決めると分けて考えると、現場の条件設定が理解しやすくなります。反応熱の考え方はエンタルピーの解説でも扱っています。
| 反応 | C=Cに起きること | 必要な条件 | 主な使い道 |
|---|---|---|---|
| 臭素の付加 | π結合が開きBrが2個付く | 触媒なし・常温 | 二重結合の検出 |
| 水素の付加(水素化) | π結合が開きHが2個付く | 白金・パラジウムなどの金属触媒 | 油脂の硬化、不飽和結合の除去 |
| 付加重合 | π結合が開いて隣のモノマーとσ結合でつながる | 熱や触媒で働く開始剤 | ポリエチレン・ポリ塩化ビニルなどの樹脂 |
| UV硬化 | アクリル基のC=Cが開いて網目になる | 紫外線+光開始剤 | 塗料・インキ・接着剤・光造形 |
σ結合だけの分子が反応するとき
σ結合だけでできた分子でも、反応しないわけではありません。エタノールはC–C、C–H、C–O、O–Hがすべてσ結合ですが、酸素と結びついた極性の大きいC–O結合とO–H結合が反応の入口になり、ナトリウムとは常温で水素を出して反応します。
一方、エタノールから水を取り除いてエチレンにする脱水には、濃硫酸と高い温度が必要です。強いσ結合を切って組み替える反応は、π結合を開く付加反応より強い試薬や厳しい条件を要することが多く、極性の違いは極性分子と無極性分子の見分け方で詳しく整理しています。
π結合は炭素どうしだけでなく、炭素と酸素の二重結合にもあります。アルデヒドやケトンのC=Oは、酸素が電子を引き寄せて炭素側がプラスに傾いているので、付加の起こり方がC=Cとは逆向きになり、その違いはカルボニル基の性質と見分け方で確かめられます。
ここまでのπ結合の性質、つまり開きやすいこと、回転を止めること、電子が広がりやすいことは、教科書の中だけの話ではありません。樹脂の重合、塗料の硬化、色素や電子材料、食用油の加工では、π結合をどう開くか、どう残すかが製品の性質を決めています。
樹脂工場では:π結合が開いてポリマーになる
ポリエチレンやポリ塩化ビニルは、二重結合を持つ小さな分子(モノマー)のπ結合を次々に開き、σ結合で長くつなげてつくります。この反応を付加重合と呼び、モノマー1個につきπ結合1本がσ結合に置き換わります。
重合を始めるのは、熱で分解してラジカル(不対電子を持つ活性な原子団)を生む開始剤や、チーグラー・ナッタ触媒などの金属触媒です。ラジカルがモノマーのπ結合の電子1個を受け取ってσ結合をつくると、反対側の炭素に新しいラジカルが生まれ、同じことが連鎖して鎖が伸びていきます。
付加重合もUV硬化も、開始剤が生んだラジカルがC=Cのπ結合を開き、それが連鎖する点は同じです。違うのは開始のきっかけが熱か光かと、できるのが1本の鎖か網目かです。
※ポリエチレンにはチーグラー・ナッタ触媒などの金属触媒でつくる方法も多く、その場合はラジカルではなく触媒の上でC=Cが1個ずつ挿入されて鎖が伸びます。
付加重合はπ結合がσ結合に変わる分だけ熱を出すので、反応器では温度を一定に保つための除熱が設計の中心になります。冷却が追いつかないと反応がさらに速まって温度が上がる悪循環が起き、こうした事故の型と対策は化学プラントの暴走反応事故から学ぶでまとめています。
原料のエチレンは原油の分留で得たナフサを分解してつくられ、国内ではエチレン設備の集約が進んでいます。設備の再編が樹脂ユーザーに与える影響は西日本のエチレン集約の記事で、ポリマーを原料に戻す取り組みはプラスチックのケミカルリサイクルで読めます。
付加重合でできたポリエチレンの主鎖は強いσ結合だけでつながっているので、自然の中でも微生物にほとんど分解されません。主鎖に切れやすいエステル結合などを組み込んで分解されやすくした素材は、生分解性ポリマーの種類と用途で整理しています。
UV硬化樹脂:アクリル基のC=Cが光で網目になる

塗料・インキ・接着剤・光造形で使うUV硬化樹脂も、C=Cのπ結合が開いて固まります。液体の中にはアクリル基(CH2=CH–CO–O–)を持つモノマーやオリゴマーと光開始剤が入っていて、紫外線を当てると光開始剤が分解してラジカルを生み、C=Cの連鎖反応が一気に進みます。
1分子にアクリル基を2つ以上持つ成分を混ぜると、鎖どうしが何か所もつながって立体の網目になり、液体はさらさらの状態から固い膜へ変わります。網目の細かさで硬さや耐溶剤性、密着の強さが変わるので、配合の設計ではアクリル基の数と量を調整します。
ラジカルで進むUV硬化には光開始剤が欠かせず、電子線(EB)で硬化させる場合は開始剤がなくても反応が始まります。光で固まる・溶ける材料のしくみと半導体のフォトレジストまでの使われ方は感光性高分子の解説で、光造形の方式の違いは樹脂3Dプリンターの方式比較で整理しています。
同じアクリル系でも、アクリル酸ナトリウムを重合した紙おむつの吸水材は、C=Cの付加重合でつくった鎖を少しだけ架橋して水を抱え込む構造です。重合と架橋のさじ加減で性質が大きく変わる例は高吸水性ポリマーのしくみで確かめられます。
共役したπ電子が生む色と電気:色素・導電性高分子・グラフェン
単結合と二重結合が1つおきに並ぶと、隣り合うπ結合のp軌道どうしも横に重なり、π電子が1か所にとどまらず長い範囲に広がります。この並び方を共役と呼び、共役が長くなるほど、π電子は少ないエネルギーで動けるようになります。
動きやすいπ電子は、エネルギーの小さい光、つまり波長の長い光を吸収するようになります。にんじんの橙色のもとであるβ-カロテンは11個の二重結合が共役していて、波長455 nm付近の青い光を吸収するため、残りの光が黄色から橙色に見えます。
π電子が広がる範囲が長くなると、光の吸収と電気の運び方の両方に変化が現れます。導電性高分子では、共役に加えてドーピングで電子を出し入れすることが欠かせません。
※β-カロテンの吸収波長は OpenStax Organic Chemistry、ポリアセチレンとグラフェンはノーベル財団の公表資料による。
染料や顔料の色も、共役π電子系の長さと、そこに付く原子団で決まります。ベンゼン環どうしをN=Nでつないで共役を延ばしたアゾ染料はその代表で、つくり方と色の出るしくみはジアゾカップリングとアゾ染料で詳しく扱っています。
導電性高分子:共役とドーピングの2つがそろって電気を通す
プラスチックは電気を通さないという常識を変えたのが、2000年のノーベル化学賞を受けた白川英樹、ヒーガー、マクダイアミッドの3氏による導電性高分子の発見です。
白川氏は1970年代初めにポリアセチレンを銀色の薄い膜としてつくる方法を見つけ、1977年にヨウ素で処理すると導電率が1000万倍に上がることが確かめられました。
ノーベル財団の一般向け解説は、発見の経緯を述べる箇所で「1000万倍」、冒頭の要約では「10億倍」と書いており、本記事は経緯と授賞式のスピーチに共通する1000万倍を使っています。
ノーベル財団の解説は、電気を通す第一の条件を共役二重結合としながら、それだけでは足りないと書いています。ヨウ素が鎖から電子を抜き取ると、電子の抜けた穴が共役した鎖に沿って動けるようになり、この電子の出し入れをドーピングと呼びます。
現在では、ポリチオフェン系やポリアニリン系の導電性高分子が、写真フィルムやカーペットの帯電防止、発光する有機ELの材料などに使われています。π電子が広がった炭素材料として、同じ炭素からなるダイヤモンドや黒鉛との違いは同素体と同位体の違いでも整理しています。
グラフェンとカーボンナノチューブ
黒鉛を1層だけはがしたグラフェンは、sp2炭素が六角形の網目に並んだ厚さ原子1個のシートで、2010年のノーベル物理学賞の対象になりました。面に垂直なp軌道がすべて横につながり、π電子がシート全体に広がっているので、ドープしなくても銅に並ぶほど電気をよく通します。
このシートを筒状に丸めたものがカーボンナノチューブで、π電子が筒の表面全体に広がり、軽くて電気をよく通す炭素材料として応用が進んでいます。黒鉛の層と層は弱い力で重なっているだけで、結晶としての性質の違いは共有結合の結晶と分子結晶の違いの章で比べています。
食品の油脂では:水素添加とトランス脂肪酸
シス・トランス異性がいちばん身近に現れるのが、食用油の脂肪酸です。オリーブ油や大豆油に多い不飽和脂肪酸は炭素の鎖の途中に二重結合を持ち、天然のものはほとんどが水素が二重結合の同じ側に並ぶシス形です。
シス形の二重結合のところで鎖が折れ曲がるため、分子どうしがきれいに並べず、不飽和脂肪酸の多い油は常温で液体になります。マーガリンやショートニングをつくるときは、液体の植物油に金属触媒で水素を付加して二重結合を減らし、鎖をまっすぐにして半固体や固体に変えます。
問題になったのは、この部分水素添加の途中で、残った二重結合がいったん開いて閉じ直し、トランス形に変わってしまうことです。農林水産省によれば、トランス脂肪酸は部分水素添加した油脂のほか、においを取る高温処理や、牛や羊の胃の微生物によってもできます。
WHOとFAOの専門家会合は、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満にするよう勧告しました(2003年)。
日本人の平均的な摂取量は、食品安全委員会の評価で総エネルギーの約0.3%と推定され、それを下回るとされています。米国では、トランス脂肪酸そのものではなく、トランス形を生む原因になる部分水素添加油脂の食品への使用が規制されています。
油脂の水素添加も樹脂の付加重合も、C=Cのπ結合を開くという点では同じ種類の反応です。触媒と条件の選び方で、π結合をどこまで開き、どの形で残すかを決めているのが、化学工業の現場での付加反応の使い方です。
σ結合とπ結合のよくある質問
σとπという名前は何に由来しますか?
原子の軌道のsとpに対応するギリシャ文字から来ています。結合の軸の方向から見るとσ結合はs軌道のように丸く、π結合はp軌道のように2つに分かれた形に見えるため、sに当たるσ、pに当たるπの名前が付けられました。
ベンゼンにはπ結合がいくつありますか?
構造式の上では二重結合3本ぶん、π電子6個を持ちます(くわしくはベンゼン環の構造)。ただしその電子は3か所に固定されず、6個の炭素の環全体に広がっているので、6本の炭素どうしの結合はすべて同じ長さになり、ふつうの二重結合より付加反応を起こしにくい性質を持ちます。
窒素分子N2の三重結合も、σ結合1本とπ結合2本ですか?
そうです。窒素分子も原子2個がσ結合1本とπ結合2本で結ばれ、平均結合エネルギーは946 kJ/molとC≡Cの837 kJ/molより大きく、切れにくい結合です。空気中の窒素からアンモニアをつくるのに高温・高圧と鉄触媒が要るのは、この三重結合の強さのためです。
π結合があれば必ずシス・トランス異性体がありますか?
ありません。二重結合の両側の炭素に、それぞれ異なる2つの原子団が付いているときだけ現れます。エチレンや1-ブテンのように片方の炭素に水素が2つ付いた分子や、直線形の三重結合には、シス・トランス異性体はありません。
まとめ
- σ結合は軌道が結合の軸の上で正面から重なる強い結合、π結合は軸に垂直なp軌道が横に重なる弱い結合
- 単結合はσ1本、二重結合はσ1本+π1本、三重結合はσ1本+π2本。sp3は109.5°、sp2は120°、spは180°で、残ったp軌道がπ結合になる
- 結合の長さは153.6→133.9→120.3 pmと短くなるが、平均結合エネルギーは345→611→837 kJ/molで、π結合1本ぶんはσ結合1本より小さい
- π結合は回転を止めるのでシス・トランス異性体ができ、弱いπ結合を手放して強いσ結合2本を得る付加反応が起きやすい
- 付加重合とUV硬化はC=Cのπ結合を開いて樹脂や硬化膜をつくる反応で、共役π電子は色素の色や導電性高分子の電気伝導を生む
- 食用油の部分水素添加では、残った二重結合がシス形からトランス形に変わり、トランス脂肪酸ができる
構造式に引く2本目の線がπ結合だと分かると、アルケンがすぐ臭素と反応する理由も、樹脂がモノマーから一気に固まる理由も、同じ1つの性質として説明できるようになります。結合の種類を見分けることは、反応の条件や材料の性質を読み解く最初の手がかりです。
化学物質と樹脂の業界全体の動きは化学業界の市場規模で、塩ビの最大手の事業構造は信越化学工業の強みで読めます。
出典
出典・参考資料(10件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 結合の長さ・角度:NIST Computational Chemistry Comparison and Benchmark Database(CCCBDB)「Ethane」、「Ethylene」、「Acetylene」
- 平均結合エネルギー:OpenStax「Chemistry 2e」7.5 Strengths of Ionic and Covalent Bonds
- 二重結合の回転障壁・エタンの回転障壁・シス・トランス異性:OpenStax「Organic Chemistry」7.4 Cis–Trans Isomerism in Alkenes
- アルケンの水素化・油脂の水素添加:OpenStax「Organic Chemistry」8.6 Reduction of Alkenes: Hydrogenation
- 共役と色・β-カロテン:OpenStax「Organic Chemistry」14.9 Conjugation, Color, and the Chemistry of Vision
- 生成エンタルピー:NIST Chemistry WebBook「Ethylene」、「Ethane」
- 導電性高分子:The Nobel Prize「The Nobel Prize in Chemistry 2000 – Popular information」、「Award ceremony speech」
- グラフェン:The Nobel Prize「The Nobel Prize in Physics 2010 – Press release」
- UV硬化と電子線硬化:UV+EB Technology「Comparing EB and UV: Common Questions」
- トランス脂肪酸:農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」
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